第124話 スキル発動の仕組み
いまだ興奮冷めやらぬ様子で東雲教授は剛志に熱弁を続ける。
「まさか、こんなに私の研究にぴったりの人材がいるとはね。これでやりたかったことのほとんどを進められそうだ。」
そう言っている東雲教授に終始押され気味の剛志。そんな剛志をサポートするべく、万葉が会話に入ってきた。
「東雲教授。私たちはまだ教授のやっている研究について詳しく理解できていないのですが、そのあたりを教えていただけませんか? 人工知能をスキルに組み込むって言っていましたが、具体的にはどういうことなのでしょう?」
そうやって質問された教授は、頭を掻きながら少し悩んだのちに、説明をし出した。
「う~ん、どうやって説明しようかね。なんとなく人工知能とスキルが合わさるとすごいことになりそうってのは皆思うことだとは思うが、具体的に説明するとちょっと難しいんだよね。……あ、ちょうどいいじゃないか!? 岩井剛志君、ミニサンドゴーレムを作ってくれないか?」
そう言って剛志にお願いをする東雲教授。しかしここはダンジョン外だ。スキルは使えない。
「えっと、ダンジョンに移動できるのであれば構いませんが、今ここでは難しいですね……」
そう言われた東雲教授は、「ああ、そうだったそうだった」と今気がついたように言う。それからぶつぶつと独り言を言い、会話を続けるのだった。
「そうか、そうだよな。でもこの後授業もあるしダンジョンには行けないよな。じゃあ、口頭説明にとどめるか……いや、実際にスキルを使っているところも見たいな。よし分かった、あと30分ほど待ってくれないか。そのあとダンジョンに行こう。そこで話をしよう」
そう言い、ぽかんとする剛志たちを置いて研究室を出て行ってしまった。
扉を出て、速足で廊下を歩いていく東雲教授を見ながら臼杵が話し出す。
「まったく嵐のような人だな。ずっと何言っているかわからない感じだ。とりあえずここで待てばいいってことなのかな」
「たぶんそうだと思う。てか何言っているのかわからないというより、こっちに向かって話していない感じだよね」
「私も現役の時はあまり関わりがなかったけれど、かなりキャラの濃い人ね。別にこの大学の教授が皆彼女のようだというわけではないからね。一応訂正しておくわ」
そんな何にもならない会話をして、少し教授の部屋で待っていた剛志たちだったが、しばらくすると東雲教授が戻ってきた。
「なんとか予定を調整したから、今から近くのダンジョンに行こうか。ちょっと資料もあった方がいいな。まあ、これだけあれば大丈夫か。では、行こう!」
そう言って剛志たちを手招きしたかと思うと、特に返事を待たずに歩き出してしまった。それに慌ててついていく剛志たち。東雲教授はかなり自己中心的な思考の持ち主なのだろう。もうすでにあきらめがついている剛志たちは、取り敢えず文句を言うことなく後をついていくのだった。
しばらくして着いたのは、大学から最も近いダンジョン、渋谷ダンジョンだった。
現在では渋谷ダンジョンも、ダンジョン空間が地上にまで侵食しており、その外周を剛志のゴーレムが作った壁で囲っている。今回はその壁の中に入るだけで、ダンジョンを潜るわけではないらしい。
「では、岩井剛志君。ここでミニサンドゴーレムを作ってくれるかい?」
ダンジョン空間に入るや否や、剛志にそうお願いする東雲教授。剛志もここまで連れてこられた意味は理解していたので、そこに対し素直に従った。
「【ゴーレム作成:ミニサンドゴーレム】」
剛志のスキルによって、作成されたゴーレムは何の変哲もない普通の剛志のゴーレムだった。
「じゃあ、岩井剛志君。そのミニサンドゴーレムに何か命令を出してくれないか?」
「えっと、じゃあその場でジャンプしてくれる?」
剛志がそうお願いすると、今作られたミニサンドゴーレムは了解したというようなジェスチャーをしたのち、軽くジャンプをして見せた。
その様子を見て楽しそうな東雲教授。
「おお、岩井剛志君のゴーレムに対する理解はそうなっているのか。実におもしろい。それもこの後の話に通じるが、まずは人工知能をスキルに組み込むということについての説明だったね。岩井剛志君。人工知能ってそもそもなんだと思う?」
突如として聞かれた剛志は、少し考えて答えた。
「えっと、人工的に作られた知能のことではあると思うんですけど、そういうことではないですよね。人間ではないのに人間みたいに考えて答えを出すことができる仕組みですかね?」
