×(クロス)7.ミライと葵! そしてもう一つの黒い陰……
おひさしぶりです! 風の双剣使いです!
今回は随分と遅くなってしまい、誠に申し訳ありませんでした。
僕の活動報告を読んだ方は知っていると思われますが、
今回、投稿寸前まで書いていた話がほぼ全て消滅してしまい、一週間掛けて何とか書きなおした為遅くなりました。
それに伴い、内容も当初とは多少変えたりもしているので結構時間が掛かりました。
それでは約2週間ぶりの×(クロス)平行(パラレル)始まります!
どうぞ!
――7月18日(土) AM06:30、
――休日の早朝……。 現在、大地はなかなかの窮地に立たされていた。
「……で大地、コレは一体どういう事なのかしら~?」
「……ひっ! いやいやいや、何か笑顔で力強く拳握ってるとこ悪いがチョット待て! この状況にはオレも訳がわからなくなっていて……って言うか何で鍵閉まってたハズなのに葵がウチの中に居るんだ!? つーかミライは早くオレの上から退きやがれッ!」
「……ふわ? 何か急にうるさくなったの~……って、アレ? なんでダイチの顔が目の前にあるn……って、わーーーー!! なんでダイチが私の下で寝てるの~!?」
「だからそれはオレが聞きたいってんだよッ!! つかお前昨日はオレのベット勝手に占拠してたハズなのになんで布団の中に居るんだよッ! ……ってマテマテミライ!! 何で被害者であるハズのオレに何か鋭い爪を向けてるんだ! っつーか葵もさっき握ってた拳振りかぶってるし! てかホントにオレが被害者なんですよね?」
「「知・る・かーーーーー!!!」」
賃貸マンションの一室に「ギャアァァァッ!」だの「ぐっふぅ!」といった悲鳴が轟いた。
――それから十数分後、
「……うう、酷い目にあった……。」
うつ伏せの状態になっている大地がボソリと呟きながらボロボロな体を引きずるように起き上がる。
体がボロボロになっているのはもちろんミライから顔にくっきりと傷が残る程のひっかき攻撃を喰らい、その直後葵から渾身アッパーカットを喰らったからだ。
「……くそ、結局アレはミライが勝手にオレの布団に入ってきたのが原因みたいだし……オレは完全に被害者のハズなのに……」
大地がボソリと悪態をつき、ジト目になってチラリと葵とミライの方を見て「ハァ~……」と大きな溜息を吐いた。
女子二人は大地に見られた瞬間―ビクッ―と大きく肩を震わせる。
「し、仕方ないでしょ! いきなりあんな……だ、抱き合ってるみたいな状況を見たら勘違いするのも当然よ! アタシは悪くないんだからね! ミライもそう思うでしょ!」
「うんうん、アオイは悪くないの! それと『朝起きたら男の子が自分の下で寝ている』なんて状況になったら気が動転して思わず攻撃しかけたりするなんてのも当然と言えば当然なの! だから私も悪くないの! でしょ、アオイ!」
「そうよね! と言う訳だからアタシ達に怒りを向けるのはお門違いなんだからね!」
葵とミライが慌てたような様子で明らかにあたふたしながら弁解し合う。
「ハイハイ分かりましたよ~……」
大地が「もうどーでもいい」といった様子で適当に返事をする。
本当の事を言えばまだ機嫌は直ってないのだが、それ以上にわざわざ相手をするのは面倒だと考えたのだ。
口ではああ言っているが慌ててると言う事は一応罪悪感はあるのだろう、と解釈する事でとりあえずは諦めたらしい。
(……にしてもホントアイツら仲良いよな~。 まだ会って一日とは思えねー程だ)
まだ多少先ほどの事を気にしている大地はとりあえず頭の中を切り替えようと、そんな事を考えながら昨日の出来事を思い出してみた。
◇◇
――時間は遡り、昨日の05:30、
思ったより簡単に黒ローブの男を迎撃した大地は、まずは倒れてる相手を適当な壁に立てかけるとデバイスを操作し110番に電話をかけると「どこどこで不審者を発見しました」と匿名で通報をした。
