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第7話 ぼくは王子、なにも持たない

「ぼく、なにもない……」


夕方、侍女さんたちが夕食をテーブルに準備中。

ぼくは腕の中にうさぎをぎゅぎゅっと閉じ込めて、ぽつんとため息。


「お礼もできない」

今日の王宮探索から帰ってきて、侍女さんの目を盗んで部屋中を調べまくってみたけど。

結果に、がくぜんだ。


生活に必要な自分のものには困っていないけど、その他にはなにも持っていないことが判明。


お返しの品物を買うお金とか、お返しにできそうな品物どころか、お礼の手紙を書く紙さえないのだ。


「ぼく、もしかして身ひとつで国からほうり出されたかんじ?」


ふぇ……

うっかり口に出して、うっかり現実に打ちのめされる。

ぼく、一応だけど王子じゃなかったっけ?


「違ったのかも。ほんとはあの国の王宮の隅っことかに捨てられてた子なのかも」

でないとしたら、あまりにも雑な扱いでは?

王家に生まれ、ろくろく誕生日も祝ってもらえず、まともにプレゼントももらったことなく、人質ならこいつで、とテキトーに送り出される系王子。


「かなしみ」


自分で考えて自分で悲しくなるとか、非生産的。

とはいっても、ただの妄想じゃなくて、シンプルに事実を積み重ねた結果だ。それがまた、悲しさを倍増させる。


「いいもん。もう、国には帰らないもん」

じゃあどこに行けばいいのか。


「…………」

国ではいらない子で、ここでは冤罪処刑の未来が待ってる人質、5才。


「もはや国とかの単位じゃなくて、世界的にいらない子なのかも」


またもやうっかり口に出してしまて、目がじわっとなる。


「……泣かないもん」

む、と唇を結んでこらえるしかない。

さすがにぼくの壊れた蛇口にも、休むヒマをあたえたい。じゃないと、最近壊れっぱなしだから、干からびる可能性ありだ。


「たくさんお水を飲もう」

あと、泣かないようにしよぉ。目の壊れた蛇口は、修理してくれる人がいないから自分で直さないと。



「はい、お水ですね。レモン水とミント水もございますよ。なにがよろしいですか?」

「……あ」

ちょうど食卓を整えて呼びにきた侍女さんが、ニッコリ笑っていた。


「あの……」

気まずい。これは、なかなかの気まずさ。ひとり言ごまかすのって、どうしたらいいの?


「――えーっと、れもんのお水、のみたい、かな」

とりあえず、なんでもない作戦だ。



***


「紙とペン、でございますか?」


食事を終えると同時に、なにも持っていない問題に取り掛かることにした。つまり、お礼の手紙を書く道具もない問題を、侍女さんに聞いてどうにかしよう、ってことだ。


「それでしたらこちらに」

侍女さんがそう言って、ささっと持ってきたのは、メモ帳とペンだった。


「……うん」

なるほど、上等な紙だ。だけど! 使い道は王太子様へのお礼状。

……普通のメモに書いて渡すのは、失礼だって言われないかな? それに、封筒もない。


「もしかして、お絵かきですか? それでしたら色鉛筆とクレヨンもございますよ。画用紙もたくさん」

ざざざっと素早く取り出してきたのは、50色くらいありそうなピカピカに鮮やかな色鉛筆とクレヨン、大きな画用紙だった。


「すごい! たくさんある、ピカピカ! きれい」

こ、こんなものどこに? さっきがんばって部屋中を探したのはいったい……?


「お絵かきなさいますか?」

「これ、ほんとうにぼくが使っていいの?」

「もちろんでございますわ。ここにあるものは全部サファ様のものです」

「わあ……」


えっと、さっきのぼくの落ち込みは? なにも持ってない問題、すぐ解決した。といいうか、そんな問題そもそもなかったっぽい。


「さあさ、じゃああちらの机にご用意しましょうね」

「なにを描かれるんでしょう」

「えー、どうしよう! こんなにたくさんあったらなんでも描けるね!」

「そうですわね」


……じゃなくて!


「あ、でも今日はいいの。明日にする」

「あら、そうなんですか?」

「あの、そうじゃなくて、ぼく、あの――」


え。なんで言葉に詰まってるの、ぼく。

手紙を書きたいんだけど、便せんと封筒はありますか? って言えばいいだけなんだけど。


「ああ、違うものがご入用なんですね」

「どんな紙とペンがよろしいですか? ご用意できますよ」

「おっしゃってください」

「ええと……」


侍女さんが察して聞いてくれてるのに、なんかムダにもじもじしてしまう。

だって、手紙書きたい、って言うの、なんかその……


ちょっとだけ、はずかしいいい。


「日記ですか? それともノートでしょうか?」

「普通の日記帳? 絵日記でしょうか? ノートなら真っ白のか、線が入ってるのか――」

「どうせですから、いろいろご用意してみましょうか? たくさんあれば、どれかお目当てのものが見つかるでしょう」

「そうですわね。表紙や紙も、どんなものがお好みかわからないから、いろいろ取り寄せて――」


あわわわ、早く答えないと……!

