×(クロス)6.まさかの展開(汗)
ハァ……前に1週間以内更新目指すって言ったのに前回も今回も1日オーバー……。
何だかすいません……。
――時間は少し戻ってPM04:25……、
黒ローブの男は裏通りを突き進んでいた。
顔全体を覆っていたフードはいつの間にか外されており、先ほどまで隠れて見えなかった顔も今は顕わになっている。
その黒ローブの男の顔は少し短めで色が抜け欠けてた茶髪、どんより暗い曇り空のようにくすんだ緑色の瞳、腕などからも分かる通り肌は血の気がなく不気味に青白い色をしていて、頬などはまるで骸骨の髑髏が如く痩せこけている。
その言動に釣り合う寒気がする程不気味な顔は、何かに考え事をしているように見えた。
(……にしてもアレが元素生物……か……。 火陰さんから聞いた話によると使い魔に近い奴だって聞いてたんだが……ありゃぁそんな程度じゃねぇな。 少なくとも人間と同レベル……いや、下手すりゃそれ以上の力は持ってるんじゃねぇか?)
黒ローブが歩きながらそんな事を考える。
今黒ローブの男が言った使い魔というのは、基本的に魔法によって主人の命令通りに行動する動物などの事である。
中には異世界(『魔法界』と『科学界』のような平行世界ではなく、完全に別の次元・空間の世界)から呼び出されたり、護符などに細工して宿ったものを解き放つと言うふうな、いわゆる召喚によって使役されるモノもいる。
黒ローブの男やミライなどが言っているのはおそらくその召喚系の使い魔の事だろう。
(ハッ! まぁいい……それでも操り手の方を壊しゃぁ簡単に勝てンだろ?)
黒ローブの男はそう結論付けるとそのまま突き進んでいった。
□■
――時間は再び戻りPM04:40、
「……さ~て……どぉ~こにい~るのっかなぁ~♪、っと……。 ん~~……こっちかな~?」
黒ローブの男は相変わらず裏通りを歩いていた。
その不気味な顔に笑みを浮かべ……。
「……おし、じゃあ次はあの路地でも見てみるかぁ?」
黒ローブの男が楽しげに呟き、ゆっくりと眼前にある路地の入口へ歩いている。
すると路地の方から誰かが話をしている声が聞こえてきた。
『……それがどうして勝てる要因になるの?』
『ん? ああ、それはだな……、』
その話声を聞いた直後、黒ローブの男の歩みはそこで止まった。
なぜなら黒ローブの男はこの声に聞き覚えがあったからだ。
黒ローブの毒々しい紫色をした唇の端が更に吊り上がる。
さながらその顔は口裂け女のようだ。
(ヒハハ、やっと見つけたぜぇ~♪ じゃあ、早速殺しに……おっと、危ねぇ危ねぇ、良く考えてみりゃまた逃がしたりしたらサイアクだもんな! ……今度こそ逃がさねぇように準備しねぇと……。」
黒ローブの男はそこまで考えると真面目な顔になり、先ほどと同じように『詠唱』を始めた。
そして最後に「蒼水魔法No,005……」小さく呟く。
その直後、これまた先ほど同様にローブの袖から大量の水が出てきて、それが無数の水の弾丸へと姿を変えて黒ローブの男の周りを浮遊する。
戦闘になる事を考慮して予め攻撃をする準備をしたらしい。
「……ヒハ……これで準備は万端だ!」
そう言うと黒ローブの男は小走りで駆け出した。
その動きと共に黒ローブの男の周りに浮かんでいる水の弾丸も磁石に引き寄せられるが如く着いて行く。
大地達がいると思われる路地までの距離は僅かに数m。
この程度の距離など小走りで進めば一瞬だ。
「じゃあ改めて……。 みぃ~つっけたぁ~♪」
黒ローブの男は路地へと駆けこむと、再び口裂け女のように口の端を吊り上げて不気味な笑みをした。
◆◇
同刻・裏路地、
……それがどうして勝てる要因になるの?」
「ん? ああ、それはだな……、」
大地はそう言って説明を始めようとする。
……しかし、
「みぃ~つっけたぁ~♪」
説明しはじめようとした直後、路地の入口の方から聞いた事のある毒々しい声が飛んでくる。
声が聞こえた瞬間、大地は咄嗟に其方を振り向く。
そこには……、
「ハッハ~♪ 探したたぜぇ~♪」
「ちっ……もう来たたか黒ローブ野郎!!」
大地が厄介な事になったと歯噛みする。
そこには案の定黒ローブを着た男の姿があった。
しかも今度は先ほどとは違い今度はその不気味な素顔も顕わになっている。
「くっ……来い、ミライ!!」
「え?」
ミライが大地の声に釣られて振り返ろうとする。
