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笹塚事件

「正志。正志」


 白く、淡い光の中で、誰かを呼ぶ声がする。

 光の中で膝を抱えているのは兎的……ではなく、罰天のメンバーである白パーカーである。


「正志」


 女性の声は、白パーカーを呼んでいる。

 白パーカーは、白い光の中を、声の持ち主を探す。


「どこだ! どこにいる! 」


 白パーカーは、普段は見せない取り乱し方で、光の中を藻掻く。


「どこなんだ愛莉!!」


 そして、光をかき分け、ようやく、『彼女』の柔らかい輪郭に触れた。


「愛莉……!!」


「正志……あなたは生きて。私の……分まで……」


 女性がしている指輪から、女性の体にむけて、毛細血管のような赤い線が広がり、白パーカーの手を弾き返した。


「愛莉!!」


 白パーカーは必死に手を伸ばすが、女性は後方に吸い込まれていく。……後にいる男に抱き寄せられて、遠くに消えて行こうとしている。


「愛莉ぃ!!」


 絶叫。女性の後にいる男が顔を覗かせる、それは、『白パーカーによく似た男』だった。


「……貴様あ!!!!」



 光の中に手を伸ばすが、女性も、男も消え、あたりは暗い、暗い闇が包み込んだ……。



 …… ……



「若、大丈夫ですかい?」


 どうやら助手席で寝てしまっていたようだ。

 

「……俺、なんか言ってた?」


「いえ、特には」


「……笹塚まであとどれくらいだ?」


「もうすぐです」


 ふう。と息をついて、白パーカーはタバコに火をつけた。



 * * * * *

 



 一方、リサは、自分のスマホの着信音で目が覚めた。

 親からである。

 起きた瞬間から緊張感が走る……。


「もしもし?」


『あ、リサ? 』


「ママ? 大丈夫なの?」


『うーんそれが……また駅の方で銃撃戦? が起きてるみたいで。

 私たちも今日は屋内に避難してるけれど、あんたは帰ってこない方がいいわ』


 一瞬で胸が苦しくなった。ああ、はじまってしまったんだ。

 リサは頭が真っ白になると同時に叫んでいた。


「逃げて! ママ!」


『何よどうしたの?』


「いいから! 東京から逃げて!!」


『無理言わないでよ。大丈夫よどうせいつもの喧嘩なんだから。家にいれば大丈夫。それに……

 なんだか家の前に大きい男の人がうろついてるのよ』


「え……」


 多分、轍さんだ。リサは直感で思った。




 * * * * *


 当の轍は、喧騒をリサの家の前で聞いていた。駅の方から喧騒が聞こえる。

 銃声と怒声だ。

 そして……

 リサの家の上空に、明らかに鳥や蝙蝠といった類のものではないものが浮遊しているのに気がついた。

 轍は無線機を取り出す。


「……出汁郎! きたぞ!」


『はいー』


 バチン! とあたりに響いたと思うと、

浮遊しているものが失速し、地面に落ちていく。

 昨日の晩から轍が、リサの家の周りに仕掛けておいたジャマーである。



『……ぶっつけ本番でしたけれど機能してるみたいですね。よかったーー』


 無線からの出汁郎の声から安堵を感じる。すると……


 乾いた音がリサの家の周囲に響いた。

 轍は思わず身を隠す。


『轍さん、今の音は……?』


 轍はあたりを確認する。


「……新青龍。数、10……いや15! 敵主力部隊だ!」


『そんな、数が多すぎる……!? 』


「手段は選んでいられない! 笹塚は放棄してリサの両親を遠くに逃す!」


『了解! 父親は外出中! 大至急母親を安全圏まで避難させよ!』



 *  *  *  *  *



 リサの母親は、二階の自室に篭っている。リサとはまだ電話中である。


 いつもより、銃声が近く、長く聞こえる。

 

(やだ……何かしら……)


 リサから電話を切らないように言われているが、どうにも外の様子がいつもよりおかしい。

 ……何がおかしいのか、不思議とわからなかった。

 漠然とした違和感の正体がわからないまま、譫言のようにスマホ越しのリサと会話をしていると……


 窓ガラスが、割れた。


「え?」


 部屋に、拳大の黒い球体が窓から転がり込んだ。初めは湯気のような煙を吐いていたが、次の瞬間――爆発するように部屋を白煙で満たした。


『何!? ママ!!? 何があったの!?』


 直後―部屋を蹴破る音。轍である。


「ふせろ!! 姿勢を低く!!」


 轍は、リサの母親を担ぎあげて、部屋から飛び出した。

 母親の意識はすでになかった。


「出汁郎! 敵の動きが速い! 母親の避難場所まで筒抜けだ! ここも包囲される!! 2階から外に退避する!」


『それが良さそうですー!! 愛莉さんが外で待機してますー!!』


 新青龍の構成員がすでに、リサの家に数人上がり込んでいる。

 轍は、2階にあるリサの父親の部屋の窓からベランダに出た。

 外はすでに、新青龍によって包囲されていた。

 

「そこまでだ! 沈黙の轍!!」


 地上で指揮をとっているのは新青龍の実行部隊、沈 澄光 である。

 包帯が、顔の半分以上を覆っている。

 周囲から、轍に向け銃口が向けられ、屋内からは階段を登る音まで響いてきた。

 


「喧嘩には負けたが、戦争には勝つ。大人しくそのご婦人を引き渡してもらおう」


 轍が、ゆっくりと腕を上げようとしたその時である。

 

「カチコミじゃボケえ!!」

 

 などという怒声の直後に大量の発砲音が住宅街に響いた。

 笹塚駅周辺にいたはずの罰天のならずもの達が、リサの家までやってきたのである。

 姫川の策が、ここにきて功を挙げた事になる。


 ならずものの先頭には、見覚えのある白いパーカーを深く被った男がタバコを吸ったまま平然と歩いてきた。


 白パーカーは、ベランダの轍を見上げると、


「行きな。そいつ(母親)はあんたらに預けとくわ」


 と、火のついたタバコを地面に投げ落とした。

  


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