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第5話 そっといなくなる方法

よし、逃げよう!

翌朝、ぱっちり目を開けた瞬間、さっくりと決意。


そうだそうだ! あの事件が起こる前だよ!

15才になる前にここからいなくなっちゃえばいいんだっ!


できるだけ早くいなくなって、国の大事な情報とか知ることもなく、誰からも忘れられて、どこにいるかもわからなくなっちゃうのが一番!


「…………」


ただ、問題はぼくが一応、人質ってこと。

ぼくの母国がほんのり怪しい、この国に敵対するんじゃないこれ? みたいな信用できない動きをするから、保険としてぼくがこの国に連れてこられてるという現実。


出てくね!って言って、いーよ!とはなるわけがなく。

そうなると、こそっと出ていくしかない。


でも、そうすると母国が危ないかもしれないかもしれない。よくて新しい人質、悪いと――

「……ダメかも」


ぼくを、関係値のあぶない国に人質に適当にほいほいよこした、薄情で雑な家族と母国だけど、ぼくが逃げ出したせいでなんかあったら、やっぱりちょっと……けっこう良くない。


でも、あの人たち「誰かよこせって人質ってこと? まぁ、サファならいいよ。どーぞ」ってめちゃ軽いノリだったよな。


ぼくが幼児だしわかってないだろうと思って、一応親ってことになってる王さまとか、目の前で雑談以下の10秒のやり取りで即決して、雑にぼくをポイッと投げ渡した感じだしぃ……。


大臣とか偉いさんたちも、まぁこいつならいっか。第3王子だし、なんかちょっとアホだし、みたいな顔でうなずいてたし。


「母国ひどい。ゆるせない」


でも国民はわるくないし、あの超絶テキトー王さまと重臣さんたちでも、なんかあったらイヤかもしれない。……うーん、ちょっと、かすかに、ほんのりだけど。


「あーーん!」

じゃあいったいどうしたらいいの? どうやってここから誰にもとがめられずいなくなったらいいの?


「サファさま! どうなさいました!?」

「お目覚めですか!」

「なにかありましたか?」


ベッドの上でジタバタしていたら、聞きつけた侍女さんが3人そろってやってきた。


「なにもないよ。おはよぉ」

ぼくは慌てて、なんでもないですよ顔をしてみせる。


「ですが今、あーーん!、ておしゃっていらしたので」

「……!」


侍女さんは、なぜかムダに上手なぼくマネをしながら、心配顔をグイッと寄せてくる。


「それはその……ゆ、ゆめをみて」

ひねりのない言い訳といってはいけない。目覚めの奇行にはこれがいちばん自然な言い訳なのだ。


「ああ……そうだったのですね」

ほら、わかってくれた。


「やはりおひとりでお寂しいから……」

「うさぎを飼えないと言われたからかもしれませんわね」

「残念がってらしたと、殿下が気にしてらっしゃいましたものね」


いや、そういうわけでは……。

昨日の美術館での、うさぎさんかわいいけど触れ合えない問題(?)は、王太子様によってだいぶ大げさに伝えられていた。


「あの、うさぎさんのことはだいじょうぶだから――」

「まぁ、なんて健気な……!」

「え、あの――」

「こんな異国の地で、せめて小さな可愛らしい動物でも飼えたらよろしかったのに……」

「王宮では、疫病や衛生の問題で、全面的に禁止されていますものね……」


ぼくはあの絵を気に入っただけなんだけど――

でも、言われてみればたしかに、あんなふわふわのうさぎがいてくれたらいいだろうな、という気持ちになってくる。


うさぎはふわふわであったかいしやわらかい。それに、ぼくが悪いことをした、とか嘘を言ったりもしない。毎日なでさせてくれたら、安心できそうだし。


「うさたん……」

別に飼いたいとかそんなふうに思ってたわけではなかったのに、昨日からみんなが「飼いたいんでしょ」って言うからぁ……。


「ふわふわうさたん……うぅ」

ぼくはこの先もずっと、あんなふわふわやわやわ、かわかわに可愛いうさたんに触れることもなく、10年後に処刑されるんだ。


そう思ったら……なんだかまた、目の蛇口が壊れちゃったみたい……。


「ぴぇ、ふぇぇん……」


「なにがあった!」

そのとき、遠くから誰かの慌てた声が聞こえてきた。


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