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第9話 信じちゃってもいいですか……今だけは

「あの……」


どーしよぉぉ!?

え、ど、どーらいい?? どうするのが正解?


侍女さんたち大絶賛!のお手紙を書いた翌朝――


「サファ……」

ぼく、起きたらなんかぎゅっとされてたんだけど?


声からするに、ぼくが囲まれている腕の持ち主は、手紙の送り先こと王太子様? たぶん。


王太子様におかれましては、2度目の寝起き訪問です。


ぼく、本当にこんな寝ぼけ散らかしたぐちゃぐちゃの状態で、この国で2番目だか3番目にえらい人に対面していい、のかな。


身支度どころか半分ベッドの中、上半身起こしただけの状態なんだけど。


「サファ、手紙をありがとう」

「わ、読んでくださったんですか?」

「ああ、もちろんだ」


えー、じゃあ侍女さんすぐ届けてくれて、王太子様すぐ読んでくれたんだ。

みんな、ぼくをちゃんと扱ってくれてる感じがする。うれしい。


「そなたの気持ち、痛いほど伝わってきた」


ぎゅっとしてくれていた腕が、もうちょっとぎゅっとなった。

頭の上に、なんかやわらかいものが触れる。


……んー、手は塞がってるから、これは――きっとぉ、あれだな。

推定:ほっぺ。


え、この状況って、ぼくもぎゅっとしていい感じ? それって許される?

こわいひとに、王太子殿下に手を触れるとは無礼者め! とか怒られない?


どどど、どーしようぅぅ……?


うーーん、ち、ちょっとだけなら……?

――あれ?


手、届かない。

5才の手は圧倒的に長さが足りない。なんか……脇腹にペトってする感じになったけど……

え、平気?


「いいか、忘れるな」

「――!」


びくー! 突然の真剣な声! な、なにぃ!?

これ、小説だったら、復讐を誓われたり、許さないと宣言される流れのやつだ。


え、さっそくまちがえた?

やっぱりぎゅっとしようとしたの、ダメなやつだったかな?

身の程をわきまえろ! 私に触れるな! とか言われる?

それとも、今の、くすぐったかった?


「ふぇ……」

なにしろ5才メンタルだし、さっそくもう泣きそう。


処刑される未来が見えてる5才(情緒ブレブレ)のメンタルなんて、絹ごしの豆腐よりよわよわなんだぞ。

目の蛇口は壊れたままだし、いつどんなきっかけで水漏れするかもわからないんだぞ。



「決して忘れるな、サファ」

「……ふぁい」

なにを言われるかおびえつつも、とにかく返事をする。泣きそうなのを我慢したら、びっくりするほどふにゃふにゃな声が出た。


「そなたには私がいる」

「……ふぇ?」


え? どゆこと? 死ぬほど偉い王太子様がずっと見張ってるぞ、ってこと?


「いつどんなときも、私がついている」

「……?」


王太子様はそっと腕をゆるめて、ぼくの顔をまっすぐ見つめた。


え、やだやめて。洗ってない顔をそんなぴかぴかの目で見ないで……恥ず。


「幼い身でここにひとり連れてこられ、どんなにか心細いだろうと思う」

「……」


それはそう。前世のぼくの5才当時だったら、まじで泣いて泣きじゃくって引き付け起こして気失ってると思う。そんで、目がさめたらまた泣くと思う。


「しかし、私がいるぞ」

「え……」


王太子様、それってどういう――?


「だからなにも心配するな」

「……ほんとうに?」


――あ、反射的に聞いちゃった。


だって、なにも心配しなくていいのはとても助かる。

それは10年後の処刑とかも心配しなくていいってことになりますぅ?


「ああ、本当だ。私を信じろ」

「……はい」


違うの。微妙に間が空いたのは、信じられないかも~とか悩んでだわけじゃなくて、予想してないこと言われてびっくりしただけで。


「信じます」


よし、念押し。これで大丈夫かな。

うーん、ちょっと適当すぎた? もうちょっと、なんかフォローしといたほうがいい?


「でんかは、ぼくのことを気にかけてくださって、とってもやさしくしてくださって、ぼく、すごくすごくうれしかったし、あんしんしました」


ちゃんと、信じる、と言った理由を話しておこう。そうすれば、説得力増すよね。適当に信じるよ~って合わせた感じにならないよね。ね?


「でんか、ありがとうございます。ぼく、ずっとでんかのこと、信じています」


これでダメ押し完了。

ずっと信じてます、って言っておいたら、そんな気軽に見捨てたりできないんじゃないかな? きっと……たぶん、だといいな……。


「……ああ」


噛みしめるような小さいああ、はなんか本当に信じられる気がした。

きっと今のところは大丈夫。


「サファ……」

「はい」


朝からきらきらの王太子様のうっとりするようなお顔を見上げる。

あまりにも至近距離。

それで、ぼくの寝起きの顔は、罪に問われない程度に無事なんだろうか。


「私の名前はファランだ」

「……?」


急な自己紹介。

さすがに知ってるよ? だってこの国のたった2人しかいない王子様だもん。


「今日からは名前を呼んでほしい」

「……!」

あ、なるほど。そういうこと。ぼくったら察しが悪いんだからもう。


王太子様が察してちゃんじゃなくて助かった。本当にできた人だなぁ。本当に12才なの?


「……はい。ファランさま」


やだ。はじめて名前で呼ぶのってちょっと照れるな。


「おはようございます。ファランさま」


ちがうの。なんかこう間が持たなくて。ほら、起きるなりぎゅーで、あいさつもまだだったから!


「ああ、おはよう、サファ」


あーー、朝日よりまぶしいお顔―。

ひとまずは、この方を信じてみよう。


きっと大丈夫……多分、今のところは。


……え、だよね?


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