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「そのまま放っておくわけにもいかず、名前と場所は伏せますがその方を館に送り届けましたの。そうしたらそこでは、庭石やら桶やら柄杓やらが飛び交って、館のものたちも大騒ぎの最中でして」
「なんと奇ッ怪な」
「ええ、あまりに興味深くてすんなり帰るには惜しい事態でしたの。そうしたら取るものもとりあえず連れてこられた辻説法の法師が、わたしがお助けした姫君をもう一度井戸に投げ込めと根拠もない解決法を言いまして、あれよあれよという間に井戸に引き返す羽目に、」
「なんと気ぜわしい」
「ええ、全くですわ。いざ戻ってみると、また何者かが井戸の底でしくしくと泣いておりまして」
「なんと! またもや女人が?」
「さあ? そこに百鬼夜行と賀茂家の方と連れの陰陽寮生一行がぞろぞろと通りすがりまして鉢合わせしたのです。なんとまたもや、ややこしい騒ぎになりまして。賀茂さまの近くにいたわたしどもはかくまわれましたが、あの館の何人かの者は襲われて失われたのではないかしら。とにかく大騒ぎで。最初に井戸にいた御方も天狗にさらわれたと喚いている小者がおりまして姿が見当たりませんでした」
「もはやしっちゃかめっちゃかではないか」
「ありのままにお話しておりますのよ。騒動が一段落して思い出して井戸を覗き込みましたが真っ暗で答えるものはおりませんでしたわね」
「なんと悠長な! さらわれたのはお前かも知れなかったのだぞ!」
「でもわたしではありませんでしたわ。それでもさすがに物騒だと思って、館の怪異が収まったか知りたい気持ちは山々でしたが家に帰ることにしましたの。そうしたら、声をかけられまして」