第104話 リスクと交渉②
万葉がお休みを取り、妹の百花ちゃんに会いに行く日当日。剛志と臼杵も行動を開始した。
特に万葉に気づかれることもなく、何の違和感もない普段通りのやり取りをし、万葉と別れた剛志たちは、こちらも桃花に会いに行く。
言葉だけ聞くと混乱するのだが、一方は病室にで身動きの取れないながらも、精いっぱい元気を取り繕っている、いたいけな少女の宮本百花と、敏腕のダンジョン支部所長の町田桃花は、似て非なる存在である。
そうして横浜第三ダンジョンのダンジョン支部に到着した剛志たちは、担当の上白根さんを通じて、町田所長にアポを取ってもらう。
町田所長も忙しい人なので、すぐには会うことはできなかったが、一時間程度で突然のアポにもかかわらず時間を作ってもらえたため、剛志と臼杵は所長室へと足を運んだ。
部屋に入るなり、忙しそうに今戻ったばかりなのであろう町田所長が、自身の上着のスーツをハンガーラックにかけているところだった。
「おお。来たか。どうした急に」
「忙しい中時間を作っていただきありがとうございます。今回は少し内密に相談したい事がございまして…」
そう剛志が返事をすると、町田所長は一瞬で鋭い目つきに代わり。「わかった、かけてくれ」といい、自身も準備を終えるとすぐに向かいのソファーに腰掛けた。
「で、内密に相談したいこととは何なんだ?今この場にいない万葉君に関係しているのか?」
そう聞いてくる町田所長。それに対し今度は剛志ではなく臼杵が回答する。
「はい、それと所長。今回の相談事ってのは俺と剛志の二人からの相談なんだけど。ここからは俺が話を引き取らせてもらうぜ。これは剛志に事前に了承を得ている。内容が内容だから、安全策をとってこういうことになったんだが。問題ないかな?」
そういう臼杵の横で、剛志が頷いているのを確認した町田所長は、話はかなり深刻そうだということを理解し、頷くことで問題がないことを臼杵に伝えた。
「よかった。じゃあ早速本題に移らせてもらうぜ。その前にこれを確認したいんだが、万葉ちゃんが主に活動していた八王子ダンジョンの所長って親しいか?」
「ん?鮫島のことか?そこまで親しいわけではないが、同僚なんである程度は知っているつもりだ。確かかなり評判のいいやつだったと思う。優秀な職員だよ。彼がどうした?何か今回の件に関係しているのか?」
そう答える町田所長。それを見ていた臼杵は、彼女が嘘をついているようには見えなかったのと、鮫島に対して悪い印象こそなかったが、別に親しい間柄ではないということも聞けたので、まだ完全に信じれるわけではないが一先ず信頼してもよいだろうと判断した。
そうして、話の本題を話し出した。
「ああ、そうなんだ。鮫島所長に関してはまだ憶測の域を超えていない部分はあるのだけどね。そもそもなんでこうなったのかっている経緯から説明させてもらうと…」
そういって今までの経緯を説明する臼杵、もうここからは後戻りはできない。そうして一通り、話終えた臼杵は向かいに座る町田所長の顔をうかがう。
町田所長は、話の途中から眉間にしわが寄りだし、段々と険しい表情になっていた。そして一通り聞き終えると、険しい表情のまま話し出した。
「なるほど、まずは話してくれてありがとう。君たちの推論が正しかった場合かなり由々しき事態だな…。まず、私自体は鮫島のことをよく話知らないのだが、かなり優秀な人物だというのは聞いている。確か評判自体もかなりよかったんじゃないかな。しかし、もし君たちの懸念が本当だとするならその方法とほかに被害者がいないかなど、調べないといけないことがかなりあるぞ。」
そういって、黙り込んでしまった。
この反応から見て、町田所長自体は鮫島の協力者ではなさそうだ。そうすると今度は万葉のように何らかの精神攻撃が施されており、それが眠っているだけだというものだが、それは調べようがないため今回は完全に町田所長も信じることにした。
そうすると次のことが疑問に思えたので、質問してみる臼杵。
「町田所長。俺らも誰か別の協力者が欲しいと思ってはいたんだが、如何せん誰を信頼してもいいのかわからなかったんだ。しかし、今の所長の反応を見て今回は信用させてもらいたい。でもここで一つ疑問なんだが、なぜ彼女の妹のことを知っていたんだ?」
臼杵の正直な発言を受けた町田所長は、別に気にしていないと首を左右に振りながら回答した。
「いや、気にするな。私としても同じ状況なら同じような行動をすると思う。そしてなぜ万葉君の妹さんの件を知っていたのかってことだったよな。それは簡単だ。今回剛志君の護衛を探すにあたって、万葉君を護衛にするために、妹への見舞いは必ず行える状況にするというのが条件だったからね。でも、この条件等もそもそも私から剛志君に直接伝えていなかったのは悪かった。申し訳ない。」
そういって経緯を教えてくれた。
それを聞いて剛志はそもそも見舞いが契約の条件だったんだと、今知ったことに若干驚きはしたが、別にその件は知らなくても同じ行動をとっていたため問題ないだろう。
また、町田所長がかなり忙しくしているのは理解しているため、たぶん忙しかったから後回しにしていたのだろう。
しかしこれで疑問点が解けはした剛志たちは、早速本題の協力者の件を進めようと思った。
「町田所長。鮫島とはあまり親しく無いって話だったよな。そうなると周辺捜査を行うのもそんなに楽ではないってことだ。ほかの協力者になりそうな人紹介してくれないか?」
そういう臼杵に対し町田所長は返答する。
「う~ん、私もそれなりコネがあるから、何とか調べたりなんかはできるだろうが、確かに一人くらいは鮫島のことをよく知る人物に協力者になってもらうと心強いよな。…あ、一人思い出したのだが、あいつはあまり仲間に入れたくないな…」
「え、誰だよ。名前だけでも教えてくれよ」
そういう臼杵にあきらめて話す町田所長。
「まぁ、仲間に入れたくないは私の気持ちだから、君たちにはあまり関係ないしね。私の心当たりは、内木守三って男だ。横浜第一ダンジョンの支部長をしていて、鮫島とは同期だ。どちらも優秀だったため、周囲はライバルだともてはやしていたな。でもこいつは人望がなく、鮫島はかなり人望が厚かったこともあって、どんなに内木守三が勝っていても世間の評価は鮫島に軍配が上がっていたな。おそらくいい気はしていなかったと思うし、最悪私が頼めば動いてくれるはずだ。しかしな…」
そういって考え込む所長。
それを見てどういうことか剛志に聞く臼杵。剛志もどう説明したらいいのか悩んで、こう答えた。
「仕事はできる町田所長のストーカーって感じかな。」
それを聞いて、かなり引く臼杵だった。