じゃないと、大量の紙製品が用意されてしまうっ!


「あの! いいの、たくさんはいらないの」

「はい、では必要な分だけにしましょうね。どんなものがよろしいですか?」

「あの、その……び……」

「び?」


はい。ここまできたら引き返せません。び、は拾われちゃってるもんね。


「びん……びんせんがほしいの!」

「あら、便せんですか」

「……ふうとぅも」

「まぁ、お手紙ですね」

「……ちょっと、いいのだったらいいな」

「上等のやつですね。もちろんですわ」

「……はっ!」

侍女さんのひとりが、わかりやすく、気がついた!の顔をした。

なにかに気がついて、はっ!って言う人、本当にいるんだな。


「もしかして……お礼のお手紙を?」

すごい。察しがよい。

「……うん」


ぼくは、たたた、とベッドに駆け寄って、ふわふわを抱えた。

「これ、いただいたので、お礼のおてがみを書こうかな――」

「素晴らしいですわ!」

侍女さんは、食い気味に声を上げてパン、と手を打った。


「まぁ! 贈り物をいただいたから、お礼状を……」

「なんて素晴らしいんでしょう! サファさま!」

すごい2人ともテンポ良くのってきた、


「さすがですわ、サファさま!」

なんか、おおげさなくらいに褒めてくれる。


「私たちったら、まだお小さいからなどと考えてご提案もしなかったのに……」

「なんてことでしょう」

「たいへん失礼いたしました」

「え、いや……うん、いいの」

たじたじになるぼくをよそに、3人そろって楽しそうにキャッキャしている。


「もちろん、すぐにご用意しますわね」

「王太子殿下にお渡しして問題ない、立派なものを、すぐに取り寄せますわ」


「明日にはご用意できますから、まずこちらの紙に練習してみてはいかがでしょう?」

なるほど、アホの子ぎみの5才児がいきなり手紙を書いてうまくいくわけないよね。わかる。


「そうする」

「では、こちらへどうぞ」

「うん」


あれ? ところでぼくって、文字書けるっけ?



***



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しんあいなる ファラン王太子でんか


今日もおげんきでおすごしのこととぞんじます。


ぼくは、でんかにどうしてもお礼がしたくて、はじめておてがみを書くことにしました。

うさぎさんのぬいぐるみ、ありがとうございました。

ぼくのために考えて、おくっていただいたこと、とってもとってもうれしくてびっくりしました。

こんなにすてきなおくりものをいただいたのは生まれてはじめてで、今もむねがいっぱいです。


うさぎさんは、あれからずっとぼくといっしょです。

ねむるときも、おきたときも、すぐそばにふわふわのうさぎさんがいると、なんだか安心します。

でんかがおくってくださったうさぎさんだから、でんかがいっしょにいるようで、心づよい気がしています。


いつも、ぼくをたくさん知らないばしょにつれて行ってくださって、ありがとうございます。でんかといっしょに、広くてきれいな王宮のなかをたんさくするのは、とってもたのしいです。


またごいっしょできるのを心まちにしています。

こんど、うさぎさんの名前をいっしょにかんがえてくださると、もっとうれしいです。


いつも、とってもやさしくしてくださって、ほんとうにありがとうございます。



こころよりあいをこめて

サファ

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「……な、な、な」

「なんてこと――!」

「こ、こんな……」


「えっ、どうしたの……?」


困った。侍女さん3人いて、いっこもお手紙のできについての意見が伝わってこない。なんかとてもびっくりしてるようだけど、そんなにまずかったかな……。


「……あの、だめそう?」


けっこう、いい感じに書けたとおもったんだけどなぁ。

なにしろ、15才まで生きた記憶のある5才だ。ふだん、話しているときは、どうしても今の5才の精神&肉体の年齢につられちゃうけど、書くとなったら考えて文章をつくれるから、わりとちゃんとした感じにできるなーって思ったんだけど。


ちゃんと5才らしさを維持し、感じたことがまっすぐはっきり伝わるように書いたつもりだ。


「あの……」


手紙を手にフルフルしている3人組を見ながら、ぼくはどーしたもんかと反応を待った。


「えっと……」


待ちくたびれて、うっかり足をぶらぶらさせはじめている。いけないいけない。おぎょうぎの悪い子は罰を受けるかもしれない。


「あのね」

ぼくは、フルフル継続中の侍女さんの反応を待ち切れなくなって口を開いた。


「だめなら、ぼく書き直すからおしえ――」

「いいえ!」

「……!」

フルフルからの急な大声に、ぼくはビクーとなって椅子から落ちそうになった。


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