×(クロス)3.嘘と説明と黒い影と……
――PM03:53、
そうこうしている内にそれぞれの自宅に到着した。
(うわ~、結局ここまで何もいい手は思いつかなかった……)
大地はエレベーターの中でそんな事を考える。
あの後何とか葵が来なくなるような説明を考えたが、どの案でも葵に余計な不信感を与えるだけになると言う結論に達するだけだったのだ。
――チーン――
電子音が鳴り響きエレベーターが止まる。
それそれに気付いて大地は「おや?」という顔になった。
前にも説明した通り、大地の部屋があるのは3階である。
なのにエレベーターのドアの上に表示されてる現在の階数は《2階》になっている。
「じゃあ大地、また後でね」
大地が不思議そうに首を捻っていると、不意に葵がそう言ってエレベーターから降りていった。
予想外の事に驚いていた大地は葵の声にハッとなりエレベーターの淵を手で押さえてドア閉まらないようにする。
「チョット待て葵、お前オレん家の来るんじゃなかったのか?」
「え? ああ、その事? 着替えよ着替え」
大地の問いかけに葵がキョトンとした顔で答える。
そこまで言われて大地もやっと理解した。
さっきまでどうすれば葵が自分の部屋に来ないかばかり考えていた上、最近の葵は殆ど自分の部屋には寄りもせず直接大地の部屋に来ていたからすっかり忘れていたが、2階と言うのは葵の部屋がある場所だ。
つまり葵はただ単に自分の部屋に帰ろうとしているだけなのだ。
「ああ、なるほど。 そう言う事か……って、アレ? でもいつもは着替えなんかしないでそのままオレん家に来てるよな? なのに何で今回はわざわざ着替えに戻ったりするんだ?」
「えっ!?」
納得しかけた大地だったが不意に疑問が沸いてくる。
その疑問を問いかけると葵が明らかにうろたえた様子になる。
少し分かりづらいが良く見ると顔も僅かに紅潮しているようだ。
「えっと、そのぉ……」
「アレ? 何か顔紅いけど大丈夫か?」
「紅くなんかないっ!! えと……そう、アレよアレ! ホラ、そのお客さんってのに会うのに学校の制服のままなのはどうかって思ったからよ!」
「ふ~ん」
葵がしどろもどろしながら何とか言う。
それを聞いて大地はやっと納得した。
つまり葵は現在大地の部屋でくつろいでいると思われる白ローブのネコ耳電波少女(葵はまだその少女がどんな人物か知らないが)に会うのにせめて少しでもいい格好をと思ったらしい、と大地は結論づけた。
「え~と……つまりお前は制服のままでその子に会うのは何かマナーとか的にどうなのか?、とか思ったから着替えに帰るって事か」
「そ、そうそう! そう言う事よ!」
大地がそう聞くと葵がその言葉を待ってました!、とでも言うように勢い良く反応する。
「そう言う訳だからアタシが着替え終わるまで暫く待ってなさい!」
「あいあいさ~」
葵は大地の気が抜けたような返事を聞くや否や急ぎ足でエレベーターの前から立ち去った。
大地はその様子を軽く見て、「なんであんなに焦ってんだ?」と思いつつ、とりあえず暫くの間は葵が来ないという事に安心してホッと一息つく。
「……さ~てと、何だかよく分かんねーけどとりあえず暫くはなんとかなりそうだな。 じゃ、後は部屋に戻るまでにミライと葵をどうにかする作戦を考えなきゃな」
大地はそう呟くとエレベーターが閉まらないように押さえていた手を離す。
手が離れると同時にこれまで動き阻害されていたエレベーターのドアが素早く閉まり動き出した。
◆◇
――PM04:02、
大地と葵がエレベーターで別れてから数分後、
「ハァ……」
マンション2階の一室、部屋の壁に寄りかかり疲れた様に小さく溜息を吐く葵の姿があった。
ここは玄関のドアの隣に『月読』と書かれた表札がある一室……つまり葵とその家族が住んでいる部屋だ。
まぁそうは言っても葵は殆ど毎日大地の部屋に居るので実質寝に帰ってるだけな上、葵の両親も共働きの為実際は大抵部屋には誰もいないのだが。
「……ってかなんでこんな風になったんだっけ?」
葵が小さく呟く。
『こんな風』と言うのはもちろん大地のところに来るという外国人の少女に会う事である。
(……確か大地が言ってた「ああ。 何か今朝父さんが急に電話してきてそんな事言い出したんだよ。 ちなみにその客とやらは父さんのアッチでの友達の娘さん、つまり外人の女の子だそうだ。」だったけ? それを聞いた瞬間からなんとなく何処か気になっちゃって、それでアタシも会うとか言っちゃったのよね?)
