不吉な言霊
新青龍は倉庫内の警戒を強めたが、
すでに出汁郎と轍も内部に侵入していた。
ツーマンセルで背中合わせに進む二人。
轍が曲がり角に差し掛かるとハンドサインで、角の向こうに武装した2名がいると出汁郎に伝える。
そして、『下がれ』、あとはノックをするようなジェスチャーを送ると、出汁郎は静かに後退し、轍と距離が離れたところで球体のガジェットを地面に落とした。
すると……
球体からは銃の発砲音が発せられる。
角の向こうの構成員二人は、発音している球体の位置まで駆け込む。
あたりに誰もいないことに不信がる構成員の後に、音もなく天井に張り付き、音もなく着地した轍の姿があった。
出汁郎と轍はあっさりと二人制圧した。
「なんだかーー変だねえ」
「?」
「こいつらー笹塚や、交差点の時の動きじゃないー。数も少ない気がする。
罠かな?」
「……もしくは、俺たち以外に来客があったとかな」
「よしてよ怖いー……」
すると、突然上の階から爆発音が響く。
咄嗟に伏せる出汁郎と轍。
「……轍さんーー。言霊って、やっぱりあるんですよーー」
「……!?」
* * * * *
倉庫の外は、そこらじゅうから人が集まっており、動画を撮るものまで現れた。
「うまくいきましたね」
「……おう」
炎上する倉庫を、白パーカーと青パーカーが眺めている。
「気味が悪いな。こいつらなんで逃げない?」
「さあ、強力なメンターが近くにいるんじゃないですか?」
「あと、そこの青いトラックはなんだ?」
「さあ?」
「……はっきり言って気に入らねえぜ。これは、誰かが筋書きを用意したな?」
「リベンジが果たせたのだから良いとしましょう。それよりボクの初仕事を祝ってくださいよ。
結構良いコンビじゃないですか? ボクたち」
「……ふん」
* * * * *
倉庫内の駐車場、新青龍の所持しているトラックに、武器や弾丸を搬入する構成員達は尻に火がついたかのように右往左往を繰り返していた。
外の騒音から続く襲撃に、そして上の階の爆発である。
小規模の角屋や、ゴロツキの罰天を相手にしている頃には、経験のしようもないことだった。
統率の乱れ、大声で取り乱す構成員達を死角から、轍と出汁郎が狙撃し、肩や膝を撃ち抜いた。
速やかにトラックを制圧し、車を出し脱出する。
正面でマーマクレープの青いトラックに合図を送ると、運転席の愛莉は無表情で車を出した。
「…… うまくいきすぎですねー」
炎上する倉庫を眺めながら、助手席の出汁郎がつぶやいた。
「これはー……姫川さん何か『やった』なー」
轍は黙っている。
「ここまでする必要なかったんじゃないかなー……」
「敵の武器庫を沈黙させたことに意味がある。次は笹塚の奪還だ」
「これで……お隣さんも完全に怒らせちゃいましたよー……
油断していただけるのが『角屋』の利点だったのになー……」
出汁郎の目の先で、倉庫からの炎が不気味に揺れている。
「大きな戦いの、引き金にならなければいいけどーー」
「……言霊を信じてるんじゃなかったのか?」