第106話 内木守三その②
「鮫島が容疑者ですか?あいつはいけ好かないやつですが、何かの犯罪行為を行うやつじゃないと思います。」
そうきっぱりと言い切る内木守三。彼の中では鮫島は良きライバルといったところなのだろう。しかし、こちらとしても容疑者として疑うだけの状況証拠がある。臼杵がそれを内木守三に説明する。
「こちらとしても鮫島について詳しくはないので、あくまで疑いを持っているという程度です。ただ、状況証拠が集まりすぎている。ここまでくれば何かにかかわっていてもおかしくないし、むしろ黒幕の可能性すらあるというのがこちらの意見です。」
そういって、今までの経緯を説明した。
万葉の言動に感じた違和感。そこから考えられる可能性。担当医の借金とそれを建て替えたのが鮫島。万葉の妹の百花を今の病院に紹介したのが鮫島。今まで調べて見つけた事実のピースがどうしても鮫島の存在を怪しく浮かび上がらせる。
説明をうけるにつれ、内木守三の表情は険しくなっていく。そしてすべてを話し切ったところで、彼の反応を確認しようとみると黙り込んでいしまっていた。
少し時間を置き、深いため息を吐く内木守三。そして彼はそのまま少し上を向きながら、口を開いた。
「なるほど…。確かにあいつがかなり怪しく思えますね。あいつとはいつかどちらかがこの組織のトップに立とうと目標を共有する仲ではあったのですがね。まあ青二才の戯言レベルではありますが。しかし、もしその疑いが本当であるなら、あいつはどこかで道を踏み外したのかもしれません。最後まで私は信じようとは思いますが、信じているがゆえに全力で疑いを晴らすべく、徹底的に調べることを個々に誓いましょう」
そういって静かに話す内木守三は、先ほどまでとは打って変わり、かなり知的な紳士のように見えた。おそらくなぜか着てきた白のタキシードという意匠を相まっていたとは思うのだが、それでも覚悟を決めた男の表情はある種かっこいいものがある。
そうして新たな協力者、内木守三を得た剛志たちは、その後の話を話すことにした。そうすると少しして来客がやってくる。臼杵が雇っている探偵の服部だ。先ほどの一時間の待ち時間に呼んでいたのだ。
これで調査チームが勢ぞろいした。なので本格的に話し合いをすることになる。
「遅くなりました。臼杵、こちらの二人が新しい強力者ってことでいいかい?あ、あと剛志さん、初めまして。」
服部と初顔合わせの剛志、町田所長、内木守三の三人は、この服部という人物のどこか不気味な雰囲気に警戒を強めたが、そこを臼杵がとりなした。
「皆さん、こいつが今回雇っている探偵の服部です。頼んだ仕事に関してはしっかりやるやつなので、そこは信頼してやってください。ただ人としては信頼できないのでこいつとかかわるのは仕事だけをお勧めします。」
「おいおい、ずいぶんな紹介じゃないかよ。せっかく新規で顧客になりそうな相手なんだ、印象を下げないでくれよ。」
そういいながらもどこか本気ではいっていない服部を見て、剛志たちはあまり心を開かない方が良いだろうなという気持ちになった。
そんなあまり良いとは言えない初顔合わせを済ませた剛志たちは、そのまま今後の話をする。まず口を開いたのは町田所長だ。
「では、各々の役割を明確にしようか。まず、剛志君と臼杵君はこのまま、万葉君の近くで彼女に気取られ無いように普段通り過ごしてくれ。そして内木は服部と鮫島の周辺を探ってくれ、もし敵対した際に誰が鮫島側につくのかや、鮫島の行動範囲やその時間、そういったものを調べる必要があるだろう。最終的には証拠を見つけて、黒だった場合直接対決になってしまうだろうからね。私は組合の情報網を使い、主に機密事項のスキルについて調べようと思う。本来は守秘義務の部分で見るのも犯罪行為なのだが、今回はそこを破るつもりだ。だが、その際に父には伝えることを了承してほしい。」
そういって、皆に的確に指示をする町田所長。彼女の中でやることは決まっていたのだろう。そして内容を聞いた剛志たちだが、そこに対して別に反論はないため、皆うなずき了承した。
しかし、町田所長の意気込みがかなりすごい。組合長でもある自身の父にこの件を伝えたうえで、本来であれば違法行為のスキル情報を緊急事態として確認しようというのだ。
まあ、ダンジョン組合自体の大問題になりえる事案ということもあるだろう。それにそもそも個人が勝手にスキルを調べると違法だが、しかるべき人物の指示の元動けばよいという決まりは存在するだろう。
そしてその権限はさすがに組合長にはあるだろうから、それを説得しようというのが町田所長の考えなのだと思う。
その後も今ある情報を共有してから解散となったのだが、もうすでにある程度共有済みだったので、追加事項はあまりなかった。
初めはどうなることかと心配でいっぱいだった剛志だったが、ふたを開けてみれば一気に話が進みそうな予感がしており、そのうえで町田所長という大きな協力者を得ることができた。
彼女の話ぶりから、おそらく組合長の協力も得られるかもしれない。そうなると一気に解決まで行けるのではないかとすら思える。その考えは臼杵も同じだったようで、帰りの道中話しかけてきた。
「剛志、手詰まりだったところから一気に話が進んだな。今回の賭けはひとまず成功ってところか。まさか組合長まで巻き込めるかもしれないってのは嬉しい誤算だぜ。」
「そうだね、このまま一気に解決しちゃうかもだね」
そう楽観的になっている剛志に臼杵は注意を飛ばす。
「いや、そううまくはいかないかもだぜ。今回組合長を巻き込めるかもというのは希望的観測だ。どこかで失敗するかもしれないし、もし成功しても鮫島がどういった手段で万葉ちゃんを操っているのかがわからない。組合に提出している情報が嘘ってパターンもある。かなり前進したのは間違いないが、まだまだ問題解決には遠いと思うぜ。まあ、ここまで警戒していてふたを開けると案外簡単に解決できるパターンもあるだろうが、それならそれでいいんだしな。」
臼杵の言うことを聞き、確かにと納得した剛志。
そのあと二人はいつものテントに帰り、その日はのんびりと万葉を待つのだった。
そうして二人が休んでいる間も、協力者たちは早期解決を目指し動いている。ただ二人への指示は待機だというだけだ。




