第105話 内木守三その①
「仕事はできる町田所長のストーカーってマジかよ。そりゃ人望もないわな。ってかそいつはそもそも人として信用できるのか?」
かなり引いた様子でそうつぶやく臼杵。彼の発言ももっともだろう。何せどんなに仕事ができていてもストーカーという時点で人格に問題ありだ。そんな人物はそもそも信用することができないというのはごくごく当たり前の感情だろう。
それに対して剛志が答えあぐねていると町田所長がフォローを入れてくれた。
「まあ、臼杵君の心配ももっともだな。私も個人的にはかなり嫌いだ。しかし、実際問題付きまとわれたりしているわけではなく、見かけると話しかけてきてアプローチをするだけでほっとけば実害はない。その辺はちゃんと線引きしているようだよ。最もこちらにその気がないと伝えているのに、何度もアピールしてくるのは一般社会ではセクハラでアウトなんだがね。なまじ仕事は優秀なのと実害も少ないため、ダンジョン組合という組織のために見逃しているというのが本当のところだ。」
その町田所長の発言で、何とか納得した臼杵だったが、それでも自分の目で確かめるまでは信頼できないなと思った。
剛志も実害という実害はあまり受けておらず、あるとしても町田所長と一緒に歩いていると睨まれたくらいだ。その後嫌がらせもないし、アピールが下手なだけのいい奴の可能性も無きにしも非ずだと思う。
そんな内木守三だが、対鮫島用の協力者としては取り込んだ方が良いだろうということに落ち着き、一先ず話し合いの場を設けようとということになった。
そこで、町田所長に相談事があるため今日いきなりだが時間作れないか、という旨を内木守三に聞いてもらったところ、約30秒ほどで「あなたのためなら、いつでもどこでもはせ参じます!」と返信が返ってきたため、町田所長は嫌な顔をしながら一時間後に横浜第三ダンジョンの所長室に来てくれと伝えた。
そうすると、了承の意がすぐさま帰ってきたため、剛志たちはそのまま一時間待つことにした。
今までの詳しい経緯や、これからの進め方。はたまた現在のダンジョン探索の状況などを話し合い、時間をつぶしていると時間はあっという間に過ぎ去る。そして一時間が経過しようとしたタイミングで所長室のドアがノックされた。
時間ぴったりに内木守三がやってきたのだろう。
「入ってくれ」
そう中から町田所長が声をかけると、扉が開き内木守三が現れた。
扉の隙間から内木守三が見えると、剛志と臼杵はあまりの光景に息をのみ、町田所長に至っては珍しく、かわいらしい女の子のように小さく悲鳴を上げた。
そこにはなぜか真っ白のタキシードを着て、バラの花束を抱えた内木守三が立っていたからだ。
内木守三も町田所長だけだと思っていたため、部屋の中にいる剛志と臼杵の二人と目が合いキョトンとしている。そんな謎の沈黙ののち、町田所長の怒声が響き渡った。
「おい、貴様!なんだその恰好。もしかしてだがその恰好でこのダンジョン支部内を歩き回ったわけではないだろうな!」
「おお、桃花さん。気づいてくれましたか!私の一世一代の晴れ舞台。ちゃんと正装をしてきたまでです。何せ桃花さんから誘われたのは初めてのことですからね」
そういって町田所長の怒りに対しては、全く返事を返していない内木守三。そんな調子の白タキシード野郎を見て、初めは唖然として身動きが取れていなかった臼杵が、気を取り戻して突っ込みを入れる。
「おい、剛志。こいつ本当に大丈夫か?この感じを見るからに会話の通じないやばいやつじゃねえか!」
急に振られた剛志は少し困りながらも返事を返す。
「ああ、どうなんだろうね。俺もそこまで知らないんだよね。でもおそらく町田所長がかかわらなければまともだとは思うんだけど…」
そんなやり取りをしている剛志たちを見て、存在を思い出したのか内木守三が町田所長に問う。
「して、桃花さん。なぜここにウジ虫が二匹居るのでしょう。せっかくの桃花さんとの初デートなのに。」
そういうと町田所長は頭が痛そうにしながらも、ため息をついた後答えた。
「はぁ。もう訂正するのも疲れるな。今回お前を呼んだのはデートの誘いではない。そして今後絶対にお前をデートに誘うことはありえない。お前に来てもらったのは内密に動いてほしい案件が出てきたからなんだ。しかしこの件はダンジョン組合の根幹を揺るがす大事件かもしれない。そんな案件にふざけたやつを入れるわけにはいかない。真面目にやらないなら出てってもらうぞ」
そういわれた内木守三はデートではないということを聞き、一瞬絶望の表情を浮かべたが、そのあとのダンジョン組合の根幹を揺るがす大事件かもしれないという部分を聞くと一瞬で真面目な表情に戻った。
「そうですか。デートではないのは残念極まりないですが、重要案件ということでここは我慢いたします。それでも初めて頼られたのには変わりがないので、これからの頑張り次第ではデートが実現するかもしれないですしね。」
真剣な表情でそう話す内木守三。やってることはかなりやばい人物なのだが、段々とここまで気持ちをはっきり伝えているのはある意味男らしいのではないかと錯覚に陥る剛志と臼杵。相手が嫌がってもやめていない時点でアウトなのには変わりがないのだが…。
内木守三はそういうと、持っていたバラの花束をソファーの横に置き、剛志たちの向かいに座った。今、町田所長の所長室では奥のデスクに町田所長。デスクと入口の扉の間に向かい合わせにおいてあるソファーに剛志と臼杵、そして内木守三が座っているという状況だ。
町田所長から見て右に剛志と臼杵、左に内木守三が座ったことで、ようやく話し合いができる状態になった。
そこでやっと臼杵が本題を話し出す。
「…え~と。本題を話していいかな?守三さんでしたよね。あなたに来てもらったのはある疑いに対する調査を手伝ってほしいという依頼です。これは初め、私たちで調べていたのですが、調べていくうちにどうもある支部長が怪しいという結論になりまして。その人について調べるにあたってダンジョン組合側の人物に協力を仰いだ方が良いという判断で、町田所長に相談したところ、あなたも協力者に入れた方が良いということで紹介いただいたという流れです。」
町田所長から内木守三の推薦があったというくだりで今までになく幸せそうな表情を見せた内木守三だったが、もうすでにここにいる人はそのことについて触れるのもめんどくさくなっていたのでスルーした。
そうすると真面目な表情に戻った内木守三が、臼杵に対し質問を返す。
「なるほどね。なんとなくは理解した。では肝心の容疑者は誰になるんだ?」
そう内木守三が効くと臼杵に代わって町田所長が答える。
「ああ、それなんだが。今容疑者に上がっている人物がお前もよく知る男なんだ。鮫島澪司。八王子ダンジョンの支部長のあいつだ。」
「鮫島!?あいつが容疑者ですか?」
まさかの人物だったのだろう。驚いた様子の内木守三。この反応を見て、今回の件に関しては白だと確信した剛志たちは、本題を話し出すのだった。




