第143話 これからの話
今日も今日とて、剛志は横浜第三ダンジョンの地下60階層に来ていた。最近では戦闘はすべてイチロイドに任せており、剛志自身はどのようなゴーレムを作るかを考えたり、どんどんゴーレムを作ることをメインにしており、完全分業制になっている。
もともと、自ら戦闘をするのは得意ではなかった剛志だが、そこをゴーレムの数によって補ってきた。それが今や、数だけでなく戦術などもイチロイドのおかげでレベルアップしており、どんどんと死角がなくなってきている。
これは良い傾向なのだが、イチロイドがいなくなったときに何もできなくならないか少し心配でもある。しかし、ゴーレムがいなくなったら何もできないのは、ゴーレム使いにとっては当たり前すぎるので、考えるだけ無駄だろう。
少し話が逸れたが、初めに言ったように今、剛志はダンジョンをいつものように探索中だ。いつもと違うのは、今日は万葉が妹の百花のところに行っており、臼杵とイチロイドと剛志の三人での探索というところか。
現在、横浜第三ダンジョンの地下63階層が剛志たちの最高記録なので、今日もそこまではマッピングに沿って移動をしていき、地下63階層でゴーレム作成なんかもやるつもりだ。
移動方法は、イチロイドが操るヘキサボードに乗っての移動なので、剛志と臼杵はやることがない。そのため今は雑談をしていた。
「剛志、そういえばダンジョンの壁作成だけど、そろそろ完了だよな。全部でいくつになるんだっけ?」
「え、数? 覚えてないな……」
「『全部で725個になります。日本にある観測済みのダンジョン総数は726個あり、そのうち新宿ダンジョンを除く725個がスタンピードを起こしました』」
「ああ、そうだった。でも俺、そんな数のダンジョンに壁作ったんだな。だいたい半年いかないくらいか。そう考えるととんでもないね。正直、ゴーレムたちにやってもらっていただけだから、あまり実感わかないけど」
後半は、剛志自身がウッドカーペンターゴーレムを作成することもなくなり、一定のペースで壁を作り続けるだけの作業だったので、剛志としてもあまり印象にないのが正直なところだろう。他の出来事が濃かったため、毎日ダンジョンに移動してはゴーレムたちを働かせていたのだが、ただのルーティンみたいなものになってしまっていたということだ。
「まあ、俺の護衛依頼もそもそもはダンジョンの壁作成中に剛志が狙われないようにっていう契約だったから、契約上は壁作成が終わると護衛解除にはなるな。まあ、ここまで関わったってのもあるし、今の状況が居心地がいいから続けるが、給金はなくなるな。そうするとどうやって稼ぐかって話にはなりそうだ」
臼杵にそう言われて、剛志はハッとした。確かにすでに仲間となっている剛志、万葉、臼杵の三人だが、いまだに護衛と護衛対象という関係に違いはなかった。しかしこの関係性は、あくまで壁作成までのものなので、護衛を終えた後は一度真剣に考える必要があるのだ。
「うわ、俺そのことあんまり考えていなかったよ。普通のパーティーってどういう感じなんだろう」
「そうだな、一般的なパーティーだと探索で手に入れたアイテムなんかの報酬を山分けとかかな。でも現状、剛志の稼ぎって正直異常値だし、今の探索ペースに俺が入ってもあまり意味がないだろ。そうなるとその報酬を山分けってのは少し違う気がするんだよな」
臼杵が言うように、一般的な探索者からすると、剛志のようにほぼ無限の労働力と無限に回収できるアイテムボックスを持つ存在は、それだけで異常なまでの稼ぎをたたき出している。
いまでこそゴーレムを作るために魔石はすべて回収してしまっているが、魔石の一般的な買取額は1MP相当で5円だ。そして現在、剛志が一日に稼いでいる魔石の総MP量はだいたい3,000,000MPにも上る。そうすると単純計算で、税金分を引いても12,000,000円にも上る。
これは、もっと深い階層を潜るトップ探索者にも引けを取らない数字であり、これに対して特に活躍をしていない臼杵が等分でもらうのは気が引けるというわけだ。
