第107話 内木守三その③
《内木守三side》
今日は朝からなんて素晴らしい一日なのだろう。そう思っていた数時間前の自分をぶん殴ってやりたい。そう守三が感じるのも無理はない。なぜなら初めは愛しの桃花ちゃんとデートができると思っていたところから、好きではないが良きライバルだと思っていた鮫島のことを疑わなくてはいけないという予想もしない結末を迎えているからだ。
今も自分のダンジョン支部に帰る途中、なぜか一緒に行動するよう言われた服部という探偵兼探索者の男が横についてきている。
この服部という男、どこか信頼できない雰囲気を醸し出しており、いまも尚警戒中なのだ。
そんな奇妙な二人組はそのまま守三が管理している横浜第一ダンジョンの所長室にやってきた。このダンジョンも剛志のゴーレムによって壁が作成されているため、剛志に対しても感謝の念がないわけではない守三。なのでやるからには全力でことに当たろうと思っている。
そんな二人は部屋に入るなり、服部はソファーに腰掛け守三はデスクチェアーに座った。
それまで一言も発していなかった守三だが、ここでやっと口を開いた。
「服部と言ったか。お前のことをまだ信頼したわけではないが、桃花さんの頼みだ。仕事はしてやる。で、私は何をしたらいい?」
そう尋ねると服部は今まで頭の中で考えていた作戦を話し出した。
「そうですね、私の手足となって動いていただけると助かります。正直私みたいなよそ者が懐を探るとすぐ怪しまれてしまう。なので協力者が必要だったんですよ。」
そうして作戦を話し出した。まとめると次のような内容だ。
まず調べたい内容は万葉を操っている目的とその方法。これらを探ることが今回の目的だ。
それに伴って調べたいことは、現在最重要容疑者の鮫島にとって何がメリットとなるのかということだ。これはそのまま目的の推論につながる。
次に調べたいのが方法だが、これはひとまず町田所長が調べてくるてはずのスキルの情報が入ってからになるだろう。
ざっくりと話された内容はこうだった。それを聞いた守三は独自の観点で追加事項を提案する。
「そうだな。大枠は賛成だ。方法を調べるにあたって、まずは金やアイテムの流通を探ることを提案したい。ダンジョンというものは中から多くのアイテムが出土される。それらを買い取り、本部を通して売り払い利益を出す。これらがダンジョン支部がになっている業務の大きな一つになる。そしてそこに対しある程度権限のある支部長はそれらの流れを決定することができるからな。」
「ん?それは横領しているかもしれないってことかい?案だけ信頼していたのに意外な提案だね。」
そう尋ねる服部だったが、それに対し守三は首を振る。
「いや、鮫島は横領は行っていないだろうよ。中にはそういう支部長がいない事もないだろうがそんなものすぐに見つかる。賢いあいつのことだ、やっているとしてもそんな簡単な手順ではないだろうさ。私が気にしているのはアイテムの行方だ。もちろんお金の流れを把握すると、誰がどこで利益を得ているかが分かりやすいし、そこから利害関係者を割り出すことも出来るが、一番わかりにくいのがアイテムだろうな。」
そう聞いた服部だったが、それと横領の違いがいまいちわからず質問した。
「おいおい、結局アイテムを横領するって話じゃないか。あまり変わらなくないか?」
「はぁ。お前さん頭良くないだろ。アイテムというものは価値はあるが、それの価値は人によって異なる。ということは、誰に売るかをコントロールできていればそれだけで強力なカードになりうるんだ。それに個人的に欲しいアイテムが出土された際なんかも、誰の手にも渡さずに自身で購入してしまうことも可能だ。こう考えるとアイテムの行方を調べる重要性が分かってくるかね?」
服部はそれを聞いてなるほどなと感じた。しかし、そうなると一つ厄介なことも起こりうる。
「なるほど、納得したぜ。でも、そうなるとアイテムの行方を調べるのってかなり難しくないか?例えば消耗品のアイテムなんかは出てきても使えば消えてしまう。だとするとダンジョン組合的にはアイテムの流れを正確に記録できていないケースもあるんじゃないか?」
「ああ、そうだな。なので組合的には、アイテムが実際にあるかないかは在庫分のみの把握になってしまう。そうすると次に確認できることとしてお金で管理するということになるのだが、これもお金の帳尻さえあってしまえばアイテムが一二個なくなっていたとしても帳簿上問題ないんだよ。これはすでに組合内でも問題視されてはいるのだが、現状解決策が見つからないのと、すでにある利権や関係性を崩したくない反対派がいてそのままにされているんだ。あ、これは内密に頼むよ。まあ一部では有名な話だが」
そうしてダンジョン組合の内情を共有してもらいながら作戦会費を始める守三と服部。
この時点ですでに服部の中で守三の印象ががらりと変わっていた。
初めはただのキモイ小太りの男という印象だったのだが、この少しのやり取りだけで彼の優秀さが伝わってきたのだ。
この内木守三という男。町田桃花とさえかかわらなければ、いたって優秀という前情報だったが、それもあながち間違いじゃないというのが身に染みてわかったのだ。
初めは服部主導で始まった作戦会議だったが、数分後には服部との意見交換をしつつも主導権は守三に移っていた。
そしてどんどんと作戦を詰めていき、作戦実行のために各々動き出したのだった。