ちなみに匿名で通報したは単純に自分が事件に関わっていた事がバレると事情聴取など色々と面倒だと思ったからだ
そして通報した後はすぐさまその場から離れ、すぐ近くの平凡なマンションに行くとそこのエレベーターに乗り込み、自宅と言う名の2LDKRを目指している。
しかしその足取りは果てしなく重苦しい。
「えっと……ダイチ大丈夫なの?」
そんな大地の様子に見かねたミライが心配したように言う。
言われたのに対して大地は如何にも気力ゼロとでも言うような感じな様子で振り返り、
「……あ~、……なんつーか心配させたみたいだな? 悪りぃな……けどまぁ一応は大丈夫だ」
そう言って無理やりな笑顔を浮かべる。
――チーン――
そんな話をしていると、不意に3階到着を告げる電子音が鳴り響いた。
「ハァ~……面倒くせぇ。 アイツの事だからぜってーウチの前で待ち構えていやがるよなぁ? まったく……どう説明すればいいのやら……」
大地は電子音を聞くとうんざりしたような顔になってそんな事を言う。
と、そうこうしている内にエレベーターのドアが開く。
「なっ……!?」
その瞬間、大地の顔が驚愕の色に染まった。
なぜなら……、
「え? 大地?」
エレベーターが開くと、そこには葵の姿があったのだ。
「な、なんで葵がエレベーターに? お前の事だからてっきりブチ切れモードになって玄関の前で待ち構えていると思ったのに?」
大地が驚いた表情のまま自分の疑問を言う。
ただ、聞いていると言うよりは寧ろ考えている事が思わず口から漏れ出したという様子だ。
もちろんその声に先ほどまでの憂鬱そうな雰囲気など微塵もない。
「え? えっと……あ、アタシも本当はそうしようと思ってたんだけど、何か急にお母さんから電話が来て、「何か今日は突然お母さんもお父さんも仕事が終わるの早くなったからたまには家族一緒に食事しましょう」って言われたから……」
それに対して葵の方も明らかに動揺した様子でオロオロとしながら言う。
どうやら此方も予想外に事態に驚いているようだ。
「そ、そっか、叔母さんが……。 ……いや、それならいいんだ。 っつーか良かったな! そう言う事なら楽しんでこいよ?」
「え、あ、その……う、うん……そ、そうする。」
大地が嬉しそうに満面の笑みを浮かべてそう言った。
その笑顔を見た葵は僅かに頬を赤く染めて答える。
何だかちょっといい感じな雰囲気である。
――と、そんな事をしていると……、
「……ねぇダイチ、この人は誰なの? なんだかちょっと和やかな雰囲気になってるけど?」
今まで大地の後ろで黙り込み、完全に蚊帳の外にいたミライが不意に多少不機嫌そうな声で口を挟んだ。
機嫌が悪そうなのは多分構って貰えなかったの勘に触ったのだろう。
その瞬間、葵がハッとしたような顔になり……、
「……あっ、そう言えばその子誰よ! その辺詳しく説明しなさい大地!!」
「そうなの! 私もこの人が誰だか気になるの! ダイチ、この人が誰なのか詳しく説明するの!」
先ほどまで大地の後ろにいたミライまでいつの間にか葵の方に行き、二人揃ってそんな事言いだす。
「ちょ、待て、何で急にこんなに空気が変わってるの? しかも何故かオレが追い詰められてるし!」
突然の出来事に驚きながら大地が叫ぶ。
しかし女子二人はまったく取り合う気は無いらしく……、
「そんな風に大きな声出したってアタシは見逃さないわよ?」
「そうなのそうなの!」
「「さぁ、早く説明するの!!
しなさい!!」」
ミライと葵が二人は揃って前から乗り出すような格好で大地に詰め寄る。
声も完全にシンクロして息ピッタリだ。
「ああ~……もうっ、面倒くせぇっ! っつか何でお前ら初対面でそんなに息合ってんだよっ!」
「「そんなのいいから早く答えるの!!