臼杵自身、かなりの戦闘力を誇っているので戦闘に参加できないわけではないが、剛志の戦い方的に別に必要ないというのが正直なところだ。そうなると今後のパーティー内での役割があまりなく、自身もそろそろ戦闘に参加したいというのも臼杵の本心ではある。
「うーん、俺としては別に臼杵と宮本さんと俺で等分でも良いと思うんだけどね。戦闘は俺自身、イチロイドにまかせっきりになっちゃったし、状況は同じじゃない?」
「いや、同じではないだろ。イチロイドもイチロイドが操るゴーレムも、剛志の力だろ」
「うーん、そう言われるとそうなんだけど……」
ダンジョンの壁作成でかなりの金額を稼いだ剛志は、正直、今お金にあまり執着がなくなってしまっていた。もともと副業で稼ぐために探索者になったにも関わらず、想像よりもはるかに高い金額を稼げるようになったのと同時に、ダンジョン探索に魅入られてしまい、お金の使いどころがなくなってしまっていたのだ。
「うーん、そうだね。まあ壁作成が終わるまであと一週間くらいあるし、宮本さんが戻ってきたときに一緒に話そうよ」
「確かに、そうだな。俺もそれまでにちょっと考えておくわ」
そう言って、この会話は終わった。あまり今まで真剣に考えてきていなかったことだが、これからの関係性を良いものにしていくためにも必要なやり取りなので、剛志もしっかりと考えないとなと思うのだった。
そうこうしているうちに、目的の地下63階層に着いた一行。いつものように階段付近に簡易的にイスなどを置いて拠点を作成し、イチロイドにゴーレムたちを任せ、剛志はゴーレム作成に入る。その横で臼杵は特にやることがなくなってしまったので、手持無沙汰になっていた。
「剛志、俺もなんかやることないか? 万葉ちゃんみたいにイチロイドに稽古つけるとかさ。護衛だからお前さんのそばを離れないようにしていたけど、正直暇なんだよね」
「そうだよね。俺もできれば臼杵にもイチロイドに稽古をつけてほしいとは思ってたんだけど、どうしようかね。まあ、宮本さんいないけどイチロイドが俺のこと守ってくれるか! それに臼杵の近くにいればそれでいい気がする! じゃあ、臼杵もイチロイドに稽古つけてくれない?」
「ああ、任せとけ! それにイチロイドだけに護衛は任せないぜ。俺も雪分身を置いていくから、何かあったときはしっかりとお前を守るからな」
そう言って臼杵は雪分身を作成した。それまでの行動の速さから、最初から考えていたのだろうと思う。まあ最近は臼杵は剛志の護衛ばかりであまりやることもなかったため、かなりストレスもたまっていたのだろう。これで少しリフレッシュしてくれたら、そっちの方が良いと思う剛志だった。
そして今度は臼杵に稽古をつけてもらうために、大量のメイジ系列のゴーレムを作成した剛志は、イチロイドにそのゴーレムたちを預け、臼杵に稽古をつけてもらうことにした。
視界の端でゴーレムたちに稽古をつける臼杵を見ながら、剛志は残った本体のイチロイドと会話している。
「最近は結構順調だと思うんだけど、そろそろこの階層も攻略したいよね。戦力的にはどう?」
「『そうですね。攻撃手段が基本メイジたちの集団魔法なので、数を増やせば対応可能です。ただ、そろそろより強力なメイジを作っていただけると、運用に必要な数が減るのでありがたいです』」
「そうか、じゃあ強いメイジを作るためにも、魔石集めとレベル上げを頑張りますか!」
「『結論そうなりますね。マスター、私から一つ提案があります。レベル上げとアイテム回収で一つ効率の良い方法があるのですが、聞いていただけませんか?』」
「いいよ、どんな方法?」
そうしてイチロイドから方法を聞いた剛志は、そんな方法があったのかと驚愕した。
聞いてみるとかなりシンプルだし、なぜ思いつかなかったのかと反省するほどの内容なのだが、なぜか剛志は思いつかなかった。そして剛志は、イチロイドから提案された方法を実行するべく、必要なものを洗い出すのだった。
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