第140話 分体生成
地下9階層のボスを難なくクリアしたイチロイドの快進撃は、それからも続いた。そのまま基本的には魔物との戦闘を避けて、どんどん深層に潜っていくイチロイド。
彼の操るヘキサボードに乗った剛志たちは、初めこそ周囲を警戒していたものの、やがて問題ないことがわかると雑談を始めるほどにはくつろいでいた。
そうこうしているうちに、あっという間に地下50階までやってきた剛志一行。ここまでかかった時間は、なんと2時間ちょっとだ。戦力が十分だというのもあったが、イチロイドが階段までほとんど一直線に進み、無駄なく動いたため、このような結果になった。ここが今回の目的地だ。
「さすがに早いな。もう着いちまったのか」
そういう臼杵の発言に、胸を張って自慢げなイチロイド。そんなイチロイドの姿を見て、ひそかにファンになっている万葉が小さくつぶやいている。
「やば、何あのジェスチャー。可愛すぎるんだけど…」
万葉は以前、馬型のゴーレムに乗った際も一人だけそのゴーレムに愛着を抱いていた。普段のキリッとしたしっかり者といった感じとは裏腹に、中身は普通の女の子のようにかわいいもの好きなのだろう。
そんなことをぼんやりと考えていた剛志だったが、さすがにそれを指摘しないだけの良心はあるため、気づいていないふりをしてあげていた。
そんなどことなく緊張感のない剛志一行だが、それもこれもイチロイドが思ったよりも優秀だったことが原因だろう。本来なら苦労するはずの人工知能ゴーレムの作成を、まさかの産物として生まれたイチロイドが一気に解決してしまっているような感じだ。
それでも今回の目的はイチロイドの実地試験なので、このまま当初の目的を進めることにする。
「イチロイド、ようやく地下50階層に来たな。ここからはまた一気に敵が強くなっていくから、気を引き締めていけよ。とりあえずは次回以降に東雲教授も来れるように、地下59階のボス部屋を目指すでいいとは思うけど、今回は魔物を避けるのではなく積極的に倒す感じで行こう。じゃあ、ゴーレムは何を召喚すればいい?」
「『そうですね。今回の目的は私の実地試験とのことでしたが、今回の探索はマスターの経験値や材料集めも兼ねますか? それともそこまではせずに、この人数だけで行動しますか?』」
剛志の問いに対し、自ら複数案を挙げるイチロイド。これも普通にとんでもないことだ。それを横で東雲教授が真剣にメモを取っているのを横目に、剛志はイチロイドに回答する。
「そうだな。せっかくだし、経験値や素材集めも兼ねる感じでお願いしようかな。今後は本来、そっちをお願いすることになると思うからね」
「『かしこまりました。では、それで作戦を立てます。まず召喚していただきたいゴーレムは、ターボゴーレムを装着したランサーゴーレムですね。これを全部で200機お願いします。』」
「了解。でもランサーたちだけで良いの?」
「『はい、移動速度が違うので今回はランサーだけで良いと思っています。あとは私とその分体が装着する用のターボゴーレムを10組用意してくれますか?』」
そういってイチロイドは剛志にターボゴーレムをお願いした後、地面に手をつき砂を集めて自分の分体を合計9体作り出した。分体生成のスキルだ。
あっという間に合計10体になったイチロイド。そのすべてが、両手両足と背中にターボゴーレムを装着する。イチロイド飛行モード×10の完成だ。
分体生成を使えることはわかっていたものの、使われる場面を見たのは初めてだったので、「おお!」と歓声を上げる剛志。そんな剛志に対し、イチロイドが話し出す。
「『『『『『『『『『『では、さっそく魔物狩りに行ってきます』』』』』』』』』』」
重なった念話に驚いた剛志は、すかさずイチロイドにお願いする。
「うるさ! イチロイド、一斉に話しかけるのやめてくれない? さすがにびっくりする」
「『なるほど、そういうことですね。承知いたしました』」
そういって10体が一斉にぺこりと頭を下げた。それを見た万葉が小さな歓声を上げたことは無視して、剛志はイチロイドと会話を続ける。
「じゃあ、取り敢えず俺はこのタブレットで確認しとくから、この階層の魔物たちを倒してドロップアイテムを回収してきてくれ」
そう剛志が指示を出すと、イチロイドたちはいっせいに頷き、そのままランサーゴーレムたちを引き連れて索敵に出ていった。
その様子を手元のタブレットで確認する剛志とその一行。この、どちらかというといつもの行動を初めて見た東雲教授は、疑問に思ったようで質問を投げかける。
「わざわざタブレットで確認する必要あるのかい? あとでイチロイドたちから情報をもらえばそれで済むと思うのだが」
「ああ、これは経験値獲得のためですよ。同じ階層内なら、タブレットを通してでも目視していれば経験値が取得できるので。いつもこうやっているのですが、初めての人には不思議な光景なんですかね?」
東雲教授でも、知らないことはあるようで、剛志の説明を聞き、初耳だというような反応を見せる。まあ、剛志ほど大量のゴーレムを扱っている人はいないため、あまり活用方法のないマイナーな知識なのだろう。
そんな一幕もありながらも、今のイチロイドたちはランサーゴーレムを操り、各地で戦闘を繰り広げていた。
空を飛んでくるワイバーン相手に、完璧に制御されたランサーゴーレムたちが、ワイバーンに有効打を与える。イチロイドの完璧な制御のお陰で、ワイバーンの攻撃を避けたランサーゴーレムと入れ替わるように、別のランサーゴーレムが側面からワイバーンの腹を削り取ったのだ。
そして一度弱ったら、あとは簡単だ。チクチクと中距離から攻撃を当てつつ、相手のスキをついて、敵の死角に移動していた別のランサーがそのまま致命傷を与える。そんな、ある意味で流れ作業のような映像が、各地で繰り広げられていた。
「これは、あまり教えることなさそうだな。あとはどんどん実践に投入して、イチロイド自身にアップデートしていってもらうことが一番いいかもしれない」
そう剛志が言うと、東雲教授もそれに同意した。
「そうだね、確かに岩井剛志君の言う通り、あとは実践投入だけでよさそうだ。そうすると、私ができるアドバイスはもうほとんどない感じになるね」
そういう東雲教授。それを聞いて剛志は確かにと思い、すぐさまお礼を伝える。
「確かに、そうかもしれません。でもここまでこれたのは教授の助けがあってこそです。ありがとうございます」
「いや、気にしないでくれ。それに今後もイチロイドのデータは貰える契約だったからね。それをもとに私の研究も進めるってわけだ。あとは私の研究に対する手伝いとかもお願いするときはあると思うが、その時もお願いするよ」
「もちろんです」
そんなやり取りをしながら、人工知能ゴーレムの作成に一区切りがついたと考える剛志。当初考えていたものよりもかなりいい進捗に満足する一方で、意外とあっさりできてしまった人工知能ゴーレムに、少し肩透かしのような気持ちになる。さらにそんな剛志の気持ちと関係なく、イチロイドはいまも尚予想を上回る成果を出し続けるのだった。
本作品を楽しんで頂きありがとうございます。
ブックマークや評価、感想、リアクションなどをしていただけますと幸いです。




