第108話 町田家会議
《町田桃花side》
剛志たちから万葉の状況、鮫島が容疑者としてあがっているなどを聞かされた桃花。それを聞いてすぐさま、そのあと入っていた予定をキャンセルし、組合長である自身の父、町田龍之介のもとにやってきていた。
桃花から緊急の用事だと聞き、何とか時間を空けた龍之介が自身の執務室で待っていると、そこに桃花ががやってきた。
「おう、どうした。緊急事態だって言っていたが、どのくらい緊急なんだ?」
手元の資料に目を通しながら、自身の執務室に入ってきた桃花を見てそう尋ねる龍之介。その横には桃花の兄、虎之介もいる。
「桃花ちゃん、大丈夫かい?なんかあったら助けになるからね。」
そういって、少し大げさに心配した様子の虎之助に辟易する桃花だったが、いつもの返しをしている余裕もなかったのでスルーして父に相談をする。
「かなり緊急度が高い要件よパパ。それにあまり公にはできない。できるだけ内密に進めないと真実を取りこぼすかもしれないし、もし最悪の結果だった場合探索者組合の根幹を揺るがす大事件になりかねないわ。正直言ってこの段階でしれているのがラッキーといったところね」
そう言う桃花。それを聞いて先ほどまでふざけた様子だった虎之助も、一気に雰囲気が変わり真剣な様子に変わる。そして龍之介に至っては、覇気のようなものを纏いながら桃花に一言「説明してくれ」とだけ言い、腕を組んで待ちの姿勢だ。
それに対し、「わかったわ」とだけ言い、先ほど剛志たちと話していた内容を共有する桃花。龍之介と虎之助の両名は、聞いているうちにだんだんと眉間にしわが寄りだし、最後まで聞いた後は深刻そうに黙りこくってしまった。
少しの沈黙の後、重い口を開いたのは組合長の龍之介だった。
「桃花、今回の件。鮫島が犯人の可能性はどのくらいだ?」
「正直、私もさっき聞いたばかりだったから何とも言えないわね。こちらでも調べないと何とも。でも剛志君たちの調べた内容が間違っていないことを前提に考えると、少なくとも全くかかわりがないということはありえないわね。もしかかわりがなかった場合でも気づけないほどのお荷物なら組織にいらないと思うし。どちらにせよ鮫島は切り捨てることになると思うわよ。」
それを聞いて、龍之介も頷く。
「確かに、そうだろうな。それに探索者という人種はレベルアップや、命のやり取りによってどこか常人から逸脱していくもんだ。そのトップランカーが言う勘ってやつは、侮れんぞ。わしも今までの経験から言って剛志殿たちの勘はあっているように思う。トラ!鮫島を徹底的に調べろ!」
「了解、父さん。」
そういって、一気に意思決定を下す龍之介。さすが元前線の探索者で現探索者組合の組合長。今までの経験値が違う。歴戦の猛者の勘で今回の件をとらえ、全力で解決に向けて進みだした。頼もしいことこの上ない。
龍之介から指令を受けた虎之助は、先ほどまでの緩んだ表情とは打って変わって真剣な顔つきで桃花に質問をする。
「桃花、今動いているのは服部っという探偵と内木君でいいんだよね。剛志君と臼杵君は?」
「それなら、二人にはひとまず万葉君に気取られないように、普段通り過ごしてくれと伝えている。」
「そうか、確かにそれがいいかもな。それにしても剛志君には本当に頭が上がらないよ。もし今回の件が本当ならダンジョンの壁建設に加えて、職員による犯罪行為もあぶりだしてくれたということになるからね。それにこの段階からかかわれたら、メディア対応なんかも事前に準備できるしね。」
「確かに、彼には助かっているな。はじめは唯スキルに恵まれただけの一般人という印象が強かったが、どんどんと頭角を現しているな。最近だと横浜第三ダンジョンで地下60階以降を探索しているらしいぞ」
「もうそんなに奥をか⁉すごいな、次のトップランカー第一候補だな。そのうち日本最強と数えられる日も近いんじゃないか?」
そんな風に当人の居ないところで剛志の話題で盛り上がる二人。話が脱線しているようだが、それも一瞬のことだった。そのあとすぐに、今回の事件に対し、どう打って出るのかを話し合う二人。
「桃花、今回ここにきて父さんに相談したってことは、あれを調べるためだよな」
「ええ、そうね。それが目的よ。鮫島の所持スキルの情報が知りたいの。あれは機密だからパパに許可をもらわないと」
そういう桃花に対し、奥で聞いていた龍之介が一言「構わん、調べろ」と言ったため、今回の目的はひとまず達成された。
それを聞いた虎之助と桃花の両名は、さっそくデータを管理している管理室に行き、鮫島のスキルを調べだす。
管理室に入ったときにはすでに龍之介から話は通されていたため、奥のパソコンに案内された二人。扉が閉められ、窓も何もない無機質な空間の中にたたずむパソコンを開き、鮫島の情報を確認する。
「あったわ、これね」
鮫島の情報を見つけた桃花から教えてもらい、パソコンの画面をのぞき込む虎之助。そこにはこのように書いてあった。
鮫島零司
所持スキル:契約(☆3)
職業:精霊使い
その情報を見た虎之助は、若干がっかりした。なぜならこの情報だけでは宮本万葉に対し精神攻撃を仕掛けているからくりが分からなかったからだ。
「う~ん。レアジョブの精霊使いではあるけど、それだけだな。スキルも☆3の契約なら双方の合意がないと契約を交わすことができないし、それだと今回の万葉君みたいな状態にはならないと思う。結局収穫なしか。」
そういって少し落ち込む虎之助だったが、桃花は別の見方をしていた。
「そうね。でもそれだけってこともないわよ。これでもし戦闘になった際にどういう方法をとってくるかが想像つくし、今実際に内木が鮫島の周辺をさぐっているわ。それと合わせることで何かわかるかもしれないしね。」
そんなポジティブな見方をする桃花を見て、自身の妹の成長を感じた虎之助は、いつもの激アマお兄ちゃんモードに戻りかけるが、今はそんな場合ではないということを思い出し踏みとどまった。
そんなこんなで、当初の目的のスキル確認は達成できた桃花。そのうえ組合長の龍之介と兄の虎之助の協力を得たため、そのほかにも一気に進むだろう。
あと調べないといけないのが、万葉が実際どういう精神攻撃を受けていて、どうすれば解除できるのかということ。そして、黒幕は誰なのか。
今は調べ始めたばかりのため、まだわからないことだらけではあるが、少しずつ全容が見えてきた。全容把握が完了するのも時間の問題だろう。
そうして、それから約一週間後。剛志と臼杵は町田所長に呼び出され、ダンジョン組合本部の新宿ダンジョンにやってきていた。今日ここで調べてわかった全容を共有してくれるらしい。
そしてこの場にはなんと、宮本万葉も一緒に来ている。彼女は何のことか理解していないが、一緒に来てくれと言われているのだ。
長かったようで短かった、剛志の違和感から始まった一連の出来事が、今日終わりを迎えようとしている。