「おお、面白いがそれも一つの真理だ。まあ簡単に言えば“学習して判断する機械”のことだな。昔のコンピュータは、人間が細かく手順を教えてあげないと何もできなかった。たとえば『赤いリンゴを見つけなさい』って命令するなら、『赤はこの色、丸い形はこういう特徴』って、全部条件をプログラムしなきゃならなかったのだな。しかし人工知能は違う。たくさんのデータを与えて、『これがリンゴだよ』って例を見せていけば、自分で共通点を見つけて学習していく。だから一度学んだら、新しいリンゴを見ても『あ、これもリンゴだ』って判断できるということだ。要するに、人間が全部教えなくても、“経験から学ぶ”ことができるのが人工知能。ということになる。じゃあここで新たな疑問が生じるな。このゴーレムは人工知能なのかという部分だ」
そう言われて剛志も、なんとなく気になっていたことの答えを今知れると思った。
元々、剛志がゴーレムで人工知能を作るということを戦力アップの一つの策として挙げていたのは、剛志が考えなくても、命令しなくても、自走してくれるゴーレムがいるとよいと感じたからだ。でもその時に、ゴーレムと人工知能の違いって何だろうと思い、そこから何も進まなくなったという経緯がある。
その答えを東雲教授は今まさに教えてくれようとしているということだ。
剛志がそんなことを思っていると、そのまま東雲教授は話を続けた。
「まあ、答えを言ってしまうと、それはNOだな。ではゴーレムとは何か、それを説明しよう。要するにスキルだというのが答えなんだが、このスキルというものをもっとかみ砕いて説明すると、自身の想像を実現するための変換装置のようなものだ。ダンジョン空間という特殊な状況下において、自分の想像したことを現実に再現するのがスキルだ。そして、その実現可能範囲がそのスキルの効果になる。つまりスキルの効果の範囲内かつ、自分の想像の範囲内の事象を現実に再現するというのがスキルの効果だ。そしてそのスキルによって作られたのがゴーレムで、ゴーレムの動きなどは使用者の想像の範囲内になる。もっと正確に言うと、作成者のイメージが反映されるということだ」
ここまで一気に話されたが、いまいちピンとこない剛志。しかし地頭の違いなのか、万葉は理解したようで、剛志と臼杵にかみ砕いて説明してくれた。
「要するに、剛志の無意識下のイメージとかも合わせて、ゴーレムがどうやって動くのかが決まるって話ね。剛志、あなたが考えているゴーレムの動きと、実際にあなたのゴーレムの動きは同じじゃない?」
「え、どういうこと? ゴーレムって皆こう動くだろ?」
そう言ってまだ理解した様子のない剛志。その横で「うんうん」とうなずくようなジェスチャーをしているミニサンドゴーレムも相まって、なんだか緊張感のない光景だ。
「ああ、なるほどな。なんとなくわかったぜ」
そう言って理解した様子の臼杵。一人だけ取り残された剛志がキョトンとしていると、万葉がまたしても助け舟を出す。
「あなたの当たり前と思っていることが、他の人と同じとは限らないのよ。例えば東雲教授のゴーレムは、剛志のゴーレムみたいに意味のないリアクションを取ったりしなかったわ」
そう言われ、思い返すと確かにと納得する剛志。話がそこまで来たところで、東雲教授が話を再開した。
「なんとなく理解してくれたかね? 要するにスキルというものは術者がイメージしている通りになるということだ。裏を返すと、イメージさえできれば同じスキルでも使い勝手や威力なども調整できたりするということなのだよ。でだ、ここからが私の研究の話になるのだが、私が研究しているのはそのスキルを人工知能で操る研究だ。このスキルの調整機能の仕組みを紐解き、その発動のプロセスを人工知能に覚えさせ、人工知能を介してスキルを発動したり、効果の調整をするという研究をしているのだよ」
そう言って、自身の研究の概要を教えてくれた東雲教授。正直剛志には、なぜスキルの発動のプロセスからそれを人工知能で操れないかという思考になるのかわからないし、そもそもスキルってこんな仕組みだったのかなども目から鱗だったのだが、取り敢えずは納得できた。
そんな研究をしている教授に協力してもらえれば、スキルのゴーレムに人工知能を搭載するための方法も見つかるかもしれないし、そもそも剛志自身よくわかっていない人工知能の作り方なんかも知見があるだろう。
まだまだ分からないことだらけだが、ここは踏ん張り時だと学生の時以来に頭を使った剛志は、若干眠くなりながらもなんとか耐えるのだった。
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