なさい!!」」
急に追い詰められた大地が何とか反撃しようと絶叫する。
が、その叫びはミライと葵によってあっさりと一蹴された。
結束した女子の力は凄まじいのである。
「……ハァ~……はいはい分かりましたよ、っと……。 え~と……まずこっちの茶髪ポニテの奴は『月読 葵(つくよみ あおい)』、さっき説明したオレの幼馴染だ。 ……んで、こっちの真っ白いローブを着た方が『ミライ=ミューゼ』、さっき言ってた……“客”だ。」
大地が女子二人の勢い押され、渋々と言った様子で説明する。
「ああ! アナタがさっきダイチが言ってたアオイなの!」
「ん~……説明ってのは良く知らないけど、まぁそうよ。 ……てかミライだっけ? アンタが大地の言っていたお客さんなのね?」
「……お客ぅ? ……え~と、あっ! そうそう、お客なの!」
大地の説明を聞き、女子二人がやっとお互いの顔を見ながら話しだした。
……ミライだけは大地から説明された「自分はお客さんとして大地の家にいる」と言う設定を忘れていたようで多少うろたえ気味になっているが……。
初対面にしてはかなり仲が良さそうな葵とミライの様子を見て、大地がホッとしたように胸を撫で下ろす。
本当の事を言えば「こんな調子ならオレがわざわざ仲介しなくても良かったんじゃないか?」とも思わなくはないいが、もしそれを口に出したらまた面倒な事になりそうなので止めておく。
「……ん? でもよく考えたら……。 ――オイ葵、そう言えばお前そろそろ叔母さん達のとこ行かなくていいのか?」
大地が不意に思い出したように言う。
「え? あっ、そう言えば! 今何時!?」
葵がそう言って自分のデバイスを確認する。
「5時45分……ヤッバ、時間ない! ゴメン、もう行かなきゃ!」
「おう、ミライはえっと……ウチに泊まるから詳しい話は明日ウチに来てしてくれ!」
「わかった、じゃあね!」
「また明日ねなの~!」
葵はそう言うと大地と入れ替わりにエレベーターに乗り込んでいった。
◆◆
――と、言う訳で女子二人は知り合い、その後葵と別れてからすぐにミライをウチに連れ込み――で、現在に至るという訳だ。
「あ、そうだ! そう言えばちゃんとした自己紹介まだだったよね?」
「ああっ! そう言えばそうなの!」
と、葵が不意に思い出したように言い出した。
それに対してミライもスッカリ忘れていたのかハッとしたように声を上げる。
「えっと……じゃあまずはアタシからいくわよ? アタシの名前は“月読 葵”、好きな食べ物はカレーライスで好きな色は青。 ……で大地とは小さい頃から良く一緒にいる……まぁ幼馴染って奴ね。 え~と……こんなモンかしら? とにかくよろしくね♪」
葵が元気良く自己紹介をした。
それ聞いてミライも「わーい♪ よろくなの~♪」と楽しそうに応じる。
とはいってもミライからすればコレによって新たに分かったのは“カレーと青色が好き”と言う事だけのハズなのだが……とにかく自己紹介事態が嬉しいらしい。
「と言う訳なんだけどそっち……ミライはどう?」
葵が楽しそうな様子で聞く。
「うん! 私の名前は“ミライ=ミューゼ”、『魔術式人造人間』なの!」
ミライが楽しそうに告げる。
……その瞬間、葵の表情が笑顔のまま固まった。
□■
――同じ頃、東京シティ23・エリア14にあるとある裏通り、
「……ハァ……ハァ……クソッ、相手がガキだからって油断した……。」
そこには一人の男がいた。
色が抜けたような薄い茶髪、どんよりとくすんだ碧眼、血の気がなく青白い肌、そしてトレードマークとも言える漆黒のローブ……黒ローブの男だ。
「……にしてもアレは危なかったぜぇ……。 もし『人払い魔法』を使うのがあと一歩遅かったらこっちの警察に捕まっちまうところだったからなぁ……。 ……あのガキ、脚が治したら今度こそぶち殺してやる!」
