第142話 万葉vsイチロイド【模擬戦】
横浜第三ダンジョンの地下60階層にて、ダンジョン探索を開始した剛志たちは、今日も今日とてダンジョンに潜っていた。
少し前から行っている万葉によるサムライゴーレムへの修業は、今日も行われている。
肝心のダンジョン探索も、イチロイドの分体たちが主導で行ってくれているので、剛志はその間もどんどんゴーレムを作ることができるようになり、戦力強化のスピードは今までと段違いだ。
「はあ!」
そう気合の入った声でイチロイドに切りかかる万葉。それを冷静に刀で受け流すイチロイド。そう、スキルなしという縛りはあるものの、ちゃんと手加減した万葉の攻撃をイチロイドはいなすことができるまでに成長しているのだ。
今のサムライゴーレムの総数は、剛志がどんどん作ったことにより300体を超えている。そのすべての動きを統率し、そのうえすべてからフィードバックを得ているイチロイドの成長速度はすさまじく、万葉も少し焦りを感じるほどらしい。
「イチ君、かなり刀捌きがうまくなったわね。これだったらそこらの探索者よりも強いんじゃないの?」
「『そうですか? ありがとうございます。それでもステータスを抑えたうえでスキルなしの縛りをしてもらって何とかという感じですからね。まだまだです』」
「これでも日本では最強の剣士ですからね。そうやすやすと負けるわけにはいかないわよ」
そう言って水筒で水分補給を行う万葉。今までの護衛と異なり、時間内いっぱいで可能な限り体を動かし鍛錬に励んでいるため、さすがに大量の汗をかいており水分補給が必要なようだ。
ちなみにイチ君というのは、万葉がイチロイドのことを呼ぶときの呼び名みたいなものだ。いつの間にかそう呼んでいたのだが、イチロイド自身も別に呼び名は何でもよいらしく、そのまま続いている。
「『では、次はこちらも本気で行きます』」
「望むところよ!」
そう言ってまたしても向かい合う両者。しかし今回はさっきとは異なる。イチロイドの側に、サムライゴーレムが20体ほどいるのだ。今回は多対一での模擬戦のようだ。
「宮本さん! コア以外なら修復可能だから、そこだけ気を付けて!」
「わかったわ」
剛志が、万葉が思いっきりやれるようにとアドバイスを投げると、それを聞いたイチロイドが「なんで!」というようにショックを受けたようなジェスチャーをする。
イチロイド的には理不尽な気持ちになるかもしれないが、ぬるま湯だと経験にならないとの判断で、剛志は万葉にそう伝えたのだ。
「『なるほど、これは難しい戦いになりそうですね。全力を尽くします』」
そうイチロイドがつぶやいた次の瞬間、両者の戦いは始まった。
まず、イチロイドの指示のもとサムライゴーレムたちが万葉のもとに駆け出す。剛志のレベルも上がっており、それなりに優秀なステータスのサムライゴーレムだが、万葉の速度の前ではそんなものまったく意味をなさない。
今回、ステータスの手加減をなくした万葉は、目にも止まらぬ速さで手前のイチロイドの前に立ち、袈裟斬りを繰り出した。
本来であれば速度値の差で一方的にやられるはずの、イチロイド操るサムライゴーレムなのだが、起こった現状は皆の想像を超えた。なんとサムライゴーレムは万葉の斬撃を刀で受け流したのだ。
本来の万葉が使っている武器だった場合、武器の性能差のせいでこのようにはできなかったのだろうが、今回は剛志が支給している同一タイプの刀を使用している。そのため、かなりの刃こぼれはあったようだが、刀の破壊までは至らなかったのだ。
まさか自分の斬撃が受け流されるとは思ってもみなかった万葉が、あっけに取られている間に、イチロイドは次の一手に出る。斬撃を受け流したサムライゴーレムの横に、なぜか既に存在していた二体のサムライゴーレムが、左右から微妙にタイミングをずらして万葉に切りかかった。
一瞬驚き、体が固まっていた万葉だが、そこは日本最強格の探索者だ。左右から襲いかかってくる刀を認識した次の瞬間、一瞬でとてつもない速度を持ってその場から姿を消す。その速度はなんと音速を超え、周囲に衝撃波を与えるほどのものだった。
衝撃波によって吹き飛ばされたサムライゴーレム。何とか受け身を取れた個体と、そうでない個体がいるのが見て取れる。これは吹き飛ばされるという経験が少ないイチロイドが、まだうまく受け身を取らせられなかったのだろう。そんなことを、自身も衝撃波の余波を受けて耐えるように姿勢を傾けていた剛志は考えていた。
「はは、さすが万葉ちゃんは規格外だぜ。あいつ、音速を超えて逃げやがった。剛志、人間ってそんなこと可能なんだな」
