×(クロス)2.魔方式人造人間(ホムンクルス)
「ああ、その事? それは私が追われてて、逃げる時にたまたまここ着いちゃったからなの」
「は?」
予想外の答えに大地の思考が停止した。
今日が始まってまだ数時間しか経ってないにも関わらずすで五度目の思考停止だ。
「……お、追われてたぁ~!? 誰に?」
「正直私もよく分からないの。 けど私を使って何か企んでいる組織だって事は間違いないの」
怪訝な顔で聞く大地にミライが大真面目な様子で言う。
『組織』と言う事はミライの相手はかなりの大人数なのだろうか?
だが、大地はそれとは別の言葉が気になったらしく、
「チョット待て! 今、『私を使って……』とか何とか言ってなかったか? それってどういう意味だよ?」
「えっと~……まず何から話せばいいやら……。 六属性の話は……もうしたの?」
「なんでこっちに聞いてくるんだよ! ……まぁ一応は聞いたけど……」
「そ、なら次に魔法式人造人間について何だけど……簡単に言っちゃうと錬金術って魔法によって創られた獣耳や尻尾を持った人間の事なの。 あ、ちなみに文字で書くと魔方式人造人間って書いてそれでホムンクルスって読ませるの」
ミライがゆっくりと説明する。
それに対して大地は少し考え込んでから、
「ちょっと待て、少し前に確かお前自分はその魔方式人造人間です!、って感じの事言ってなかったっけか?」
「うん、そう言ったの」
「つまりアレか? お前は自分は人造人間ですって言いたいのか?」
「うん、そうなの」
「…………………………。」
「…………………………?」
二人の間に長い沈黙が流れる。
ミライはさも不思議そうな小首をかしげ、大地はげっそりと疲れたような顔でだ。
「……あ~、もういい分かった、何か反論すんのも面倒くせ~し全部受け入れる。 ……で続きは?」
大地が大きな溜息をつきながら諦めたように言う。
それを聞いたミライはハッとしたような顔になって「う、うん、そだよね。 さ~、続き続き!」とか言い出した。
それを見てもしかするとコイツは本当に頭がおかしいんじゃないかと疑い始めた大地であった。
「それで私はその魔方式人造人間なんだけど……実はただの魔方式人造人間じゃないの」
「ほう、それで?」
「私はその魔方式人造人間の中でも全属性を完全に使いこなす事ができるように創られた個体なの!」
「ああ、分かった分かった。 それで?」
「で、多分あの組織は私のその力を使って何か良からぬ企みを考えてるっぽいの! だから私はあのビルから逃げてきたの」
「ふ~ん、そうなんだ~。 それで?」
「それで……ってアレ? ダイチならそこは『「ビルから逃げてきた」って事はお前もしかしてその組織の所に居たのか?』とかツッコムところなんじゃないの?」
「確かにそうだな~。 それで?」
「む、もしかして話聞いてないの~?」
「はいはい、そうですね。 それで?」
「むぅ~……人の話はちゃんと聞くの~~!!」
「はいはい、そうですn……って、ぬぎゃぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴と共に大地の顔に細長く痛々しい5本の傷跡が刻まれる。
完全に無視を貫いていた大地の様子で堪忍袋の緒が切れたミライが大地に向かってひっかき攻撃を繰り出したようだ。
――ピン、ポーン♪――
そうこうこうしていると玄関でインターホンを押す音が聞こえてきた。
「おぉ、誰か来た! 悪いけどちょっと話は中断な!」
大地はそう言うとそそくさと立ち上がり玄関の方へ行く。
そんな大地を見て、「あっ!」とミライが何か言いたそうな声を出したが大地は無視する。
「は~い、疾風ですがどちらでしょうか?」
大地が鼻歌交じりに言いながら玄関を開ける。
すると、そこには昨日と同じ制服姿で多少イライラした様子の葵が立っていた。
「葵か、おはよう」
「何で迎えに来ないのよ! ってか早くしないと遅刻するわよ!」
「アレ? ここは顔の傷を気にする場面じゃないんですか!? ……ってかちょっと待て! 今何時だ!?」
開口一番、葵は顔のひっかき傷に触れないどころかあいさつも無しにそんな言葉が飛ばす。
