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第18話 お外に出るのはじめてっ

「久しぶりになってしまって、すまなかった」


王太子殿下と王宮探索!というこの国一番のぜいたく散歩が、1週間ぶりくらいに再開!

でも、王太子様はちょっと「ごめんなさい」な顔。


なんでえ? でんか忙しいって侍女さんたちから聞いてたよお。どしてぼくに謝るのぉ?


「でんか、やることがたくさんあるって、おいそがしいって聞いたので」


ぜんぜん、ぜんぜんいーのに。そんな。


ぼくが国王陛下に会って、そのあと山盛りお菓子プレゼント、からのスーパーお菓子パーティ、からの菓子職人さんへのお礼状作成、からのお礼参り、と、お菓子にまみれてい浮かれぴょんぴょんな間、王太子様はお勉強したり、他の国の人から来たえらい人に会ったり、難しいお話ししたり、なんか大変な予定があったみたい。


なんかすごく申し訳ない気持ちぃ。

とても、ぼくを連れて王宮をうろうろするどころじゃない。当然すぎる。


「だからでんか、ごめんなさい、しないでいいんです! がんばっててすごいです」

「そうか……ありがとう」


王太子様はふわーと笑って、ぼくの頭をなでなで。


「うふふ~」

ひさしぶりのやつ。王太子様、前に会ったときのままでなんかうれしい。

「ん? どうした?」

「えへへ~、あのぉ――」

え、やだ。口に出そうとするとちょっと照れるぅ。

「うん?」

あ、でもこれ、いまさらごまかせない感じ? どうした?な顔で見られてるしぃ。

「あの……えっと、今日ぉ、でんかにお会いできて、うれしなぁって……」

「……!」

でんかは、えっ!という顔で固まって、ちょっと視線をそらした。


はっ! あっ! こ、これは!

し、しまったぁ! ぼく、調子に乗りましたかっ? なんか、にやにやして見苦しかったですか!?


「でんか……?」


はわわわ、ど、どうしよう……!? 王太子様に嫌われたら、一気に処される未来が近づくかもしれない! ど、どうなの?


ほんのちょっと、もう「チラ」くらいこそっと見上げてみる。


「……」


んんんん……? わかんなぃぃぃ。怖い顔……にも見えなくもないけど、なんか違う気もする。



「あの……?」


なぞの無言タイムこわいよおお。


「サファ……」


と思ったらしゃべったぁぁ! どっち? おこってる? おこってない? きらいになった? なってない?


「その……」


はい、なんでしょう!? そんな言いにくいことですか? え?


「わ、私も会えて、その……」


はい! いい? わるい?


「――うれしい」

「えっっ」


よかった、じゃなくて、うれしい!?


「えっっ!?」


「な、なんだ。そんな顔をして」

「び、びっくりして」


王太子様は、むむむ、という顔をして、もう一度ぼくの頭に手をのばした。


「なぜだ。私だってそなたに会えてうれしいぞ。当然だろう」

「えっ!」


当然なんだ! ぼくに会って、うれしいのが!

すごい! なんと、ぼく――

王太子様に、きらわれてない!! ぜんぜん。今のところ……たぶん、きっと。


「それは……当然だろう」

「おお!」

「そんなに驚くことか?」

「知らなかったので!」

「そうか……」


王太子様はちょっとだけ、むむっとしたけど……、たぶんそんなに嫌な感じじゃない、っぽい?

だ、大丈夫、だよね。うん。


「あの、でんか!」

「うん?」

「ありがとうございます! えへへへ」


あ! しまった。ありがとうを言うだけのつもりが、ちょっとにやけちゃった。


「ふっ……さあ、行こうか」

「はい!」

おお! 大丈夫! 王太子様もちょっと笑ったので、今のにやけたのはセーフな感じぃ。


「しかし、サファ。ひとつ忘れていることがあるだろう?」

「ふぇっ……?」

なな、なんだろぉぉ!? 王太子様との約束? そんなもの忘れるとか不敬罪で処刑案件では? はわわわわ。


「でんか、あの――」

ど、どうしよう。ぜんぜん思い出せない。」


「ほら、それだ」

「ふぇ?」

「私のことは、殿下ではなく名前で呼ぶと約束しただろう?」

「あーー!」


本当に! そうだった! ぼくってば、なんで忘れてた!? 本当の本当にお馬鹿なの?

