×(クロス)4.狂・魔法使い
「オイラは……『魔法使い』だぜぇ!」
黒ローブがフードの中から毒々しい赤色の舌を突き出して告げる。
「……ま…ほう……つかい……だって……?」
あまりに非現実的な言葉を聞き、気がついた時に大地は目の前の黒ローブに聞き返していた。
ミライの方を見ると、言葉も無く小さく震えている。
「そう! 魔法使いだぁ! まぁ、っつってもコレはおめぇ等科学界側の人間にとっても分かり易いように言ってるだけで、普段そんな風に名乗ったりはしないんだけどなぁ」
「……科学界側の……人間……?」
黒ローブの男が楽しそうな様子で左右に揺れながら説明する。
大地はその説明の中で聞き覚えがある単語を見つけ、疑問の声を上げる。
『科学界』……その言葉はたしか今朝ミライが中野区がどうとか言っている時に聞いた言葉だったと思う。
「ハン! まぁそんなンはどうでもいい! ……ンな事より……おい、そこの科学野郎! ちょっとコッチ来い!」
黒ローブの男がローブの長い袖をまくり左の腕を出すと、その手の平をクイクイッとおいでおいでさせて言う。
腕は思っていたよりも細く、そして血の気があまりない白さで不気味さが一層引き立つ感じだ。
「な、なんの……ようだ……?」
大地は震えるような声を絞り出して精一杯の虚勢を張る。
黒ローブの男から発生する正体不明の感覚に恐怖しているのだ。
「そ~かそぉか、震えて動けねーってか。 ハッ、まぁいい。 そンなんはいいから……」
黒ローブは大地の様子を見て満足気に体を揺らして言う。
そんな風に嘲られても大地は何も言わなかった。
否、言えなかった。
正体不明の恐怖感で口は自分の物じゃないように動かない。
そんな様子を黒ローブのフードに隠れて見えないその下の顔には、きっと毒々しい笑みが浮かべられている事だろう。
「そンなんはいいから、そのネコ耳の女の子をこっちに渡してねーかなぁ?」
……その言葉を聞いた瞬間大地の中を何かが弾けたような感覚が駆け巡った。
「……おい、そこの黒ローブ!」
「あン?」
「お前が言ってる科学野郎ってのはもしかすると俺の事か?」
大地が先ほどまでとは打って変わって力強い声で聞く。
その声に黒ローブの男は訝し気な声を上げ、フードの上からでもも分かるほどに首を傾げた。
正直に言えば大地はまだこの黒ローブの事が怖い。
この男から漂う得体の知れない空気が物凄く怖い。
それこそ今すぐにでも逃げ出したいほどの恐怖を感じている。
……だが、
「もしそうなら……悪いけどその話は聞けねぇ」
それでも大地は引きさがらない。
「あ? 今なンつった?」
黒ローブが殺気を孕んだ声で聞く。
ローブの下からでも分かるほど怒りの感情が見て取れる。
……しかし、
「お前にミライを渡す事はできねぇっつってんだよ不気味野郎!!」
それでも大地は断言する。
黒ローブは大地の言葉を聞いた直後、固まって動かなくなる。
暫くそのままでいたかと思うと急体をに大きく揺らし、ケタケタと大笑いし始めた。
「――あ~……なるほど、そっかぁ。 人が折角親切で言ってやってんのに抵抗すんのか……」
除々笑い声が小さくなり、それと同時に体の揺れも小さくなって小刻みに震える程度になっていく。
それも消え去ると……、
「――じゃあ、死ね」
黒ローブはそう言った直後、突然青白い両手を胸の前に構え、何処の言語かも分からない言葉を唱え始める。
最後に小さく「蒼水魔法No,005……。」と呟く。
すると黒ローブの袖から明らかに入りきらない程大量の水が現れ、それが無数の球体になって宙に浮かぶ。
「ハッハ~♪ 死ね死ね死ねぇぇ!!」
黒ローブがそう叫ぶと、無数の水の球体の内の半分程が大地とミライに向かって飛んできた。
その様子は宛ら水でできた弾丸の雨だ。
「やばっ……さ、召喚!!」
「キュイ!!」
水の弾丸が放たれる直前、大地が慌てて左手を突き出すように構えると叫んだ。
その瞬間、左の腕に巻いてある元素デバイスから体長・翼長ともに約1mほどの真っ白なドラゴンが飛び出し、翼を広げて弾丸の雨から大地達を守る。
「ハァ? 何だソイt……ああ! そうか、そいつが元素生物って奴かぁ!! ……なるほど始めて見たぜ♪」
突然白いドラゴンが出現した事に最初こそ戸惑った黒ローブだったが、白いドラゴンが元素生物だと気がついた瞬間、毒々しいが子供のように無邪気な声を上げる。
「話にゃあ聞いてたが……いや~、まさか俺の水弾連射魔法をいとも簡単に止めるとはなぁ♪ ……まぁいい、今度こそ死ね!」
黒ローブの男はそう言うとさっき飛ばさなかったもう半分の水の弾丸も飛ばしてくる。
