第127話 認識のずれの解消
研究室をダンジョン内に作っていいという許可が正式に下りたため、さっそく剛志のゴーレムを使って東雲教授の研究室が作成された。
今まで幾度も壁を建設してきて建築の経験が大いに溜まっているウッドカーペンターゴーレムたちによって、建物自体はすぐに作成できるため、場所をどうするのかという部分でいろいろと議論が行われた。
いくつか案が挙げられたが、そのすべてを満たすものはなく、優先度を決めなくてはならない。教授からの要望は、ダンジョン外にすぐ出られる場所だった。理由は、ダンジョン空間内と外との違いなどを研究するにはそれが最も効率がいいという話だ。
しかしこれは防犯の観点からもあまり好ましくなく、そもそも人の出入りが多いため、あまり大きなスペースが確保できないという問題点もあった。
そんなこんなで、結局決まった場所は横浜第三ダンジョンの地下0階。つまりスタンピード前は安全地帯だった裂け目の内側、その端の方のスペースということになった。
結局のところ人が少なく、その上広大なスペースを確保するとなると、そこが一番都合がよかったのだ。
広さは大体地下0階の4分の1ほどなので、かなりのものだと言えるだろう。そんな膨大な区画に、剛志のゴーレムたちが作った壁を立て、その内側を研究室兼実験場として使用するということになった。
ここまでの区画を一個人に開放することは難しかったので、建前上はダンジョン組合の訓練場兼実験場ということになっており、一般の探索者には開放されていない。しかしその実情は、ほとんど剛志と東雲教授の研究開発のための遊び場のようになっている。
ここまでの待遇はさすがに予想していなかった剛志たちは、場所を伝えられた際にびっくりしたのだが、町田所長曰く「剛志の労力を使って組合所有の研究施設を作れるとなると、かなり予算が浮くため、組合としても好意的」なのだそうだ。そのうちこの場所に剛志たち以外の組合関係者が出入りすることもあるかも、とのことだったが、まあそれはそれだろう。
そうして膨大な空間を手に入れた剛志たちは、さっそく人工知能ゴーレム作成に向けて準備を進めることにする。
「そういえば、最近教授こっちに来てばかりですが、大学の方はいいんですか?」
疑問に思った剛志がそう尋ねると、東雲教授は「うーん、まあ何とかなるだろう」と曖昧な返事をしたので、不安に感じる剛志たち。しかし当の本人は全く気にした様子もなく、どんどん人工知能ゴーレム作成に向けて動き出そうとする。
「よし、では早速前段階を詰めようと思うのだが、前回聞いていた学習させたい分野を挙げていってくれ」
そう言って手元の端末をいじり出す東雲教授。すると、持ってきていたプロジェクターが起動し、パソコンの画面が映し出される。これを使いながら進めていくようだ。
「えっと、学ばせたい分野ですよね。そうですね、まとめていなかったですが、どんどん言っていきますね。まずは戦闘分野、次に探索、建築もよくするので欲しいですね。あと運搬関連。大きく分けるとこんな感じですかね」
そう剛志が言うと、東雲教授はそれらをメモした。その上で、どんなゴーレムにしていきたいのかを聞いてきた。
「そうだな。あとはこれらに対し、各人工知能ゴーレムを統括する用の人工知能ゴーレムを作るという感じだったな。では、それらについてデータを集めるフェーズに行きたいのだが、そもそもの運用の仕方を聞いてもいいか?これから作るゴーレムの機能なんかを詳しく決めたい。戦闘用だったら武器は剣なのか、などだな」
「え、そこまで決めないといけないんですか?だとすると戦闘用だけでもかなりバラバラなので、数が増えそうですね。最近よく使うのは集団魔法での殲滅ですが、剣を使うナイト型もあります。まあ、一番多いのはやっぱり槍ですかね」
「う~ん、集団戦闘か。それだとそもそも人工知能ゴーレムでやる意味あるのか?それらを統括するゴーレムを作らないといけないぞ」
剛志の発言に、そう言い返す東雲教授。剛志はそれに対し、一瞬フリーズした。何を言われたのかわからなかったのだ。しかし東雲教授は違う。瞬時に剛志の反応を理解し、認識の違いを見抜いたのだ。
「ああ、私としたことが飛んだ勘違いをしていたな。そりゃそうだよな。一般の人が感じる人工知能ってのはそっちだよな。私の研究が各個人にカスタマイズするタイプだったから、うっかり人工知能搭載型のゴーレムを作るのかと思っていたよ。そうではなくて岩井剛志君が作りたいのは、ゴーレムたちを操る人工知能を作りたいということだね」
そう言って、頭をぺちっとたたく東雲教授。今まで剛志は、ゴーレムたちを操るための人工知能ゴーレムを作りたいと話しているつもりだったのだが、東雲教授は、剛志の指示なく動く人工知能搭載型のゴーレムを作りたいと言っているのだと勘違いしていたのだ。
普通、ダンジョンに潜るゴーレム使いが一度に使役できるゴーレムの数は平均して10体程度。その10体を統括しようと考える者はそんなに多くない。東雲教授もその常識が残っており、いくら剛志が何千体ものゴーレムを操れると言われても、イメージが追いついていなかったのだ。
「なるほど、今気づいてよかったよ。そうなるとまずやることはシンプルだ。分野を分けずに、まずはゴーレムを操るための人工知能を作成しよう。つまり当初の予定だった、人工知能を操る人工知能の前段階みたいなものだね。それが運用可能レベルになって初めて、各分野に溶かしていくべきだね」
そんな感じで、東雲教授の中では答えが出たようだ。剛志は若干遅れたが、とりあえずの方針を理解した。
なんだか思わぬところに落とし穴があったようだが、剛志が気づく前に回避された。
方針が決まったので、あとは進むだけだ。ここから先は剛志には全くわからない分野なので、全面的に東雲教授の指示に従う形になる。そういったわけで、人工知能ゴーレムの作成がスタートしたのだった。
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