第137話 イチロイド
「『すみません。状況がよくわからないのですが、どういうことでしょうか?』」
剛志の手元から急にミニサンドゴーレムになった、一郎だと思われる何かが話しかけてきた。
もちろん声帯は存在しないため、念話によるテレパシーのようなものだが、今までゴーレムが言語を扱うことなどなかったため、剛志たちの驚きはとてつもない。
「一郎なのか?」
剛志が恐る恐る尋ねると、ミニサンドゴーレムの姿をした何かは頭を傾けて悩んでいるようなしぐさを取った。
「『一郎という個体かどうかですよね。その問いに対する回答は、おそらく“違います”になります。一郎の個体データは私の中にありますが、それ以外の部分も多く、一郎と同一個体であるとは言えません。ただ、私のベースになっているのは個体名【一郎】のゴーレムコアであることは確かなので、そういった意味では“一郎”であるとも言えるかもしれません』」
と返事を返してきた。今までのようにイメージを伝え、それに沿って動くだけだったゴーレムが、しっかりと自分の考えを返答してくれている。この事実に驚きを隠せない剛志。これでは今作ろうとしていた人工知能ゴーレムのステップを、一気にいくつも飛ばしてしまったようなものだ。
剛志、臼杵、万葉の三人が驚きでフリーズしている中、今まで黙っていた東雲教授が騒ぎ出した。
「なんと! 自分で言葉を話すゴーレムの作成に成功するなんて! 岩井剛志君、君は本当に飽きさせない男だ。今回の結果は、私の知る限り世界初の快挙に当たるよ!」
そう言って、興奮冷めやらぬ様子だ。
その後も東雲教授の力説は続いたが、剛志たちは現状の理解にいっぱいいっぱいで、いまいち内容が頭に入ってこなかった。ただ、とんでもないことをしでかしたということだけは理解できた。
そんな剛志だが、まだこの一郎(仮)の扱いをどうするのか決めかねていた。そこで、普通に本人に聞いてみることにした。
「一郎? まあ一旦は一郎ってことで進めるけど、とりあえず元々予定していたマザーゴーレムとして、人工知能の集合体として成長させていくことは可能かな?」
「『ええ、問題ありません。私の機能は予定通り備わっているので、あとは【増加】でゴーレムたちの知識を吸収していけば、目的の機能に近づいていけるはずです。ただ、現状私の持っている知識は一郎の持っていたもののみなので、現時点では何も判断できませんが』」
と、流暢に返事をしてくれた。今時点でなぜここまで話せているのか謎でしかないが、この辺はスキルや目的、剛志のイメージなどの集合体だということで、無理やり納得する剛志。とりあえずは、あらかじめ学習させていた人工知能ゴーレムを吸収させ、知識を取り込ませることにした。
剛志が人工知能ゴーレムを差し出すと、一郎(仮)はそのコアを光に変換して吸収した。そして吸収を終えると、すぐさまその情報を分析し始めた。
「『なるほど。大体今のマスターの戦力を理解しました。こちらを今から運用しますか?』」
「あ、今回の戦力は俺のすべてじゃないよ。とりあえずこういった状況での学習のために戦わせただけだから。」
「『承知いたしました』」
とてつもないポテンシャルを秘めている人工知能ゴーレムの基盤だが、まだ知識はほとんどない状態だ。それもこれから教えていかなくてはならない。ただ、その点は言語を理解してくれるようなので、思ったよりも簡単そうだ。そんなことを考えている剛志は、すでにこの状況に順応し始めていた。
しかし、いまだ臼杵と万葉は気持ちが追いついていないようで、二人で気持ちを確かめ合っている。
「万葉ちゃん、俺がおかしいのかな。まだ気持ちが追いついていないんだけど。てか、あいつはなんでいきなり話し出してるんだよ」
「健司、あなたは別におかしくないと思うわ。私もまだ置いてかれてるもの。剛志に関してはこれまでの付き合いで、意外と頭のネジが外れてるってわかってたから、もうそういう人だとあきらめるしかないわね」
「ああ、そうだよな。あいつって一見普通そうなのに、よく知るとかなり変人だよな」
そう言って、今までの不満もあるのか剛志の陰口で盛り上がる二人。そんなことが話されているなんて気づいてもいない剛志と、今回のことでテンションが爆上がりの東雲教授の“変人二人組”はいまだなお、イチロイド(仮)のことで盛り上がっていた。
「岩井剛志君。この子の名前を正式に決めないか? この子は元となった一郎とは似て非なる存在のようだし、いつまでも名前をあいまいにするのもよくないだろう?」
「確かにそうですね。じゃあ何にしようかな。一郎の面影は残しつつ、人工知能ゴーレムらしさも出したいし……一郎とアンドロイドの中間で“イチロイド”ってのはどう?」
それを横で聞いていた臼杵が思わずツッコミを入れた。
「おいおい、さすがにイチロイドはダサすぎないか? これと言って案があるわけじゃないが、ふざけてるみたいだぜ?」
「うーん、そうかな? 確かに言われてみるとダサい気もするけど、こういうのはわかりやすいのが重要でしょ? 俺は良いと思うんだけどな……」
そう言って少し悩む感じの剛志に、臼杵はしょうがなく賛成することにした。
「ま、お前がそう思うならそれでいいんじゃないか? 確かに聞いていれば段々と違和感なくなってきた気もするし」
「そう? じゃあイチロイドにしよう。お前の名前はこれからイチロイドだ。よろしく、イチロイド」
「『かしこまりました。よろしくお願いいたします』」
こうして決まった名前は“イチロイド”。なんとも間の抜けた名前ではあるが、剛志がいいならそれでいいのだろう。
「じゃあ、イチロイド。これから他の情報も一旦学んでもらう。さっきみたいに学習用の人工知能ゴーレムをどんどん作っていくから、それらを俺が指定するタイミングで吸収して情報をまとめてくれ。それまではいろいろなことを学びつつ、基本的には俺のサポートをするようにしてくれ!」
「『はい、かしこまりました』」
そうしてイチロイドにいろいろ教えるべく、自分がやっていることを説明しながらゴーレムたちを大量に召喚する剛志。また同じようにグループに分けて戦ってもらい、その結果を新しく作った人工知能ゴーレムに学習させる。そして、その結果を吸収してイチロイドが成長する。このローテーションを回していこうとしているのだ。
それに対して、剛志とイチロイドのやり取りを一つも逃さないようについて回り情報を記録している東雲教授と、剛志の護衛として同行している臼杵と万葉は、剛志と一緒にイチロイドにさまざまな知識を教えながら数日を過ごすことになる。
そんな生活が一週間ほど経ったころ、会話はできるが知識がほとんどなかったイチロイドも、この一週間で多くのことを学び、心なしか会話もよりスムーズになってきた。
そして剛志たちは、次のステップに進むことに決める。
――実践投入だ。
本作品を楽しんで頂きありがとうございます。
ブックマークや評価、感想、リアクションなどをしていただけますと幸いです。