「くっ、ウィン、竜巻!」
「キュオウ!」
大地がそう叫ぶと白いドラゴンが甲高く可愛らしい鳴き声上げながらを翼を羽ばたかせ始じめる。
その羽ばたきによって強烈な突風が吹き荒れ、それと同時に直経2m程の小規模な竜巻が二本発生した。
発生した二本の竜巻は黒ローブの男によって放たれた水の弾丸をも巻き込み真っ直ぐ突き進んでいく。
その進行方向は完全に黒ローブを巻き込み方向だった。
「は、はぁ~~!? そンなんアリかあ!?」
黒ローブの男がそう叫びながらも、少しでも巻き込まれた時のダメージを軽減させようと体をこわばらせて身構える。
その直後、――ド力ン――という爆発音と共に竜巻が黒ローブに衝突する。
黒ローブの男はその竜巻に巻き込まれて吹っ飛んだ……かに思われたが……、
「ぬおぉぉ……って、んん? ……今、当たったよなぁ?」
黒ローブは拍子抜けしたような声で言う。
竜巻は確かに黒ローブに当たった。
しかし当たった瞬間、急に竜巻が消滅したのだ。
黒ローブの男は一体何が起きたのかと首を捻る。
「……いや待て、そう言えばあいつ等は……」
黒ローブはそう言った瞬間、ハッとしたようにようになに辺りを見回す。
すると先ほどまで大地達がいた場所には案の定誰もいなかった。
「……なるほどなぁ、逃げる為の目眩ましって訳か……」
黒ローブがボソリと呟く。
そう、今の竜巻は黒ローブを攻撃する為の物ではなく大地達が逃げる為の隙を作る為の物だったのだ。
その為必要以上の耐久性はなく、黒ローブに当たった瞬間に限界が来て崩れてしまったのだ。
それに気付いた黒ローブは唐突に再び狂ったようにケタケタと笑いだし、
「ハッ! なるほどなぁ、今度は追いかけっこって訳かぁ……。 いいぜ! こうなったらとことん付き合ってやるぜぇ!」
言黒ローブの男はそう叫ぶと静かに何処かへと向かって走り出した。
◆◇
ーーPMO4:30、
大地と葵が住んでいるマンションに程近い位置にあるとある路地裏……、
そこにはその路地の中に駆け込む大地の姿があった。
大地が駆け込んだ直後、白いドラゴンとそれに背負われたミライも文字通り飛び込んで来る。
「ハァ……ハァ……。 な、なんとか逃げ切れた、か? ……ウィン、ミライ、あの不気味黒ローブがこっちに来る様子はあるか?」
「う~んと……うん、多分大丈夫っぽいの」
「キュイ!」
今まで走り続けていたのか中腰になって肩で息をしている大地は、ミライとウィンと言う名前であるらしい白いドラゴンの様子を見てホッとしたように座り込んだ。
ちなみにミライの事だが、震えなど症状は黒ローブの男から離れたらすぐに収まった。
「フゥ、とりあえず暫くは大丈夫そうって事か」
「まぁそう言う事なの」
大地が独り言のように小さく呟く。
するとそれを聞いていたミライが追従した。
大地は独り言のつもりで言った言葉に予想外の反応が帰ってきた事に苦笑いしながらも、先ほどまでとは打って変わって楽しそうな様子で笑っているミライを見て安心する。
と、同時に先ほどの黒ローブ男の事を思い出し……、
「……なぁミライ、ちょっといいか?」
「え? 何なの?」
大地が真面目な顔で静かに聞く。
それに対して大地の様子にまだ気がついてないミライは満面の笑みを浮かべたまま振り返る。
こんな無邪気な笑みを見ると本当に今聞こうとしている事を聞いてもいいのかと不安になる。
……だが、
「こんな時で悪いんだが……イヤ、こんな時だからこそ聞かせて貰う」
それでも……聞く。
「……お前は……アイツとお前は一体何処から来たんだ?」
大地は絞り出すよう声で静かに聞く。
その言葉を聞いた瞬間、ミライの表情は笑顔のまま固まる。
……少しの間、沈黙が続く……と……、
「……あんな奴が出てくれば気になるに決まってるの……。 ……うん、分かったの……全部話すの!」
ミライが力強く宣言する。
その蒼い瞳にはハッキリとした決意の色が覗えた。
「まず私が何処から来たか?、だけど……その前にダイチはパラレルワールドって言葉は聞いた事あるの……?」
ミライは大地にそう問いかけた
すいません!
何んか最後は引きを作りたいと思って、区切ったせいで今回はやや短めになっております。
本当にすいません!
相も変わらず感想大募集中です!
作品や文章に対する作品ご意見・誤字脱字報告・ダメ出し・何でもいいので感想をください!
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PS,
×(クロス)5.の前書きでも書いてある(書く予定)通り、最後の方は少し文章を追加しました。