黒ローブの男はそう言うと腰を曲げた老婆のような格好で歩きだす。
どうやらあの時大地(とウィン)が放った『風の息吹』により脚を傷めているらしく、脚を引きづりながら歩いている。
「……さてと……まずはさっさと火陰さんを探して白魔道具・『純白の箱』でも借りて脚を治さねーと……。 どこに居やがるんだアノクソ真面目上司は?」
黒ローブの男がイライラした様子で言いながら歩いていく。
……すると、
「……クソ真面目上司とは誰の事かな?」
黒ローブの男のすぐ横にある路地から低い声が聞こえた。
日が当らず暗くなっている路地を見れば、そこには2mを超える大きな人影が見える。
その声を聞いた瞬間黒ローブの男は―ビクゥ―と跳びあがる。
「……ほ、火陰さん?」
黒ローブの男が路地にいる人物に向かって恐る恐るといった様子で尋ねる。
「……ふむ、この気持ち悪いような嫌な感覚……なるほど、コレは嫌悪感の感情を利用した人払いの魔法だな? ……貴様は相変わらず気味が悪い奴だ」
しかし黒ローブの男に火陰と呼ばれた大男はその言葉を無視して、苦笑して話しながら路地から出てくる。
その姿だが、服装は黒ローブの男と同じ漆黒のローブ……ただしサイズはその倍近く。
フードはすでに外されており髪は剃り込みの入った黒いボーズ頭、冷酷そうな黒目をした無表情の大男だ。
「……ふ~む、貴様のその様子……。 どうやら脚を傷めているようだな?」
火陰の凍り付きそうな冷たい目線が黒ローブの男の足を見据える。
「しかし誰にやられたのだ? 標的である“被験体02号”は現在白以外の属性の魔法はまともに使えないハズであろう? それならば幾ら貴様でもそこまでやられはしなだろうが……」
そこまで言って火陰が黙りこむ。
「いや……協力者にやられたンだ」
「協力者……だと……?」
黒ローブの男がボソリと呟いた言葉を聞き、火陰の表情が変わる。
「ああ、こっちの世界の野郎だ。 アノ感じからすると多分高校生ぐらいか?」
黒ローブの男が静かに告げる。
「ふむ……なるほどな……。 よし! それならば今度は私が行こう!」
「は?」
火陰が冷酷な瞳に僅かな光を灯して告げる。
その瞬間黒ローブの男の表情が固まった。
「ちょ、ちょっと待テ! あのガキはオイラのエモノだ! 幾ら上司でも抜け駆けは許さねぇぞ!」
黒ローブの男が脚の痛みも無視して火陰に駆け寄り、グイッと胸倉を掴む。
しかしそう言った直後、無理をした脚に激痛が走る。
黒ローブの男はその痛みに脂汗を掻きながらのた打ち回る。
火陰は黒ローブの男の様子を見て、
「……あのガキは自分の獲物……か……。 そんな脚で何を言うやら……」
そう言って鼻を鳴らす。
「な、なに言って……や…がる。 こ……ンなの…治療系の魔道具でも使えば……スグに治せる……だろ?」
黒ローブの男が痛みに顔をしながらも何とか自分の意志伝える。
「ふむ……その意志の強さは認めよう。 だが、もう一度やったとして貴様が必ず上手くやると言う保障はない。 ……実はついさっき『組織』の方から連絡があってな……『例の計画の発動は間近だから早く被験体02号を連れて来い!』と言われた。 つまりもう何度も失敗している暇はない……」
火陰はそう言うと黒ローブの男に向かってゆっくりと近づいて行き、
――ドゴッ!――という凄まじい音がする程勢い良く黒ローブの男の腹を殴った。
黒ローブの男はその瞬間、口から血を噴き出す。
「だから私がいく。 安心しろ、一応死なない程度に加減して殴ったからな。 ……私は兵は無駄にしない主義なのだ」
火陰は倒れ込んでいる黒ローブの男にそう告げると、そのまま向きを変えてゆっくりと歩きだす。
黒ローブの男は暫くの間、去っていく火陰の巨大な背中を見ていたが、やがて意識が無くなった。