第123話 東雲 紫苑
「ここが、町田所長に言われてた大学だよね。」
先日の病室での作戦会議からすでに三日が経過しており、剛志は無事退院していた。そんな剛志と臼杵、万葉の三名が訪れていたのは、町田所長から紹介された人工知能の研究をしている教授が在籍する大学、東都工科大学の校門だった。
「にしても、こんな一流大学の教授ってどんな人種なんだろうな。俺は勉強に関しては全くできない方だったから、なんだか場違い感出るよな」
そう言って、大学中を舐め回すように見る臼杵。剛志はそれなりに有名ではあるが、一流というわけではない大学を出ているので、臼杵よりは大学というものに慣れているのだろうが、教授という存在にこれから会うことを考えると、さすがに緊張しているようだ。
そんな剛志たちについていく形の万葉も、きょろきょろと周りを見渡している。そんな様子に臼杵がからかうように話しかけた。
「お、そんな万葉ちゃんも大学は珍しい感じか? 俺と一緒だな」
そう言う臼杵に対し、万葉はきょとんとした後に「ああ」と気づいたように話し出す。
「あ、言ってなかったっけ? ここ、私の出身大学よ。久しぶりに来たから、なんだか懐かしくってね」
と、思わぬ爆弾を投下した。東都工科大学といえば、いわゆる理系の大学で日本トップクラスの大学の一つだ。そんな大学に脳筋そのもののような万葉が通っていたという事実が信じられず、フリーズする二人。
今までの万葉のイメージと、理系で勉強ができるという事実が結びつかない二人だったが、徐々に言葉の意味を理解していき、驚愕で言葉も出なかった。
そんな二人を無視するかのように進んでいく万葉に置いていかれないよう、後についていく二人は、万葉の案内で教授の研究室までたどり着いた。
「たぶんここね。にしても久しぶりのキャンパスは楽しかったけど、この研究室はあまり知らないから、そこは期待しないでね」
そう言って扉をたたく万葉。しばらくすると、ゆっくりとした動きで扉が開いたのだが、なんとそこには剛志が見慣れたミニサンドゴーレムが立っていた。
「え! なんでゴーレムが!?」
そう驚きの声を上げたのは剛志だった。自身のよく知るゴーレムが大学の研究室で扉を開けている——その事実に、今までの常識が壊れるような、そんな感覚に陥る剛志。
そんな剛志の声を聞いて、奥の方から女性の声が聞こえてきた。
「ああ、驚かせてしまって申し訳ない。今ちょうどゴーレムのダンジョン外での使用についてデータを取っているんだ。それにしても、ダンジョン外だと動きが遅くてかなわん。それに少しミスすれば自重で壊れてしまうからな。全くうまくはいかないね。……って、岩井剛志君じゃないか!? ああ、今日だったか。どうぞどうぞ、入ってくれ!」
そう言って、剛志の手を引き研究室内に案内する女性が、今回会いに来た大学教授の東雲紫苑その人だった。
町田所長からもらっていた資料には顔写真や経歴が書いてあり、女性で年齢も32歳と若いことは分かっていたのだが、まさかゴーレムがお出迎えをするとは思っておらず、面食らってしまったのだった。
剛志以外の二名には目もくれず、どんどん話を進めようとする東雲教授に対し、剛志の後を追うように入ってきた臼杵と万葉は、半ば置いてけぼりを食らってしまう。
「岩井剛志君。君のゴーレムを私の研究に使わせてくれないか? 私も見ての通りゴーレム使いの職業について、このゴーレムと人工知能を組み合わせられないかと考える一研究者に過ぎないのだが、いかんせんゴーレムの使い勝手が良くなくて研究が進まないんだ。元々は人工知能とスキルの組み合わせを研究していたのだが、実際にスキルなどを使えるようになりたいと思ってダンジョンに行ってみたところ、レアなゴーレム使いの職業が就職可能でね。これは神の御導きだとばかりに就職したはいいものの、使えるスキルはゴーレムを作るというものだけ。それにスキルもそんなに何度も使用できないしね。まあ、このゴーレムというものを作り出し、それに命令を与えて動かすことができるという機構を分析することは大いに研究の助けにはなっているのだが、それに……」
「えっと、ごめんなさい。いきなりすぎて。一旦落ち着いてください」
いきなりのマシンガントークに、こちらもついていけなくなった剛志が、無理やり話を遮った。これがいわゆる天才という人種なのか。そんな陳腐な感想しか浮かばない剛志だったが、とりあえず落ち着かせることに成功した。
剛志に話を遮られた東雲教授は、剛志とその後ろにいる二人をもう一度確認し、やってしまったとばかりに天を仰いだ。
「いや〜申し訳ない。私の癖みたいなものなのだよ。いつも一人で研究しているものだから、人との会話スピードを間違えてしまうんだな。皆がこの思考速度についてこれないのを忘れてしまうんだ。申し訳ない」
そんな、謝っているのか貶しているのかよく分からない説明をする東雲教授。これはまたキャラの濃いやつが出てきたなと感じる臼杵だった。
ひとまず落ち着いて、ここに来た理由などを説明することにした剛志。そしてその剛志の説明を聞いている途中からソワソワし始めた東雲教授は、一応最後まで話を聞いた後、とても興奮した様子で話し出した。
「実におもしろいね! それに君のスキル《ゴーレムクリエイト》はとんでもないスキルだ。もうこのスキルだけで完結してしまうほどのポテンシャルを持っているね。それに私は人工知能をスキルに組み込むという研究をしているけれど、君の発想はスキルで人工知能を作るってことだね。結論から言おうか、それは可能だと思う。でも私の人工知能をスキルに組み込む方法と合わせた方が、より確実性が高いだろうね。実に相性がいいじゃないか! 桃花に相談されたときは、初めは研究が忙しいからって無視してたんだが、内容を聞いたら私の研究にぴったりだと思っていたのに、蓋を開けたらぴったりどころか完璧だよ岩井剛志君!」
そう言って剛志の手を握り、上下に勢いよく振る東雲教授。剛志は高レベルになったおかげでダンジョン外でも身体能力は一般人よりも良いはずなのに、その勢いに押されて振り回されている。
こんなキャラの濃い人とこの先ついていけるのか不安になりながらも、彼女の言うことが本当なら、剛志の戦闘力は一気に強化されるはずだ。自身の戦闘力不足という課題はまだあるものの、それは今後のレベルアップと実装された人工知能さえあれば解決の見通しが立ちそうだ。
そんなことを腕を振り回されながら考えていた剛志は、ひとまずこの台風に身を任せてみようと思うのだった。
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