その言葉で大地が焦ったようにデバイスを見た。
液晶画面には『AM08:15』と表示されている。
大地が通っている学校は基本的にAM08:40から朝のホームルームが始まる。
このマンションから大地の学校まで歩いて30分弱、全力走っても確実に20分以上はかかる。
……つまり、
「やばっ! 時間ねーじゃん!」
「だから言ってるのよ! ホラ、早く行かないと遅刻するわよ!」
葵はそういうや否や大地を部屋の中へと勢い良く突き飛ばす。
「あと1分以内に制服に着替えてカバン持って出てきなさい! 1分以内よ! ほらダッシュ!」
「アイアイサー!」
大地はビシッと敬礼をすると先ほどの寝室に戻って大急ぎでカバンの中に教科書を詰め込むと、着替えようと制服に手を掛けてピタリと手を止める。
「あ、そう言えばお前はどうするんだ? オレはこれから学校に行かなきゃなんねーんだけど」
大地は思い出したようにミライの方を向き聞く。
すると、ミライは多少不機嫌そうに大地の顔を見て、
「出来ればまだここに居させて欲しいの。 本当はまだ説明しなきゃならない事いっぱいあるけど君が学校ってのに行かなきゃならないんならそれは仕方ないの」
「分かった、じゃあちょっとここで待っててくれ。 夕方頃には帰るから話はそれからな!」
「そうするの」
大地はそう言って制服を掴むと、部屋を出てリビングで着替え始める。
流石に女子の目の前で着替えるのは抵抗があったのだろう。
「待たせて悪い。」
「ホント遅い! ほらほら早く行くわよ!」
大急ぎで着替えた大地が部屋から出て来くる。
葵はそれを確認するや否やすぐさま走り出していった。
「葵、チョット待てって!」
そう言って大地も駆け出していった。
◆◇
――PM03:20 大地と葵が通っている学校の校門前、
放課後、部活に所属していないもしくは部活が休みで学校に授業後に時間にする事が無くなった生徒達が一制に校門から出ていく姿がみえる。
その中に大地と葵もあった。
「ん~~……今日もやっと終わった~♪」
「だな、それに休み挟んでからあと3日学校に行けば念願の夏休みだし何か気分いいな」
葵が大きく伸びをしながら言い、それに大地が追従する。
男女が一緒に歩いているこの状況は仲良く一緒に下校するカップルのように見えなくはない。
その上葵の容姿は学校の中でもかなり可愛い部類に入る。
その為校門の辺りで当然何人か男子が悔しそうに大地の事を睨んだりしていた。
まぁこの二人は気付いていないようだが。
ちなみにこの二人は昨日や今日に限らず毎日一緒に登下校しているらしい。
「……そう言えば今朝は何であんなに遅かったのよ? いつもなら8時前にはアタシの部屋に来て待ってるじゃん」
「ん? 葵もしかしてオレが遅かった事心配してくれてンの?」
「なっ!?」
大地が冗談半分で軽く言う。
その言葉を聞いた瞬間葵の頬が僅かに赤くなる。
大地がその姿を見て「アレ?」と疑問に思った直後、葵は右の拳を握りながら後ろに引き。
「バッ……んな訳ないでしょ!!」
「ぐっは! ……チョット待て、ちょっとした冗談なのに何でアッパー!? って何さらに追撃加えようと拳握りなおしてるんですか!?」
「問答無用!」
「ちょ、ま、ぐはぁっ!」
弁解する暇もなく大地の顎に2度目の強烈アッパーカットが叩きこまれた。
アッパーが炸裂してからから数分後、何とか復活した大地は再び葵と一緒に歩いていた。
「……で、結局なんで今朝は遅かったの? やっぱ何かあったんでしょ?」
葵がまだ多少不機嫌そうな様子のまま聞く。
大地はちょっとしたジョークのつもりがなんでここまで不機嫌になっているんだろうと不思議に思いながらも、
「今朝……か……。 う~ん、何て言えばいいのやら……」
そこまで言って大地はハッとしたように立ち止まる。
葵は突然止まった大地を不思議そうに見ている。
(……チョット待てよ? 今朝のあの状況って良く考えたらどう説明すればいいんだ? 結局どうやってウチに入り込んだかも聞いてないし。)
大地の顔を嫌な汗が流れる。
