2度目の襲撃
結局、電車には乗れずに特急高尾山口行きは行ってしまった。
リサの周りにいる人間は、その一角だけ、不気味なほど動こうとしなかった。
すぐにわかった。また……暴漢たちだろう。
後ろから革靴の足音が聞こえてきた。
コツーン、コツーン、コツーン、と、ホームに音が響く。そして、
リサの真後ろで足音が止まると……
「小野山リサだな?」
と話しかけられた。
革靴男は奇妙なコロンでもつけているのか、身体中から甘ったるい匂いがした。
サングラスにオールバック。悪役然とした格好だ。
リサは黙って下を向く。
「おい。無視はねえだろ……」
コツンと、後頭部に小突かれた痛みを感じると、スマホを頭に押し付けられている。
後ろにいた暴漢の一人が、無理やりリサを後ろに向かせると、押し付けられたスマホの画面がはっきりと見える。
それは、リサと秀治、二人の後姿の写真だった。手を繋いで、並んで歩いている。
「これ、お前だろ」
恐怖で何も答えられなかった。
全身が震える。今度こそ、とてもひどいことをされる。
あの女の子の言った通りだ。
なんでここに来てしまったのだろう。なんで。
スマホを頬に押し付けられたリサは、頷くのに数秒費やした。
「ちょっとついてきてもらうよ。……おい。連れて来い」
オールバックのスーツは改札口の階段まで歩き出した。
暴漢たちも続く。
両腕を背中で組まれ、両隣から拘束されたリサは、足が動かなかった。
抵抗しているわけじゃない。恐怖で足が震えているのだ。
オールバックは露骨に大きな舌打ちをして、リサを睨みつけ、
髪の毛を掴んできた。
「痛い目見ないと動けねえのか? オイ」
髪を掴むスーツの手からは苛立ちを感じる。
何度も無理やり頭を引っ張られる。
痛みと恐怖で声も出せない。
ややあって、スーツは大きな舌打ちをし……
リサの頭から手を離すと、リサの右目を拳で殴った。
リサの体は後ろに倒れるが、リサの後ろにいる男たちに支えられて倒れることも許されない。
まるでサンドバックだ。
「優しくしてもらえると思ってんじゃねえよオラ」
そのまま、スーツは革靴でリサの腹を蹴った。
膝の力が抜けて、男二人に両腕を引っ張られ、その場に座り込んでしまった。
「オイ。こら」
再びスーツはリサの髪を掴んで、引っ張った。
右目は腫れていてもう、見えない。
しかし左目の方で見た男の顔から恐怖を感じた。
あれは、人を痛めつけて喜ぶ人間の顔だ。
しかし、動こうにも動けない。
スーツは、いったんリサから離れ、スーツの内側から折りたたみ式のナイフを取り出し、リサに見せびらかせた。
「あんま俺を舐めんなよ? 『山岡の女』」
スーツはナイフの刃をリサの前で左右に振って見せる。
目を閉じてしまいたいが、体は理性と正反対に、左目でナイフの切っ先を見つめてしまう。
いっそ、一思いに刺して欲しかった。
リサのそんな望みを感じ取ったのか、スーツはゆっくり、ゆっくりと、ナイフの刃をリサの右耳の付け根に当てた。
「リサちゃん生意気だから、右耳がさよならしたいってよハハハハハ……」
スーツは刃を耳に強く押し当てる。頬に冷たいものの感触が伝わってくる。血だ。
リサは歯を食いしばり。スーツを睨みつけた。
「ハハハハハ……ハハハ……じゃあ、切るよ? リサ。せーーの!!」
……
……
たん。
という音がどこからか響いた。
「ぎゃあ!!!」
リサの右腕を、後ろから掴んでいた男が、突然目を押さえて倒れ込んだ。
全員の視線が、リサから離れる。
たん。 たん。
という、言葉よりも重たい音が響くと、さらに二人、顔を押さえて倒れる。
よく見れば顔から血を流している。
危険を感じた残りの暴漢たちは、一斉に拳銃を抜いてそこらじゅうに発砲した。
スーツもナイフをしまい、拳銃を取り出した。
「んだよ!! 邪魔しやがって!!!」
すると……何処かから声が響いてきた。
「ピン抜きよーーし。投げ」
…… コロンコロンコロン。硬い何かが近くまで転がってくる。
次の瞬間には、あたりは煙で包まれていた。