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たたかうラーメン屋


 あたりが白い煙に包まれ、リサを囲んでいた暴漢たちが動揺、混乱する声がそこら中、響く。

 リサは呼吸ができなくなり、床に突っ伏した。


「おい女ぁ! 女探せ!!」


 オールバックスーツの声も明らかに動揺していた。

 リサの意識が朦朧とし始めた頃、丸太か何か太いものに胴体を抱えられ、吊るされるような感覚を覚えた。

 

 この匂い……なんだか覚えがある。この太いもの、腕だ。

 あたりには煙探知機が作動したのか、スプリンクラーから大量の水滴が降り注ぎ、あたりの防火シャッターがガコン! と閉まる音が響く。

 ぐったりとするリサの視界には、地上の改札口に通ずる階段を駆け上がる割烹着が見えていた。


「女! 女逃げた!!」


 いくつかの足音がこちらを追いかけてきていた。

 そこに、またどこからか声が響く。


「安全装置よーし、弾込めよーし、単発よーし」


 その声に続いて、ドン、ドン、ドン と、鈍い音が響く。しかし銃にしては、発砲音のそれとは少し違うように聞こえる。

 とにかくもっと鈍い音だ。そして遠くから「ぎゃあ!!」という男の叫び声も響いてきた。


 西口の地下から階段を上がり、地上に出る。あたりには、すでに消防車のサイレンが響いていた。

 

 リサを抱えている割烹着の人は、新宿駅西口から東南口に通ずる高架下のあたりまで一度も止まることなく走り続けた。

 高架下には、見覚えのある『角屋』の屋台が停まっており、リサはステンレスのカウンター台に、雑に寝かされた。

 自分をここまで抱えて走ってくれたのは、角屋の丸眼鏡の店員さんだった。


 やっぱりだ。また、あのラーメン屋さんだ。また、助けに来てくれた……。あの女の子もいるのだろうか? また怒られちゃう……。


 リサの視界の端に妙なものが写ったと思うと、丸眼鏡の店員さんよりかは背が低い、割烹着姿で頭にヘッドギアをした人と、

いつもの丸い女の子が高架下に現れた。

 二人とも銃を抱えている。


「怪我してるよーーー?」


 ヘッドギアの口元から、見覚えのある八重歯が覗く。

 丸眼鏡の割烹着には血がついている。リサの顔の傷だろう。それを確認すると、女の子がすごい勢いでリサに駆け寄る。


 顔が染みる。それは消毒液と、氷のうだった。

 切れている耳に布を当てられ、顔中をガーゼで丁寧に覆われた。


 ところで、この人たちはなんなんだろう? 本当にラーメン屋さんなのだろうか……?


「さっさとずらかろーー。あいつらまた来るよー?」


 ヘッドギアの八重歯と、女の子が屋台に乗り込んでくる。

 女の子は屋台の上で端末を開いて、何かを起動させた。

 丸眼鏡さんは、屋台の先頭で、一人で屋台を引こうとしている。

 ヘッドギアの姿は、いつの間にかいなくなっていた。


「待てコラア!!!」


 パン! パン! と、乾いた発砲音。

 すっかりスーツのヨレたオールバックが高架下までやってきた。

 彼の後ろには、十人以上入る暴徒がついて来ている。


「どこのもんだお前ら……」


 スーツの言動からは、すでにリサたちを追い詰めた余裕が感じられる。

 後の兵隊の多さがそうさせるのだろうか。


 すると、屋台の車内スピーカーから、八重歯の声が聞こえてきた。


『莉春ーー、装置解除ーー』


「はい」


 女の子が端末を操作すると屋台中に起動音が響く。すると屋台の天井からは固定機銃が出現し、そこに八重歯がついた。

 ガーーーーー!! と八重歯が機銃を発砲する。

 暴徒たちは散り散りに逃げていった。


 到底、人間が動かさせる重さとは思えないが、丸眼鏡は屋台を引っ張って走り出した。

 それと、何キロ出ているのだろう?

 白昼堂々、奇妙な形の屋台が新宿を走る車に並走して国道を走っていく。


 これは本当にラーメン屋なのだろうか……?

 本当に、ラーメンの屋台なのだろうか?

 これでは……

 たたかうラーメン屋だ。



 車内にまた、屋根の上にいる八重歯の声が無線で響いて来た。


『まだ追ってきてるよーー』


「ホント?」


『うんーー後の車、多分そうじゃないかなーーー』


「……ミサイル?」


『そうねーー。セーフティー解除ーーー』


 莉春が端末を操作すると、また屋台の中でガコン! ガコン!! と起動音が響いた。


『標的確認ー、車種アルファ・マイク、距離ふたじゅう、車速維持ー……』


「車両イチ、ロック完了、距離ふたじゅう、

 解除よし。弾込めよし。いつでもいいです」


『発射まで3秒、3、2、1

 フォックスワン、ファイア』


 莉春が端末を押すと、これは……確かラーメンの湯切り部分の溝だったと思う、そこから一基の『棒状の何か』が煙を出して『発射』された。

 それは、後をつけて来た乗用車のフロントガラスに刺さり、棒からは大量の煙が吐き出された。

 車は蛇行を繰り返し、付近の車に玉突き的にぶつかる。煙の向こうで、数十台という車が衝突事故を起こした……。


「出汁郎さん、撒けた?」


『…… ……やったんじゃないかなーー』


 莉春は、ふう、と一息ついて、横のリサと目があった。


「…… 何見てるアルか。ばかちん」





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