今朝は予想外の出来事がありすぎてまともな思考ができてなかったが、よくよく考えてみれば『朝起きたら突然知らない女の子が自分の部屋の中にいた』なんて状況は普通ありえない。
それこそマンガとかゲームの世界の話だ。
その上その少女はかなりの電波系少女な為、もし本人に直接理由を説明してもらおうとしてもまともな返答は期待できない。
(下手な嘘言ってもどうせすぐにバレだろうし……。 こうなったら何かそれっぽいテキト一な理由考えて言うしかねぇ!! えっと~、何かいい案は……)
「!! どうした大地ぃ~。 もしかして何かアタシにも言えないような事でもしてたのか~?」
「~~っ! あ、葵、ちょっと待ってくれ! 結構面倒くさい話だから説明する前に少し状況を整理したい」
「ふ~ん、そうなんだ~……♪」
何を勘違いしたのか葵はニヤニヤして大地の事を見ている。
それに対して大地も動揺しまくりで返す。
しかしその勘違いと動揺のお陰で深くはツッコまれなかったのは不幸中の幸いだろう。
(少しでも可能性があり、尚且つ現状を把握されても問題ない話って言うと……)
「……あ~……、今朝は何であんなにバタバタしてたか、だよな? 簡単に言うとアレだ、今日は家にお客が来るからその為に色々と準備してたからだ」
「お客さん?」
大地が精一杯のポーカーフェイスで言う。
それに対して葵はやや訝しげな表情で大地の顔を見上げる。
「ああ。 何か今朝父さんが急に電話してきてそんな事言い出したんだよ。 ちなみにその客とやらは父さんのアッチでの友達の娘さん、つまり外人の女の子だそうだ」
「ふ~ん、伯父さんの友達の娘……ねぇ」
「ああ、ホント父さんの勝手さには参るよ」
大地がハァ~と長い溜息を吐く。
葵は『女の子』というセリフを聞いた瞬間ピクリと反応したが、大地の面倒くさそうにしている姿を見て一応は信用したようだ。
「でも外国人の娘の相手なんて大地大丈夫なの? アンタ他の教科ならともかく英語だけはありえないぐらい壊滅的じゃない。 ……なんならアタシも一緒に会っ……」
「いや、父さんの話だと今回の子は日本語ちゃんと話せるらしいから大丈夫だ」
「……そう。 ならいいけど……」
葵の言葉に大地が苦笑しながら返す。
大地の返事を聞いた葵は静かにそう返すと不意に空を見上げた。
その顔は何処か残念そうな様子が見えた。
「ん? 葵、ボーっとしてどうした?」
大地が葵の様子を見て少し不思議そうに聞く。
それに対して葵は応えずに無言で空を見続ける。
葵は暫く空を見続けたあと、「……うん、やっぱりアタシが遠慮なんてガラじゃないわね」と小さく呟いた。
その呟きを聞いた瞬間に大地は嫌な予感を感じ、直後葵が急に顔を下げ、
「よし! じゃあアタシもその娘に会う!」
「はい!?」
勢い良く断言する葵を大地が目を見開いて凝視する。
「ちょ、チョット待て、今なんつった!?」
「ん~? 別にただ単にアタシもその子に会いに大地ンとこ行くって言っただけよ」
大地は聞き間違いかと思い慌てて聞き返すがさも「アタシ、なんか変な事言った?」という感じで葵が返す。
だがこの発言は大地としては堪ったものではない。
まだミライには今の説明の事は話していない。
その状態で葵と出会ったら間違いなくあの電波説明を始めるだろう。
そんな事になったら確実に何か面倒な事になるのは目に見えている。
「なんでそうなる!」
「なんでって……そんなのなんとなくよ。 それとも何かアタシが来たらマズイ問題でもあるの?」
「そら問題……なんて……」
「ないわよね?」
大地は無言で頷く以外の手がなかった。
実際には来られてはマズイがそれを説明するだけでまたややこしい事になり、結局は嘘がバレる。
葵は大地が頷いたのを見るが否や「そ♪ ならいいのよ」と言うと軽くスキップしながら歩き出した。
それに対して大地はどうにか葵の申し出を断れないかと思案しながらダラダラと歩いていく。
またまた変なところで終わってる(汗)
ちなみに大地の英語がダメなのは作者が英語が壊滅的にできないからだったりします(笑)
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