第133話 あるアイデア
東雲教授のところまできて、この後の詳しい説明を聞く剛志。
「東雲教授。とりあえず試作人工知能ゴーレムにデータのダウンロードを始めたんですけど、ここからどうやってそのデータを学習させるんですかね? 成功と失敗を比較させるという概要は聞いてるんですけど、具体的なイメージがまだわかってないんですよね。」
そう剛志に尋ねられた東雲教授は、またしても講義口調で次のステップの詳しい中身を説明してくれた。
「学習フェーズというのは、要するにゴーレムに“経験を積ませる段階”だ。人間が剣術や魔法を習得するとき、まずは動作を繰り返し、次に成功と失敗を比べ、最終的に『こうすれば上手くいく』と体で覚えるだろう。それと同じことを人工知能にもさせる。
具体的には、先ほどダウンロードしたデータを繰り返し再生し、成功例と失敗例を交互に提示する。その差異を基準に、『どの行動が望ましいか』を自ら導かせるのだ。これは単に記憶するのではなく、何度も試行を繰り返して“ルールを発見させる”工程だと言える。
また重要なのは、最初から完璧を目指さないことだ。最初は粗い判断しかできなくても、繰り返し学習させれば次第に精度が上がっていく。いわば赤子が歩行を覚える過程に近い。何度も転び、何度も立ち上がるうちに、ようやく一人で歩けるようになる。
この積み重ねを経て、ゴーレムは“与えられた命令を実行する存在”から、“状況を理解し自ら判断する存在”へと変わっていく。」
そう言われた剛志は、なるほどと思った。しかしそれでもまだよくわからなかったので、アドバイスをもらおうと思った。
「なんとなくイメージはつきました。でも具体的にどうすればいいのか……何かアドバイスはないですかね?」
「そうだな。今回は模擬戦の指揮を行ったゴーレムのデータを読み込ませたんだよな。それだったら、一つの例は勝った方の指揮を成功例、負けたときの指揮を失敗例として伝えて、そこから自分なりの成功を導き出してもらうのがいいだろうね。」
「なるほど、じゃあそれでやってみます。」
そう言って、剛志はひとまず先ほどのアドバイス通りに人工知能ゴーレムに成功例と失敗例を伝え、それらを交互に再生させて差異を導き出してもらうことにした。
まあ実際に映像を再生させるわけではなく、人工知能ゴーレムの中でその処理を行ってもらうというものなのだが、一旦命令をした後は特にやることがない。
「それにしても、今頑張って考えているんだとは思うんだけど、本当にこれで人工知能ゴーレムができる気がしないわね。」
そうつぶやいたのは、剛志の近くで見ていた万葉だった。それに同調するように臼杵も話し出す。
「そうだよな。それに俺たちからしたら、ただの黒い球がゴーレムに持たれているだけで、外見の変化が全くないからな。」
「俺からしてもそうだよ。別に中がどうなっているかなんてわからないんだし。でもゴーレムコアが今までの経験をもとに自分である程度考えられるようになるのは事実だし、そこに特化させたこの人工知能ゴーレムが学習すること自体はできてると思うんだよね。でもこうも静かだと、なんだかやることないし暇だね。」
そう言って、じっとゴーレムコアを見つめる剛志。命令は下したものの、すぐに学べるとは思っていない。まずはダウンロードにかかったのと同様に、一時間くらい経った後に導かれた正解パターンを固定させて、実地試験を行うことにしよう。そう決めたため、今から一時間ほど暇になってしまったのだ。
暇だなと思い、見つめること1、2分。剛志は待っててもしょうがないと思い、動き出した。
「ああ、このままだと暇すぎておかしくなりそうだ。ただ待ってても時間の無駄だし、今やれることを考えよう。臼杵、宮本さん、相談に乗ってくれる?」
そう剛志がいきなり言うと、少しうつらうつらしていた臼杵は寝ぼけたように「んぁ?」と返事を返した。
その横で刀を磨いていた万葉が、剛志に言われて立ち上がり、刀を鞘にしまったかと思うと臼杵の頭をはたいて強引に起こした。
「あんたね、一応護衛なんだから居眠りはダメでしょう。」
「わるいわるい、ちょっと意識が飛びかけてたぜ。で、なんだっけ?」
そんな護衛と護衛対象の関係では起きなかった、友人ならではのやり取りを交わしながら、剛志に要件を尋ねる臼杵に、剛志も笑いながら答える。
「はは、いいよ別に。確かにこれ見てるのつまらないよね。俺もそれで何かしたいって思ったんだ。で、要件だけど、取り敢えず何かしたいって思ってるんだけど、何したらいいと思う?」
そんな曖昧な質問をする剛志。それに対し臼杵は困ったように答える。
「何かしたいって言ったって、ゲームしようぜって話じゃないだろ。俺には今回の件はさっぱりだしな。万葉ちゃんは何かないか?」
「私も何かって言われても何もないわよ。暇ならレベル上げでもしに行く? ってくらいかしらね。」
そう言って困る二人。そんな二人に申し訳なさそうに剛志は話し出す。
「ごめんごめん。何かないかって聞いといて、実は今したいことはこの人工知能ゴーレムの作成だけなんだよね。だからもうアイデアは思いついているんだ。でも一応聞いてみたって感じ。」
そう言う剛志に対し、呆れた表情の二人。また意味の分からないこと言ってるなと思った臼杵は、万葉に向かって肩をすくめて見せた。
そんなふうに呆れられていることなど露知らず、剛志はそのまま話し出す。
「とりあえずやれることってなんだろうって考えると、まずはこの人工知能ゴーレム自体を増やすことなんじゃないかなって思うんだよね。数が増えれば試行回数が増えるし、思考回数が増えればそれだけ早く優秀な人工知能ゴーレムができるじゃん。あと、数の上限が無いのが俺の強みだし。」
「それはそうだが、だとしたら情報のダウンロードとかのやり取りが今のままだと意味がないって話だったろ。そこはどうするんだよ。」
そうツッコまれた剛志は、にやにやしながらあるアイデアを発表した。
「人工知能ゴーレム同士をつなぐ専用のゴーレムを作ればいいんじゃないかって思ったんだよ。それぞれが学んだ知識なんかを共有するマザーゴーレムを。そういうSFものとかって、よくあるだろ?」
「でも剛志。マザーゴーレムを作ること自体には賛成だけど、そもそもそんなゴーレム作れてたら、もう作ってるじゃない。ゴーレムクリエイトを使っても、そんな高性能のゴーレムを作るための器用値なんかが足りないから、今の人工知能ゴーレムもこのスペックなんでしょ?」
万葉のツッコミはもっともだ。そもそもそんなものを作れるなら、すでに作っているはずだ。だが、剛志には一つのアイデアが浮かんでいた。
「そうなんだ。でも俺、一個思い出したんだよね。特殊ゴーレムコアは、身代わりゴーレムに使っていた【身代わり】と、今回の人工知能ゴーレムに使っている【成長】のほかにも、もう一種類だけあるんだ。【増加】のコアが。」
そうして、剛志は【増加】のコアを使って作ろうと思っているマザーゴーレムについて話し出すのだった。
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