第113話 絶望的な強さ
大精霊の攻撃を防げず、身代わりが一体消滅した剛志だが、まだ残基は残っている。
しかしその残基も有限で、前回の襲撃時よりは数を増やし約500体ほどに上るの。しかし今の剛志では大精霊の攻撃を受けるとおそらく即死だ。そう考えると10分耐えるのには心許ないと言わざる負えない。
今の保有戦力で何とか耐えることを目標にしている剛志だが、とにかく消耗を減らす必要があると考え、この物量作戦をやめることにする。
「このままだと10分立つ前に、俺のゴーレムが尽きそうだ。こんなにゴミみたいに消されてたらたまらないしね。幸い向こうは俺に対して興味を持ってくれているみたいだし、おとり作戦に切り替えよう」
そういって剛志は、今も尚召喚しつづけていたゴーレムたちを一旦やめ、代わりに別のゴーレムを召喚する。
そのゴーレムは全身版マジックゴーレムだ。それぞれのパーツを装着した剛志と並ぶとその見た目は全く同じになる。そう、剛志が言っていたおとり作戦とは、自身と全く同じ見た目で作成しているゴーレムをいくつも展開し、敵の目をかく乱させるという作戦だったのだ。
そうして、合計20体ほどのゴーレムを召喚した剛志は、そのゴーレムたちと一斉に八王子ダンジョンの所長室の窓を破壊し、外に飛び出した。
かく乱作戦を行うのであれば、この狭い空間は全くの障壁でしかないからだ。
そうして、外の空間に出た剛志は、そのままの勢いで空に向かって飛び立つ。剛志以外のゴーレムたちもバラバラの方角に向かって飛び立ち、かく乱を狙う。
お互いに時に交差したりしながら、上空を縦横無尽に飛び回る剛志とゴーレム。これは闇の大精霊が剛志に対して興味を持ったからこそ成り立つ作戦だ。
一番怖いのは剛志を無視して臼杵や組合長に向かうことなのだが、ここで剛志に来てくれれば戦闘場所を空中に移せるという利点もある。これによって攻撃方向さえ気を付ければ、先ほどのようなとてつもない貫通力の攻撃が来ても、二次災害を抑えることができるのだ。
そんな作戦はある意味で成功し、またある意味で失敗に終わった。
空を縦横無尽に飛び回る剛志。その速さはそこまで高速というわけではないが、それでもダンジョンの地下60階層でも通用するレベルの剛志だ。一般探索者から見ると十分早い。しかし相手は地下90階層辺りに出てくる化け物だ。向こうにとっては子供が走り回る程度に捕まえるのは容易だろう。
なので、剛志はあらかじめこの作戦自体は何度も自身の残基がなくなるのは想定の範囲内だった。
そんな剛志に対し、闇の大精霊が一直線に近づいてきた。まずは興味を引き、狙いが剛志に限定されているという部分は成功の様だ。
しかし、一直線に本体の目の前に飛んできて、一発で剛志のことをとらえ地面にたたきつけるように腕を振った大精霊。
それを目の前にで見た剛志は、反射で腕を前にクロスさせ、攻撃を受けようとする。
何とか腕で受けた剛志はそのまま腕、肋骨、心臓と一瞬で潰され残基が一つ減る。そして次の瞬間に身代わりによって攻撃がなかったことになった剛志のからがだもとに戻るのだが、その時にはすでにすさまじい速度で地面に向かって落下している。
そして地面にたたきつけられることでさらにもう一つの残基が消滅する。
一度の攻撃で2つも残基を消費してしまった剛志。この方法だと今みたいに一度に二つの残基を消費してしまうみたいだ。
「ほう、面白いな。よく見ると攻撃を受けた後にその攻撃がなかったことになるというみたいだな。おそらくスキルの類だろう。全く持って興味深い。」
上空に浮かびながらそういって楽しそうにする大精霊。それを見て絶対に勝てないということを知らしめられた剛志は、心が折れそうになった。
そんな剛志に追い打ちをかける情報が組合長から教えられる。
「剛志君!精霊は光を感知しているわけではなく、エネルギーを見ていると言われている。だからおそらくそのデコイ作戦は無駄だ!」
「嘘だろ...だから一直線に俺の方に飛んできたのかよ...」
組合長からの情報で、完全に戦意喪失してしまった剛志。しかし、そんなことは大精霊には関係がない。
「次は一気に押しつぶしてみようか。そうするとどうなるのだろうな。まさかこんなにワクワク出来るとは」
そういって楽しそうに笑いながら、自身の両手を上空に向け、先ほど片手で作っていたブラックホールを両手で作成する大精霊。
両手で作成しているだけあり、今回のブラックホールは先ほどの数倍の大きさになっている。
それを見た剛志は、先ほどまで気持ちが折れてしまっていたのにも関わらず、立ち上がる。これは彼自身何も考えてはいなかったのだが、とにかく逃げないとという思考になっていたのだと思う。
そしてこの時、慌てふためくわけではなく、冷静にここで受けたら周りに被害が及ぶかもという考えになるのが剛志という男だ。先ほどまでの速度には全く及ばないが、それでも着実に空に飛びあがり、周りに誰もいない空中で少しでも大精霊から距離を取ろうとする。
しかし、大精霊の攻撃範囲はちょっとやそっとのことでは逃れられない。剛志が逃げ切るよりも前に攻撃準備が整った大精霊は、空中をのろのろと飛ぶ剛志目掛け巨大なブラックホールを飛ばす。
「【黒孔爆弾】」
今回の攻撃は先ほどの黒孔砲に比べると遅いが、剛志に追いつくには十分すぎる速度だ。
そして、そのまま巨大なブラックホールの餌食になる剛志。背中に衝撃を感じたと思った次の瞬間には全身の骨が一瞬で砕かれるのを感じる。しかし、剛志には身代わりゴーレムが存在するので、全身の骨が砕かれたその攻撃事態が身代わりによって肩代わりされる。
その間もブラックホールは周囲の物を吸い込み、一瞬で潰して消え去ってしまった。
ブラックホールが剛志に当たり、半径10mほどの空間が押しつぶされるのにかかった時間はおよそ1秒。その一秒間の間に剛志の体は合計で3回潰された。結局は身代わりで肩代わりしてもらえるのだが、その時に感じる痛みは、頭で感じた後に治るため精神はすり減る。
相手が遊んでくれていることで残機の減りは少ないのだが、それに反比例するように遊ばれている現実が精神をよりすり減らす。
そんな状況のため、剛志は残基よりも先に精神が尽きてしまいそうになっていた。
A.B.Y.S.S.の謎の男からの攻撃では、刃物による刺し傷だったので、一瞬の痛みはそこまでではなかったのと、相手がまだ話の通じる人間だったこともありここまでの絶望感はなかった。
しかし、今回の敵はまず勝ち目が全くないというのと、勝ち筋も見えない。助けに来てくれる人もいない。自分で何とかしなくてはいけないのだ。
そんな絶望感を感じながら、空中から自由落下している剛志。その剛志を支えるように着地点にはふかふかの新雪が積もっていた。臼杵の雪魔法だ。
遠くから剛志を見ていた臼杵は、剛志の気持ちが折れてきていることに気づき、本来なら出てこない方がよいのにもかかわらず出てきたのだ。
「剛志。さすがにお前ひとりじゃ荷が重いだろ。ここは俺も手伝ってやるからあとちょっと頑張ろうぜ。本当は俺に任せて下がってろって言いたいところなんだけど、さすがにできないことを言うわけにもいかないしな」
そういう臼杵。
あと残り時間はまだ6分も残っている。




