第三章 ~協力~
~The Letter~
第三章
-灯り-
~宿泊訓練当日~
2泊3日の合宿で
親睦を深めようと開催される,
初めての学年イベント。
誰もが緊張と期待を
合わせ持ち,
恭弥たちのクラス……
1組のバスの中は
騒がしく賑やかだった。
そして,
その輪の中心にいるのは
……やっぱり野枝瑠。
小さな体でちょこまか動く
クラスのムードメーカー的存在
な彼女に全員が明るさを求めている。
「お菓子食べる??」
恭弥は,
実行委員という役のお陰で
野枝瑠と一緒に
ペアを組むことが多かった。
「あぁ,食べる」
バスの座席さえも,
特等席をつかむことができた。
「このお菓子すごい好きなんだよ!」
野枝瑠の差し出した
スナック菓子に手を伸ばし,
恭弥の気持ちは高ぶってゆく。
「野枝瑠も,これ好きっ!」
これといって
可愛いわけでもない彼女を,
いつの間にか
好きになってしまった。
恭弥は,
このオリエンテーションが
終わらなければいいのに
と,強く願っていた。
合宿所に着くなり,
目まぐるしく始まる
作業の数々。
グループに分かれるときは,
野枝瑠とも離れ離れ。
飯ごう炊さんや
山登りの時間になれば,
恭弥は6班の方を
チラチラと気にして
視線を送るのだった。
他の男子たちと
賑やかに騒ぐ野枝瑠の
姿を見るたびに,
恭弥の中でイライラした
感情が込み上げてくる。
「どうした?恭弥」
「……えっ?」
モヤモヤした気持ちで
暗い顔をしていた
恭弥を気遣い,
祐太が声をかけてくる。
「何でもない……!」
すっかり落ち込んでしまった恭弥は,
ため息をつきながら答えた。
「野枝瑠か?」
恭弥の態度にピンと来た様子で,
祐太は口を開いた。
「クラスの何人かは,
恭弥が野枝瑠のこと
好きだって噂してるし」
「嘘っ!?」
そう呟く彼に,
恭弥は“ヤバい”
というかのように言う。
「やっぱ好きなんだぁ?」
祐太はニヤニヤと
顔を覗き込んでくる。
「協力してやるか?」
顔を真っ赤に染める恭弥に
祐太はにんまりと微笑み
耳元でささやく。
「いやいや,
いいよいいよ!!」
焦った様子で,
恭弥は両手を
素早く振った。
「何言ってんだよ!
協力してやるって!
素直に打ち明けろよ」
自信満々に,
祐太は微笑んでくる。
戸惑いつつも,
恭弥は彼の案に乗った。
「今日の晩さ,
一緒に女子の部屋行こうよ!
……実はな
俺も好きな奴いるんだよ。
野枝瑠と仲良い子だしさぁ!」
“祐太の好きな子”
……恭弥は,
なんとなく気づいていた。
祐太は,
クラスではそこまで
女子と仲良くしている
というワケでもないが,
同じクラスの松本寛子とは
よく話している。
「……松本?」
恭弥は,
小さな声で問いかけた。
彼は,
少し照れた表情で
こくりとうなずいた。
「……え,
でも女子の部屋
ってやばくない??」
「いけるって!
あいつらも“おいで”
って言ってるし」
……そういう問題か?
先生にばれたら……。
頭の中で,
不安が募っていく。
でも,
断りづらい。
結局……
祐太の勢いに負けて,
恭弥は野枝瑠たちの部屋に
押し掛けることに
なってしまったのだ。