「……でも、着替えの理由、ホントはあんな理由じゃないのよね」
葵はさっきまであった事を思い出しながら、ふと思い出したように呟いた。
(……ホントは体裁を気にするとかそんなのが理由じゃあないのよね)
そんな事を考えながら不意に天井を見上げる。
どうやら葵は考え事をする時には上を見上げる癖があるらしい。
(ホントは……本当は単純に今日来るって言う女の子がもしかしたらかなり可愛いい子かもしれないから……、)
「もしそうだった時にその子に負けないようにせめて服だけでもいい物に……って思っただけなのよね……」
葵が静かに言う。
途中から頭で思うだけではなく声に出てる事にも気付いていないようだ。
静かに天井を見つめ続ける。
少ししてから不意に何か呟くと、天井を見ていた顔を下げ、
「……ってかアタシなんでまだ会ってもない子に敵愾心を……いや、そんな訳ない!! 負けたくないとか思っているのは気のせいよ! だってそんな風に思う理由がないし!」
と多少パニック気味な様子で力強く叫ぶ。
見た感じ一応は葵自信も変な事を言っていると言う実感はあるようだが、それでも何とか納得しようと無理やりな事を言っているようだ。
ちなみに叫ぶと言ってもあくまでここはマンションなので周りの事を考えたレベルでだ。
「そうよ、きっと勘違いなのよ! 本当はただ単に体裁気にしてるだけ! さぁ、そうと分かったら早速着替えよ着替え!」
葵はかなり無理やり考えを切り替えると、着替えをしようと部屋にあるクローゼットの扉を開けた。
◆◇
葵が着替えを探し始めたのと同じ頃、
「おいミライ! ちょっといいか?」
大地が自分の部屋に入と同時にミライの姿を探しながら言う。
少し探してみるとミライはまだ今朝のベットの上にいた。
「あ、ダイチ! やっと帰って来たの! じゃあ早速今朝の続きを……」
「それは後だ! チョット面倒くさい事になったからこっちの話を聞いてくれ! まずは……って、むぎゃあぁぁぁぁぁ!」
大地は自分の姿を見るや否や目を輝かせて話そうとするネコ耳少女の姿を確認すると、早速エレベーターの中で考えた作戦を話し始めようとする。
しかしそれは大地の言葉を聞く如に徐々に機嫌が悪くなっていっていくミライのひっかき攻撃によって中断させられた。
「った~~~。 おい、こっちはただ話してただけなのになんでいきなり引っかいてくるんだ!」
「だって……今朝は帰ってきたら私の話ちゃんと聞くっていったの! ……なのに……なのにそっちばっかり話そうとして……それってずるいのぉ!」
「うっ……」
大地は突然ひっかかれた事に腹を立てて言う。
が、ミライが今にも泣きそうな様子の言葉にたじろいて怒りはすぐさま収まった。
「や、その、確かに今のはオレが悪かった。 すまん……。 でも今回はマジで俺の人格とか社会的な地位とかそういう内面的な部分がヤバいからこっちの話聞いてくれ!」
「むむぅ~……。 ……納得はいかないけど分かったの」
大地が必死になってミライに謝りつつ説得する。
その説得の甲斐あってミライもとりあえずは何とか聞く耳は持つまでにはなった。
「ありがとな。 えっと、じゃあまずは外にマンションの外に出るぞ。 っつー訳でついて来い」
「え?」
大地はそうミライの腕を掴んで玄関へと歩き出す。
突然の外出発言の理由が分からずにいるミライは、すでにパッチリ開いたネコ目を更に大きく見開いた状態で、大地にされるがままで突いていった。
