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「あの家人は病気か。以前は日焼けした壮健な男だったのに、いやに蒼白かったが。──いや、それよりも断りもなしに部屋に。そなた身分も考えず軽率過ぎるであろう」
「御簾は下ろしておりましたわ。病気ではありませんが賭博で負けて血を絞られたとかで本調子ではないのです。お日様の光も苦手になったようですし」
「血を絞られるとはいったい……、下民の賭け事はかくも過酷なのか?」
「まさか。相手は鬼ですもの」
「……」
「……」
満を持して父が突っ込みを入れる。
「いやまだあったんかい、鬼の話がっっ。信じられん素行不良な娘に育ってからに、一体この館は魑魅魍魎の住処にでもなっているのか」
「鬼の一匹や二匹で大袈裟な」
「大袈裟か!?」
「責めないでやって下さいまし。暮れに少々手元不如意であったところをあれなりに助けようと善意から泥沼に足を取られただけです。精一杯やってくれたのですわ。どこかで気ままに女人にふらふらしている人の代わりに」
「いやいやいや、奥は一体何をしていたのだ。明石の方ににまだ頼れる縁戚もおったろう」
さすがに罪悪感で胃を軋ませながら言う。
最初の官位を買うのに散々支援を受けた身だ。
「母上に相談するために部屋に伺っても、わらだの釘だの人形だのが転がっているばかりで、お邪魔をしてはいけないとおもい」
「ヒトガタ? それは──」
「話が横に逸れてしまいましたわね。こちらの礼物をどうするかという話でした」
「いや、ちょっと待て。今、素通りしてはいけないことを聞いた気がする。もそっと奥の話を」
「母上への相談の話ならもうカタがついたのです。鬼への証文も気に入らない借金取りになすりつけることが成功しましたから。借財回収に鬼がこの館にやって来ることはありませんのよ」
「来てたのか!?」
「もうきれいに返済済みですから、解決済みの話です」
近年とみに襲われる頭痛がひどくなってやって来る。
こうもとんでもないことを淡々と語る娘は本物の自分の娘なのだろうか。
それとも本当のことではないのかもしれない。
昔から絵巻や物語を好む子だった。