しかしその前に大地がミライの手首を―ガシッ―と掴み、強引に引っ張って二人一緒にウィンの背後へと隠れた。
それを見た黒ローブの男も流石にこの展開は予想外だったようで「はぁ?」と気の抜けたような声を上げる。
「痛ったぁ! ちょ……コレはどう言う事なの!?」
突然腕を引っ張られて驚いたミライが少々混乱した様子で大地に聞く。
「いや、さっきお前アイツの事見たら固まっちまったろ? もしまたそうなったらマズイと思ったんだ」
大地はバツの悪そうな顔で答える。
先ほど、ミライはあの黒ローブを見た瞬間に硬直して動けなくなっってしまった。
黒ローブの男を再び見て、もしも同じ事なってもにミライの事を守れるようにと大地なりに考えたようだ。
「こンの……隠れてんじゃねぇぇぇぇぇ!!」
その時、黒ローブの男がイライラした様子で水の弾丸を撃ち始めた。
「くそっ……ウィン!」
「キュオゥ!」
大地の声に反応してウィンが翼を広げた。
水の弾丸は先ほどと同じようにウィンが翼で受け止め応戦する。
一応はこれで攻撃は受けずに済む状態にはなった。
だが……、
「くっ……、このままじゃあ防戦一方だ! やっぱアノ水の弾丸の威力がどの程度か分からないのが厄介だな? どうにかできねーモンか……」
大地が悔しそうな声を上げる。
確かにこれなら相手の攻撃は届かない。
しかし同時にこのままでは此方もまったく動けない。
大地の現在の目的は空くまで『逃走』では『迎撃』なのだ。
「え? 今、水の弾丸って言ったの? って事はもしかしてそれって蒼水魔法No,005の『水弾連射魔法』じゃないの?」
大地が頭を抱えていると不意にミライがそんな事を言いだした。
その言葉を聞いた瞬間、大地はキョトンとした顔になる。
「は? お前今なんつった?」
「え? 私は多分その攻撃って水弾連射魔法なんじゃないのって……」
大地が聞くとミライが「それがどうかしたの?」とでも言いそうな顔で言い返す。
「ちょ、ちょっと待て! ってコトはお前、もしかしたらアノ攻撃の弱点とか威力とかそういうの分かったりする? だったら教えてくれねーか?」
大地がミライの肩を先ほどのように―ガシッ―と力強く掴んで大きく揺すりながら言う。
ミライが突然の事で多少パニック気味ながらも「わぁぁぁぁ!! お、おおお教える! 教えるから止めてー!!」と叫ぶ。
それを聞いた大地がハッとなりバツが悪そうに手を離した。
解放されたミライは最初こそ「ふぇぇ……」とか言って目を回していたがどうにか大丈夫になったらしく、
「えっと……水弾連射魔法の事についてだけど……簡単に言えばその名の通り水の弾丸をひたすら連射し続ける蒼水魔法の基本魔法の一種なの。」
と言う風にミライが説明を始めた。
「なるほど……じょあ威力は?」
大地が聞く。
「威力の方だけど……青属性は本来攻撃にはあまり向かない属性なの。 だから大した威力はないハズなの。 一発一発はせいぜい投げた小石がぶつかった程度のダメージしかないの。 まぁ、それでも弾丸自体が大量にあるから何か防御用の対策しないと近づくのは難しいの」
ミライの説明を聞いて大地がニヤリとした。
とりあえず威力については安心できそうだ。
「なるほど、威力はそんなに高くない……と……。 ところで弱点みたいのはあるのか?」
大地が聞くとミライが待ってましたと言わんばかりにズイッと身を乗り出し、
「うん、あるの! あの魔法は空気中に漂っている魔力を青の属性を使って水変化させて、それを自分の魔力を使って操る魔法なの。 けどその場合一度に使える魔力の分しか水を操れない……だから弾切れになったら再び水を発生させて弾丸を形成させる為に数秒間のタイムラグができるの。 だからそのスキに攻撃すればいいの!」
と、自信満々といった様子でいう。
その直後……、
「くそっ……弾切れだ!」
という毒々しい声が響く。
見ると確かに水の弾丸の雨が止んでいた。
「えっと……コレって……。」
「今がチャンスなの!」
「お、おう! ウィン、風の息吹だ!」
大地がそう叫ぶとウィンがそれに応じて仰け反るよう大きく深呼吸をした。
そこから頭を突きだすようにして息を吐き出した。
吐き出した息はまるで竜巻のような乱気流を発生させながら黒ローブの男の元へと飛んでいった。
「は? ちょ、チョット待て! ぐわぁぁぁぁ!!」
ウィンの吐き出した息が黒ローブの男の激突する。
その瞬間、黒ローブの男は勢い良く吹っ飛んだ。