そう臼杵が若干現実逃避気味に剛志に話しかける。それを聞いた剛志は、戦闘の中身に集中しすぎて理解できていなかったため、臼杵の発言に驚いていた。
「あ、そうか! 確かに。今のって音速を超えたことによる衝撃波ってことか。えぐいね」
剛志と臼杵が万葉に対して若干の恐れを抱いたその時、万葉もイチロイドに対して恐れを抱いていた。
「今のは、私の負けね。イチ君と私の条件が同じだったら私が負けてたわ。別に元々ただの大学生で、剣術に優れていたわけじゃないけど、これでも結構経験を積んできた自負はあったから、こんなにあっさり技術で上回れるなんて思わなかったわ」
「『いえ、万葉さんの強さはその強力なステータスとスキルありきのものです。なので、単純な技量という意味では、スキルの使用や運用方法などによる部分も重要ファクターです。私はあくまでスキル以外の部分を学ばせていただいているだけなので』」
そんな謙遜のようなことを言うイチロイド。その後も言葉は少なく、すぐに模擬戦が再開される。
万葉は、最初の一回で警戒度を上げたのか、そこからは終始攻め続ける形で、イチロイド操るサムライゴーレムたちを圧倒する。しかし、それに食らいつくようにサムライゴーレムもやられっぱなしではなく、果敢に攻撃を挑んではいた。
四方八方から切りかかられていても、そのすべてを踊るようによけ、時にははじく万葉の戦闘はすさまじく、見ているだけで感動するレベルだ。そんな中、普通のサムライゴーレムに交じって動いていたイチロイドが仕掛ける。
万葉の後ろに移動していたイチロイドは、今まではサムライゴーレムと同等のステータスでしか動いていなかったのだが、万葉の死角に入ったタイミングで自身のステータスを最大限に生かした突きを放った。
サムライゴーレムよりも圧倒的に高いイチロイドのステータスをもって放たれた突きは、その存在を認識していた剛志でさえ、一瞬その緩急によって動きを見失ったほどだ。
しかし、そんなイチロイドの一手をもってしても、万葉には攻撃を当てることはかなわなかった。その動きを察知していたかのように万葉が体を斜めに傾け、死角からの攻撃をあっさり避けてしまったのだ。そしてそのまま回転してイチロイドに向いた万葉は、そのままの勢いでイチロイドを刀で弾き飛ばした。これにて決着だ。
イチロイドは外装が少し破壊されていたが、コアは無事だった。この辺の力加減も、万葉レベルであれば信用できる。剛志はさっそく材料を用いて、サムライゴーレムたちを修復しだし、イチロイドはそのままいつものミニサンドゴーレムの姿に戻っていた。
「思ったより強くなってて、びっくりしたわ。でもイチ君、どうやって私の攻撃を避けたりしてるの? さすがに速度差がありすぎるから、反応できないと思ってたのに」
「『ああ、それは万葉さんだから可能なだけですね。私は現在、万葉さんの戦闘パターンや、普段の言動等から性格、考え方などのいくつもの情報を持っております。それらの情報をもとに、万葉さんがするであろう行動の予測を行い、それに合わせる形で動かしていました。なので、実際には万葉さんが動く前からこちらが動き出しており、それでどうにか間に合わせていたという感じですね』」
「なるほど、人工知能ならではのやり方かしらね。私たちもある程度予測したりなんかはできるけど、その精度がイチ君レベルだととんでもないということはわかったわ」
剛志も知らなかったイチロイドの戦い方を、今回の件で理解した。元々そのように作られているイチロイドは、物事を予測したりするのが得意分野なのだろう。だが、たった数日で万葉からここまで学ぶことができるという事実。自身の戦力ではあるのだが、末恐ろしいものがあるな――そう感じた剛志だった。
「イチ君がここまで戦えるなら、私も百花の方に行くのも安心していけるわね」
「ああ、この前言っていた百花ちゃんの件ですね。そろそろでしたっけ?」
「ええ、もうそろそろ病院や組合から許可が下りるって聞いてるわ。そうなったら、まずはあの子のレベリングを手伝って、日常生活を送れるようにしてあげたいわね。剛志の護衛を定期的に抜けることになるのは心配だったのだけど、イチ君がいるから安心していけるわ」
「おいおい、イチロイドの前に俺がいるだろ、俺が!」
「ふふ、そうだったわね」
「百花ちゃんの件は、俺たちも気にしていたので。こっちのことは気にせずに、行ってあげてください。イチロイドの分体と桃花ちゃんのサポート用のゴーレムを何体か付けますので」
「剛志、ありがとう」
そうして、その日の残りはいつものようにダンジョンで経験値と魔石を確保し、帰路につくのだった。
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