■□
――PM04:15―― マンションの入り口、
「……っつー訳なんだけど……分かってくれたか?」
大地が先ほどまでマンションの方から出ていく感じに歩いていた状態から突然反転して言う。
「う~ん……まぁ、なんとなくは分かったの」
「ふぅ、それなら良いんだ」
大地はこれまでの事を一通り説明し、何とか目の前の少女がな安心したように息を吐く。
大地の様子にミライは多少不機嫌そうにしながらも、とりあえず納得したらしく小さく頷いた。
と思ったが数分後、
「う~……、」
「ん? どうしたミライ?」
「やっぱり納得いかないの……。 だってなんで私とそのアオイって人が会うだけなのにこんなにややこしい事しなきゃなんないの?」
そう言われて大地は再び「うっ……」と言葉に詰まった。
確かに説明はした。
だがそれはあくまで一通りでしかなく、大地が「コレを言ったらまた面倒くさい事になるな」と判断した事は全て伏せての説明なのだ。
一応『魔法』の事を(大地自信などの)一般人に説明するのはあまり良くないからしない方がいい事と、葵に『ミライは大地の父親の友人の娘』という設定で説明した事はミライにも説明した。
だがそもそもなぜそんなややこしい嘘設定で葵に説明したかなどはミライにも話していない。
(さすがに「魔法なんて訳分かんねーモンを葵に説明して、俺が電波みたいにみられたく思われるのが嫌だから」なんて事ミライには言えねーよなぁ……)
大地はミライに心中を悟られないように苦笑の表情でそんな事を考える。
大地がさてどうしたものかとミライへの丁度良さそうな説明を考えていると、
「みぃ~つっけたぁ~」
大地の背後から聞いた瞬間背中を悪寒が走り抜けるような声が響いた。
大地と向かい合っていた為声の主の姿が見えていたミライは、その姿に気付いた瞬間愕然とした表情で凍りついたように動かなくなった。
大地はミライの様子を見て不安を感じながらも、勇気を振り絞って振り返る。
そこにいたのは、
「ハッハハ~イ♪ ミライ=ミューゼちゃぁん! 一日ぶりだけど元気にしてたかな~♪」
ミライとは真逆の真っ黒いローブを着て、そのローブに付属している大きなフードを被り素顔を隠した不気味な奴がいた。
声などから推測するところ、多分男だろうか?
しかし今重要なのはそんな事ではない。
「お、お前は誰だ! なんでミライの事を知っている!」
そう、『コイツはなぜミライの事を知っているのか?』、今もっとも重要なのはそれだ。
「んん? おめぇは……ああ、そうか! おめぇ、こっちの世界の一般人だろ? ああ、なるほどな!」
黒ローブの奴が薬物か何かで狂ったような感じに揺れながら答える。
「っつか今オイラに向かって「誰だ!」って聞いてきたか? 教えてやるよ……オイラは……」
黒ローブは寒気がするような嫌な声で答える。
大地は緊張で体が動かなくなっている。
「オイラは……『魔法使い』だぜぇ!」
黒ローブがフードの中から真っ赤な舌を突き出して答える。
と言う訳で第三話如何でしょうか?
え? 「毎回々々投稿するの遅すぎだ!!」ですって?
……すいません、仰る通りです。
それでも一応週一以内には必ず投稿と言う目標で頑張らせて頂く所存でおりますので、何卒宜しくお願い致しますm(__)m
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