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他人を意のままに操る呪い

 東新宿、台湾食品貿易株式会社 地下 会議室。

 山岡が座るはずの席に、『露軸の証人』姫川が、足を組んで座っている。

 

 まずはお前らのコンプレックスに自分自身が向き合うことだな。

 そもそも、お前らはなんで東新宿なんかの地下に籠ってる?

 そんなことをやっている場合ではないだろう。日本の地理に疎いのか?

 ……

 ……

 本当にこの国の首都を抑えたいのであれば、もっと効率的なところを抑えないとダメだろう」


「……それはどこのことかな?」


「言わないとわからないか? わかってるだろう。本当は」


 姫は、言葉遣いこそ変わらないが、その目つきが変わっている。商談するときはこのような顔になるのだろう。


「問題はおたくらがどうしてそれを『できない』か。

 ……これは側から見たら実はバレバレでな。……お前らは本気で日本政府とは戦争できないのを知っているからだ。

 当然だよな。アメリカの加護がなければテロリストと変わらないわけだから。

 つまり、あんたらが、あんたら『たらしめている』のは、アメリカの加護があってこそということだが、

 山岡がいなくなったあたりから、加護を受けるに値するか、正直微妙な組織になってる。どうだ反論できるか?」


 一堂は相変わらず押し黙っている。


「自分と向き合えたかよ。じゃあ、今度こそ商談に入るぜ」


 姫は、一枚の写真を、円卓の中央に置いた。そこには、日本人らしき5歳ほどの幼女が写っている。


「リサみたいな小娘よりも、こっちを捕まえるべきだな。そこ子は仙台市にいる日本人だ」


「……誰だ?」


 誰だ? と問われて、姫は不気味な薄笑いを浮かべた。


「山岡の娘だよ」


 その瞬間、会議室にいる全員の空気が凍りついた。

 馬宏が思わずうわずった声をあげる。


「馬鹿な! 我々は山岡の身辺調査も当然行っている! 彼に娘などいない!!」


「ああ知ってるよ。でもな、そう決めつけるところが正直、おたくらの甘いところだぜ。

 確かに山岡に娘はいない。『現時点では』な」


「何が言いたい?」


「よく考えろ。金をたくさん持っていて、アメリカと日本とを何往復もしているような野郎が、本気でリサみたいな小娘に一途だと思うか?

 ……まあ、現実はそうはいかねえよなあ。

 山岡の身辺調査をしたんなら、あいつがお前らと商売している時に仙台から新幹線に乗って通ってた事実くらい知ってるだろう。

 リサが東京にいて目立ってたってだけで、どうせ日本中にいるんだよ。『山岡の女』は。それを調べなかったところが、おたくらのポンコツなところだ」


「……ミヤギに彼の実家があると聞いた」


「馬鹿野郎。嘘に決まってんだろ。おたくらみたいな人間相手に、自分の素性を知られたくないからわざわざ仙台くんだりに仮の宿を持っていたんだ」


「待って。その話に確かなソースはあるの!?」


 王芯蓮が声を荒げる。


「清廉潔白で後めたいことが何もない人間が、わざわざ商売のために宮城に引っ越すか?

 ……お前ら、寸胴鍋に入ってる液体が、味噌汁か豚汁か調べるのに鍋ごとひっくり返すか?

『うわずみ』だけ飲むよな。それで内容物が味噌汁か豚汁か、大体の人間はわかる。

 山岡の『うわずみ』だけ掬って飲んでみろ。あいつがどんな人間か大体わかるだろう」

 

 姫に諭されて、馬宏は間に受けてしまった。


「今の彼の発言は極端ではあるが、我々は確かに山岡という人間性の部分までは知らなかったのは認めるべきだと思う」


 馬宏の発言を聞くと、羅英龍は姫川に「つづけろ」と言った。


「要は、後めたいことのある人間を揺さぶるなんて簡単なことだということだよ。

 写真に写ってる子が、『山岡の子供』を名乗って、おたくらの元で保護されてることを世間に公表しろ。

 山岡の方からアクションが絶対あるぜ。断言するよ」


「そんなカバーストーリーを山岡が信じるか!?」


 馬宏が姫川の話に割り込む。しかし姫川の顔は自信に溢れていた。


「『カバーストーリだとは言い切れない』のが、山岡の弱点だっつってんの。

 ……可能性は0%じゃねえんだよ。そして1%でもあるなら、多すぎるくらいだ」


「それで、見ず知らずの幼女を誘拐してこいと、君はいうのだな。……恐ろしい男だな」


 姫川は目を閉じてお辞儀をした。


「お褒めに預かり光栄です。……さて、これでおたくらは山岡と再び握手をする。

 それはつまり、アメリカの加護を再び得られるってわけだ。

 『第二次薔薇戦争』を再び起こす段になったら、新宿にある日本の『心臓』を占拠しろ」


「心臓だと?」


「心臓ってのは、体の全部に通ってる血管に血を送ってるポンプだ。

 ……どこの事かわかるよな。

 そして、日本政府に向けておたくらの主張を聞いてもらうんだ。『自分達が義軍であることを認めろ』ってな。

 二二六事件の再来だな。人質は場所が場所だけにたくさんいるぜ」


 姫は勝ち誇ったように笑った。


「最後に一つ教えておいてやるよ。他人を意のままに操る呪いさ。

 なあに大した事じゃねえよ。

 ……『そうしないと大変なことになる』って思わせろ。それで他人は簡単に動くぜ。

 じゃあ、頑張れよ」


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