信じられない。


「ううう……ごめんなさいぃぃ」

「はは、よい。怒ってなどいない。ただ、思い出してくれればいいのだ」


よかったー。王太子様、心がひろぉい! さいこー! ありがとう!

はっ……そうか。普段から心のなかでも王太子様とか殿下とか言わないで、ちゃんと名前で呼ぶようにしてれば忘れない! うん、そうしよう。

あと、メモもしておこう。


・王太子様のことはお名前で「ファランさま」と呼ぶこと。


よし、これあとで脳内からノートに転記ね。


「はい! あの、えっと……ファランさま」

やだ、いきなりはちょっと照れるぅ。


「そう、それで頼む」

「はい!」

「……あまり堅苦しいのもな」

ポツリ。


なるほどなるほど。王太子様!って言われるとぉ、なんかお仕事モードみたいになるって感じぃかな?


たしかにぃ、ずっとそれはぁ、やだね。

おーけー! それくらい、王太……ファランさまがニコニコのためにってことで、いくらでもぉ協力するよねえ。


「それでサファ、今日はどこか行きたいところはあるか?」

「はい! 今まで行ってなかったところがいいですっ!」

「……まぁ、それはそうだな」


逆にそれだったらどこでもいいです! ここはどこに行っても「わーーー!」と「すごい!」と「きれい!」しか言えなくなるくらいすごいので。


ぼくの語彙力の問題……そのへんについて置いておこう。うん。

なんたってまだ、5才だし。むずかしい言葉つかったほうが不自然でしょ。うん。

まぁ、中身は15才から引き継いでるわけなんだけども。……うん。


「うむ……そうだな。どこにしようか」

ファランさまはそう言うと、ちょっと難しい顔になった。


なんでぇ……ぼくのお散歩のことで、そんな大事なこと考えてるみたいな顔するのお?


真面目? なにごとにも真面目に取り組むタイプ?


ぼくのお散歩のことでさえ? すごい!

でも、あんまり大事じゃないことは、そんなに頑張らなくていいと思うなぁ。だって、たかがぼくの今日のお散歩コースだよ?


「――そうだ」


心配と尊敬の目で見ていると、ファランさまはパッと、気がついた!の顔になった。


なにー? どこかいいお散歩コース思いついたー?


「うっかりしていたな」

「……?」

「建物の中を回るばかりで、まだ庭には一度も出ていなかっただろう?」

「あ! たしかにぃ」

「すっかり忘れていたな」

「ぼくもです!」

せいぜい、移動中に「お外は広いな~」っ眺めたくらいだ。うっかりうっかり。


「では今日はどこか庭を散策しよう」

「わー! ぼくお庭はじめてですっ!」

「……! なに!?」

「ひえっ」


ニコニコのお顔が急に怖くなって、ちょっと声が出てしまう。

なんでぇ……? 怒った? 怒ったの?

ここにきて何ヶ月も引きこもりしてたのか、って怒ったの?


「お、お外でなくてごめんなさい……」

しょんぼり。とりあえずごめんなさいする。

さっきまで、すごくニコニコだったのに……なんでぇ……。


「違う! そうではない」

「ひえっ」

違う、の声が鋭くて、思わず肩がビクッと……。


え、ごめんなさいは、ダメだった? じゃあじゃあ……どうしよう!?