◇◆
PM05:00、
現在、大地とミライの前には完全にのびている黒ローブの男の姿がある。
ちなみにウィンはあの攻撃のあとすぐにデバイスに戻した為いない。
「えっと……コレってマジで勝てたの?」
大地が「信じられない」とでも言うように目を丸くしてミライに聞く。
「そ、そうなんじゃないの?」
ミライも同じような感じで答える。
黒ローブの男が凶暴そうな外見の割に簡単にやられた事に驚いているのだ。
「「何か拍子抜けだなぁ……
なの……」」
二人は同時にそう言うと、お互いの顔を見合わせて一緒になって苦笑いした。
「……ところでさっき大地が言ってた勝てる見込みってなんなの?」
ミライが不思議そうな顔で聞いてくる。
予想外に黒ローブの男は弱かった為、結局はその勝てる見込みが何だったのか結局分からずじまいなのが気になったのだろう。
「ああ、それについて何だけど……少し前に説明した俺の幼馴染の葵っつー奴の事は覚えてるよな?」
「うん、覚えてるの」
大地がそう聞くとミライがキョトンとした顔で答える。
「その葵の相棒元素生物はスパイラルって名前のシャチで、そいつ水を操る能力を持ってるんだ。 ……で、俺と葵は普段ケンカだったりあっちから一方的仕掛けてきたりでよく戦りあってるから水系の奴との戦闘はすでに対策済みって事なんだよ」
「ああ~、そう言う事だったの~……。 ……ってアレ?」
大地が苦笑しながら言う。
それを見てミライが一緒になって苦笑したが、途中で何かに気付いたように眉をひそめる。
「ねぇねぇダイチ、」
「ん? どうしたミライ?」
「ところでそのアオイって確か今日会う予定なんじゃなかったけ?」
ミライが可愛らしく小首を傾げながら聞く。
その瞬間、大地の動きが止まった。
顔からは大粒の汗が噴出している。
「……って、アレ!? なんか物凄い汗だけど大丈夫なの?」
ミライは大地の様子を見て心配そうに聞く。
が、大地はまったく反応しない。
「……ダイチ? ちょ、まったく動かないけどホントに大丈夫なの!? ねぇ、ダイチ? ダイチぃ~!!」
■□
――同じ頃、マンション3階の渡り廊下にて……、
約束通りに大地の部屋まで来た葵がドアの前で苦い顔をして突っ立っている姿があった。
「……ハァ~~……。 やっぱ結局この服になっちゃったけど……コレで良かったのかなぁ?」
葵がどこか迷ったような様子で溜息を吐きながら独り言を言う。
どうやら自分の服装の事が気になっているらしい。
ちなみにそういう彼女は現在の姿がどんな感じかと言うと、頭には青い色をした花があしらわれた可愛らしい髪留め・服は空色のシンプルなワンピースという格好をしている。
服装やアクセサリー自体はシンプルながらも、元々の素材の良さも相まってちょっとしたモデルなどにも負けない程可愛くみえる。
普通に考えたら何処に不安を抱く要素があるのかと疑問に思う所だろうが……、
「……てか1時間近く掛けて選んだのに結局はいつもと同じ格好ってどうなのかなぁ……。」
葵はそう言うと再び溜息を吐いた。
どうやら服装に自信がなかったのではなく、単に長時間迷ったのに普段通りの格好をしている事が気になっているだけなようだ。
「……う~ん……、……でもこんなことろにただ突っ立てても何にもならないしなぁ……。 ……よし! もう覚悟を決めてチャイム鳴らすわよ!」
葵は誰もいない玄関に向かってそう宣言するとゆっくりとそのドアの隣にあるインターホンを押した。
――ピン、ポーン♪――
何の変哲もないありがちな電子音が鳴る。
だが……、
「…………………………。」
辺りがシーンと静まりかえる。
「…………………………。」
ドアの向こうからはこの部屋の主である大地が玄関に向かってくる足音はおろか、物音ひとつ聞こえない。
「…………………………アレ?」
インターホンを押してから3・4分程して葵がいい加減変だと思ったのか、気の抜けた声が口から洩れる。
頭の上に大量の疑問符を浮かべ、「ちょ………アレ? アレレ? アッレ~~?」とか言いながらインターホンを押しまくる。
しかし何度押しても――ピンポンピンポン――と虚しい電子音が鳴るだけで大地が出てくる気配はまったくない。
なかなか出てこない大地にイライラしてきたのか葵の顔が段々と曇っていく。
「……っっ! あ~もぅ! なんっで出ないのよ~!!」
葵の絶叫がマンションの廊下に虚しく轟いた。