第四章 ~無謀~
~The Letter~
第四章
-無謀-
「じゃあ,
後で行くからー」
入浴時間を終え
フロアで女子とすれ違うとき,
祐太は松本たちと
一言交わしていた。
「なんか緊張するなぁ」
“女子の部屋に行く”
それは……
物凄くドキドキする行為であり,
少し恥ずかしいことでもあった。
「おー!来た来た!
今からトランプするけど
一緒にやるでしょ?」
女子の部屋に到着すると,
カードを手にした松本が
呼びかけてくる。
皆で楽しくゲームをしていると,
野枝瑠はいつの間にか
周囲の盛り上げ役になっている。
祐太の上手い手回しにより,
恭弥は野枝瑠の
隣に座ることができた。
「そろそろ就寝時間だな
先生にバレる前に帰らないと!
行くぞ恭弥。」
部屋の壁にかかっている
時計を見上げ,
祐太が声をかけてくる。
恭弥はうなずき,
部屋を出た。
「ちょい待て,
お前らなんで
こんなとこにいるんだ!?」
突然,
背後から怒鳴り声が
飛んでくる。
ビクッと,
反り返る背筋。
2人は足を止め
……恐る恐る振り返った。
「どういうことだ?」
そこに立っていたのは
槇先生だった。
2人の顔は,
みるみる青ざめていく。
その後2人は
槇にこっぴどく叱られた。
自分たちの部屋に戻ると,
先生たちに叱られたことを
おかしく笑いながら
明るく迎える男子もいれば,
女子たちに会いに行ったことに対し
批判の目で見る男子もいた。
「清木場と片岡,
女子の部屋行ったらしいよ」
「……実行委員のくせに」
背後から聞こえた
数人の小声。
「気にすんなよ。
野枝瑠も寛子も人気だし
妬んでるんだろ」
肩を落とす恭弥を,
祐太は明るく励ました。
「あんな奴らに
負けてられねーな!!」
彼は恭弥に
力強く声をかけた。
「大丈夫だったー?」
次の日の夜,
キャンプファイヤーの
炎を前に
野枝瑠が話かけてくる。
「……めっちゃ怒られた」
恭弥は,
眉を下げて苦笑いをした。
「マジでー??」
あちゃー
といった顔で微笑む彼女。
恭弥は“実行委員”
という役に選ばれたおかげで,
彼女のそばにいられることを
とても嬉しく感じていた。
「めっちゃ綺麗っ!!」
突然大きな声をあげ,
野枝瑠は空を指差す。
声につられて,
恭弥は上をみた。
プラネタリウムに
いるかのような満天の星空。
「……ほんとだ」
いままで見たことのない光景に,
恭弥は感動した。
「来て良かったねぇ」
彼女は,
顔をクシャッと崩し
微笑みかけてくる。
恭弥は,
胸がキュンと苦しくなった。
……やっぱ好きだぁ。
目の前で激しく燃え上がる炎に,
野枝瑠の横顔は
赤く照らされている。
恭弥は,
熱い思いで
息苦しくなるほど,
彼女を見つめていた。
あっという間に,
オリエンテーションは
終わりを迎えた。
生徒たちは,
疲れた表情でバスに乗っている。
隣で眠る野枝瑠。
恭弥はそっと上着を脱いで
彼女の体にかけた。
いつの間にか
眠っていた恭弥は,
バスの揺れで目を覚ました。
そして,
野枝瑠の肩に
頭をのせていることに気づく。
「ごめんっ……!」
恭弥は飛び起きて
野枝瑠に謝った。
「……ううん」
野枝瑠はふぃっと目を背け
体を覆う上着に手を伸ばす。
「……ありがと」
小声で呟く彼女の耳は,
真っ赤に染まっていく。