「あのぅ……」

「謝らなくてよい。そなたはなにも悪くないであろう」

「そう……でしょぅか?」


え、どうしよう、自信がない。


前世の記憶が戻る前のことは、なんか記憶がぼやっとしててよくわからない。

もしかしたら、なにか悪いことしてたかもしれない。それか、ただただ、ひたすらぼけーっとしてたせいで、なんにも覚えてないのか……。


どっちにしても、ぼく悪くないです!とはっきり言える感じじゃない。


はっ!


もしや、ファランさま、それを見通して、ぼくが「悪くないです!」とか嘘つかないで、ちゃんと「悪くないかわからないです」って言うのかどうか、試してるとか……。


よし、じゃあここはとにかく全部正直に――


「あのぅ……じつはぼく、ここに来てからのこと、あんまりはっきりおぼえてぇなくて……」

「……!?」

「それで、外に出なかったのはどうしてなのか、ぼくが悪かったのか、その……よくわからない、です」


あ、ごめんなさいってもう一度言ったほうがよかったかな?

や、でもさっき謝らなくていいって言われてからなー。


「なんてことだ……」

「……ファランさま?」


な、なにー? ファランさま、なんかぷるぷる震えてる……?


「どうかしましたか? あの――」


……はっ! このぷるぷるはもしかして――


「あの、寒いですか? ぼくの上着、きますか?」


ぼくと王太子様では、国家的に重要度が雲泥の差! 天と地の差! ぼくのお散歩のせいで風邪でもひかせたら、ぼくの未来は一気に危なくなりそう。


「んん……っと――」

わたわたしながら、気持ちだけは急いで上着を脱いで、


「はい。どうぞ」

アワアワしながら上着を差し出す。


「サファ……」

「あれ……」

ぼくとファランさまの間で小さい上着が、風に揺れてヒラっとした。


「あれ? ちいさい……」


そう、小さい。


「ぼくのじゃダメですね……」


当たり前だったし、差し出してみるまで気づかないぼくのお馬鹿さんぶりにちょっとしょんぼりだし、もう……。


「……大丈夫だ。サファ」

「ほんとうに……? さむくないです?」


さっき眉をきゅっとしてぷるぷるしてたファランさまは、すっかり穏やかな顔でぼくの手から上着を受け取る。


「さあ、そなたが着ているといい。私は大丈夫だ」

「はい!」

「だがーー」

「……?」

はい。なんでしょぉぉ?


「そなたの心遣いに感謝するぞ」

「ふぇっ……?」

なんか感謝してくれてるー?


「いえ、ぼくはそんなっ――」


はっ! ダメダメ! 「感謝する」って言ってくれるのに、「いえ」っていったらダメなやつ^!


いいことを言ってくれたり、褒めたりしてくれたときは、そのままありがとうしないと! いえいえ、ってしたら、言ってくれたことをイラナイしてるみたいになっちゃうもんね!


「あなたのために」ってプレゼントをくれたのに、「ぼくなんかそんな受け取る資格ないです」って拒否するみたいなものでしょ。相手もぜったいしょんぼりしちゃう。ぼくならする。


謙遜すればいいってものじゃあないのよ、うん。

ということで。


「ありがとうございます。……えへへ」

ここはありがとう、一択だ。ちょっと予定外の照れ笑いが入っちゃったのはご愛嬌ということで、ね。……べ、別に変な感じじゃなかったよね、大丈夫よね?


「そなたは本当に……」

「……?」


チラーっと見上げたファランさまはなにか言いかけてやめちゃった! なんでぇ、一番気になるやつ。


「ファランさま?」

「……いや、では行こうか」

「はい!」

「……そなたが外に出られなかった件は、確かめてみないとな」

「……? ファランさま?」

「いや、気にしなくていい。さあ、こっちだ」


なんだろ? ま、でも、さっきのきびしー顔から穏やか~な感じになったので、よしとする。

そなたは本当に――の続き、何て言おうとしたのかはぜんぜん気になるけど。



寒くないみたいだし、風邪も引かなさそうだし、よかったよかった。一件落着。



――と思ってたのは、ぼくだけだったかもしれない。


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