第1話 転生したけど、10年後に死ぬってホントですか?
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
目をパチッと開けるのと同時に、ぼくはベッドの上にがばー起き上がる。
「えぇ……だってぼく、このままだと――」
ぜぇぜぇ、と息をはきながら、いっしょうけんめい考えをぐるぐるさせる。
「ぼく、ぼく……」
でもがんばって考えれば考えるほど、答えははっきり一つ。
「あのぅ……」
正直、口に出すのもためらわれる。だって、言ったら本当になりそうじゃない?
言わなくっても本当のままだよ、ぼくのなかのぼくが答える。
ばかばかばか、ぼくのばか。ぼくの中のぼくのばか!
いや違う。今はぼく同士で喧嘩してる場合じゃない。
ぼくの危機だ。それも致命的なやつ。
だって、ここに転生してこのぼくになったってことはつまり――
「ぼく、死ぬよね?」
ここは多分、ナントカって国の王宮の、なんかその中。
えーっと、なんかほら、王さまとかが暮らしてるあたりの、はなれ……みたいな?
なんか情報がふわっとなのは、記憶があいまいとかじゃない。知識的な問題。
……しょうがない。ぼくまだ5才だし。
そもそもこの国の子じゃないし。
そう。ぼくはこの国の子じゃない。海の向こうのうんと遠くにある国の――
「サファさま! どうかなさいましたか!?」
意味もなく自分に言い訳してたら、わーっとなった侍女さんたちがやってきた。
「どこかお加減でも悪いのですか?」
すごい勢い。気がついたらもう取り囲まれてる。手練れだ。
「まぁまぁ、そんなに青い顔をなさって!」
思い出したばっかりの情報を頭の中で整理するヒマもない。
侍女さんたちが、ベッドの周りからぐいーっとぼくを覗き込む。
「お熱は……ないようですが、念のためお医者様を――」
やめて、そんなまじまじ見ないで。寝起きなのに、はずかし――じゃなくて!
「ちょっと待ってぇ!」
息をする間もなく病人モードに突入しそうになって、ぼくはハッとなった。
「サファさま?」
「だいじょぉぉぶ! 具合はなんともないから!」
「本当ですか?」
疑わしそうに覗き込んでくる侍女さんたちは、ウソは見逃さないぞ、みたいな顔でじーっと見てくる。ウソついたらめちゃ追求とかされそう。そして洗いざらいしゃべらされそう。ちょっと怖い。
「ほんとうに!」
これはウソじゃないから平気。そしてはっきりきっぱり言わないと、信じてもらえなさそうな空気。
お医者さんを呼ばれても、困る。
夢の中で前世の記憶が取り戻して、今世での自分の末路にビビってわめいただけです、って説明したら、多分ちがう病気をうたがわれちゃう。やっかい。
「ですが、さきほど叫び声のようなものを――」
「ちょっと、へんな夢を見ただけ!」
これもぜんぜんウソじゃない。前世で読んだ小説の「悪役令息」に転生したっていうのを自覚した夢、そんなの「へんな夢」じゃないわけがないし。
「そうなんですね。まぁ、お気の毒に」
「もう大丈夫。なにも怖くないですよ。さあ、お起きになれますか?」
すごい。過保護がすごい。なんかめちゃ大事にされてる感じする。
なのに、あとたった10年で、全員敵になってサクッと死刑になるの怖い。落差とんでもない。
しかーも!
思いっきり冤罪。
全くの無実なのに、アッサリ容赦なく終わっちゃうやつ。
そんなの、ほんと……ほんとムリぃぃぃ!!
「うぅぅ……」
ほんと、怖くて泣いちゃう。
「サファさま!?」
「どうなさったんですか?」
「やはり具合が……すぐにお医者様を――」
「だいじょうぶ!」
あーっと。
ぼくは、ちょっとアホの子なのかな?
さっき頑張ってお医者さんを回避したのに、一瞬で台無しにしてしまった。5才の情緒に引きずられるな、ぼく。油断は禁物だぞ。
「本当に?」
「ご無理なさってないですか?」
まずい、さっきよりも疑われてる。しっかり、ぼく。今は5才でも、転生する前は15才だっただろ。15才といえば立派なお……大人じゃないし、ぜんぜん子どもだ。
(え、15才!?)
自分をなだめた言葉に、自分でびくーっとなる。
(ぼく、前世でも15才で死んだの?)
ガーーン、と頭をたたかれたような気持ちになる。
(そんで、今度も15才で死ぬの?)
それはあまりにも……カワイそうすぎない?ぼく。
そんなのあんまりだ。
「ぐすん、しんどすぎる……」
「サファさまー!? 今すぐお医者様をお呼びしますから、しっかりなさってください!」
あー、ぼくはちょっとあれだ。あんまり頭がテキパキ働くほうの子じゃないのかもしれない。
……ま、しょうがない。いろいろ急に思い出したし、それがあまりにもカワイそうでガーンすぎたし。急にたくさん考えられないよね、うん。
はぁぁ、だって――
……前世でうっかり15才で死んじゃって。
まだあんまり楽しいこともなかったのに。
先行き微妙なぼくより、将来有望そうな小さい子が助かったほうがいいかな、なんて一瞬思っちゃったせい。それで思わず手が伸びちゃったよね。もちろん無意識。そんなの意識してできるわけない。
その子が安全なところに行ったのを見てホッとしたのと、ぼくの前の人生が終了したのはほぼ同時。
ほんとにカワイそう。ちょうど歩いてるところに暴走バスが突っ込んでくるし。近くに巻き込まれそうな、でもギリギリ助けられる子どもがいるし。
その上、今度のこの人生では、あっさり処刑だし。
ほんと、なーーんにも悪いことしてないのに。冤罪なんてあんまりだ、あんまり。
無実の罪で死刑は、本当に、ほんとうのほんとうにサイアクのやつ。
違うって言っても誰も聞いてくれないのはほんとうに悲しい。悲しすぎてもういいやってなるくらい悲しい。
あぁぁ、なんで今日、突然いろいろたくさん思い出しちゃったんだろ。そのせいで、なんかもう頭がぐちゃぐちゃのめちゃくちゃでバクハツしそう!
本当にもう……あのときのバスの乗客の人たちとか大丈夫だったのかなぁ……いや!今そこ考えるところじゃなくて、だからええと……どうにか死刑を回避しないといけないけど、でも方法が……
――ふしゅぅぅぅ……
ぼくの脳みその控えめな性能では、流石に限界だったらしくて。それきりぼくは元いたベッドにパタリ。
「サファさまっ!」
「サファさまっ! どうなさいました?」
「すぐにお医者様を!」
ああ、だから、だいじょうぶだってぇぇ……たぶん。




