×(クロス)9.手紙
こんにちは風の双剣使いです。
本編を始めるまずに言わせてもらいます……相変わらず遅くなって申し訳ありません!!
今回は言い訳はしません。
完全に僕の力量不足が原因です。
本当にすいませんでした!
そしてもう一つ、今度はお知らせです。
今までは話が変わる時には三行、場面が変わる時には◇(◆)or□(■)の前後それぞれに二行計四行の隙間を開けてましたが……。
今回からは全話共通で+二行(話:五行 場面:前後それぞれ四行計八行)の隙間を開ける事なりました。
ちなみに理由は話のテンポ的な問題からです。
色々と有りはしましたが、それでは最新9話「手紙」です!
どうぞ!
ベランダから部屋に飛んできた巨大紙ヒコーキの折り目を戻して解体する大地。
するとそこには……、
「……何だこりゃ? しゅく……しょう……?」
半分ぐらい解体した所で内側に書かれた文字の正体がハッキリと分かった。
そこには紙の片面全体をビッシリと使って大量に書かれた“縮小”の二文字があった。
「なになにどうしたの~? って、うわっ!? ……なんか気持ち悪ぐらいにたくさんの文字が書かれてるの~……」
大地の唖然としたような声に反応したミライが元・紙ヒコーキの紙の片側を見て、まるで虫の大群でも見たようにブルリと身震いする。
もしかしたらミライは読み書きなどは苦手なタイプの人なのかもしれない。
まぁコレだけ巨大な紙を埋め尽くすほど大量の文字が書いてあるのだし、読み書きが苦手でないとしても多少なりとも嫌悪感は感じるだろうが。
「ハァ~……結局はただのイタズラかよ。 マジで心配して損したぜ……」
そう言いながらそのまま紙ヒコーキの解体作業を続けていく大地。
多分中途半端に開いた状態なのが嫌なのだろう。
……その後、大地は解体を続行した事を後悔する事になるとも知らずに……。
「……うへ~……文字はあんまり好きじゃないの~……ってアレ? なんか急に魔力の気配が……?」
紙ヒコーキの解体が終わった瞬間、ミライがそんな事を呟く。
「ま、魔力ぅ? なんで急にそんなのの気配g……」
急にそんな事を言い出したミライを見て大地が不信そうな様子でそう聞こうとする。
しかし、言い終わる前に異変は起こった。
大地の手元にある折り目を戻され元の約2倍の大きさになった一枚の紙キレが、突然―ビッカアァァァ―と黄金色に輝き始めた。
「へ? なんだコレ? 何がどうなtt……」
「マズッ……。 ダイチっ、その紙から離れるのっ!!」
ミライの言葉を聞く前からなんとなく嫌な予感がしていた大地は、そう言われた瞬間すぐさま紙を手放し勢い良く後ろへと飛び退る。
その直後、紙が―ボン!―というどこぞの博士が薬品の調合に失敗した時にでも鳴りそうな破裂音と共に小さく爆発した。
その光景を見て何が何だか良く分かってない大地は目を白黒させて爆発した地点を見つめる。
爆発した直後は黒い煙によってまったく見えなくなっていた紙がある(と思われる)所だが、時間の経過と共に段々と晴れてくる。
そこにある物を見た瞬間、大地とミライは口を半開きにしたまま―ポカーン―と黙り込む事になった。
「――え~と~……ミライさ~ん? ……コレは一体どういう事なのでしょうか?」
数秒後、どうにかある程度は元に戻った大地がなんだか変な口調で質問をする。
なぜなら先ほどまで元・巨大紙ヒコーキの特大の紙が在った場所だが、煙が晴れた後のその場所には何故か普通のA4サイズのコピー用紙的な物が在ったからだ。
ミライはミライで大地の声を聞き、ハッとしたようになる。
「え? えと……その紙の事について質問してる……って事で合ってるの?」
「お、おう」
ミライもなんだか状況整理がしきれてないであろう状態でなんとか確認を取ってみる。
「そうなの……。 えっと、ついさっきまで……つまり紙ヒコーキが開かれる前なんだけど……その時まではまだ紙にはなかったハズの魔力が、紙が完全に開かれたその瞬間になって急にに出てきたの」
「??? え~と……急に魔力が出てきたからどうだってんだ?」
ミライが多少オドオドしながらもなんとか説明する。
しかし大地はその説明を聞き、ますます訳が分からないといった様子で聞き返した。
「その……つまり簡単に言うとアレなの。 魔力が突然その紙に宿って、その魔力によってその爆発及び紙の『縮小化』の効果を持った魔法が発動したって事みたいなの」
ミライが多少自信なさげに説明する。
コレは流石にそこまでハッキリと理解している訳ではなく、飽くまで状況から考えた推測である為イマイチ自信が持ち切れていないからだ。
「『縮小化』か……それであの紙には“縮小”って文字が大量に書かれてたのか……。 ……ん? でもチョット待て? だとしてもなんでわざわざ紙を小さくしたんだ? ……もしかして!」
大地はそこまで言うと『縮小化』後、完全に放置さえていた紙を拾い上げる。
するとそこには先ほどまで書いてあった“縮小”の文字は無く、代わりに何か別の文章が書かれていた。
大地は多少慌てた様子でその文章を読んでいく。
■□
文章の内容だが、“果し状”の文字と同じく筆文字でこう書いてあった……、
―― 拝啓、まだ見ぬ科学界の少年へ、
まずはあいさつをさせて貰おう。
はじめまして、私は昨日キミが倒したであろう不気味な奴の上司に当たる火陰と言う名の者だ。
では、単刀直入に行かせて貰うが、ハッキリと言おう。
キミのすぐ側にいるであろう「被験体02号」の少女を私に引き渡してくれないか?
言っておくがコレは質問や交渉などの類の事ではなく、ただの確認だ。
断るという選択肢は極力考えないでほしい。
とはいえ、飽くまで決めるのはキミであり、もちろんキミが身勝手に断ろうとしたり私自身を撃退しようと考えたりする事自体は一向に構わない。
だが、その場合の為に二つほど注意をしておく。
まず第一に、今回直接被験体02号を奪いに行かずにこんな回りくどい方法を使っているかについてなのだが……それはただの私の気紛れだという事だ。
もし不注意で無関係な人物を殺したりして此方の世界の警察に睨まれでもしたら色々と厄介だからね。
つまり私としてもできればこっちの世界で目立ったりするのは控えたいという事だ。
ただ、それは飽くまで「控えたい」だけであり、目立つ訳にはいかないと言う事はない。
私の気分次第では……そうだな、さっきまでその場に居たポニーテールの少女を人質に取るなどの選択肢も取れる訳だよ。
そして第2に、私は部下である奴とは違い戦闘や魔法の腕にはそれなりに自信を持っている。
もちろんそれはキミも同じだろうがハッキリと断言しよう。
私の実力はあの不気味な部下の数百倍である。
まぁ、詳しい話は被験体02号に「火傷の大男」とでも聞いてみるといい。
そうすれば少しは分かるハズだ。
なお、もし私の話に応じる場合、もしくは無謀にも私を撃破しようとするならば場所はこの中野区……ではなくエリア14の中央部の位置する市民公園にPM08:00までに来て貰おう。
断るのは自由だと宣言したが、キミもその場合はどんな事になるかぐらいは簡単に分かるだろう。
願わくば、キミにはもっとも賢い選択をして貰えると信じさせてほしい。
それでは8時辺り、もしくはその少し後になるかもしれないが……まぁとにかくまた会おう。
戦闘部隊・部隊長 火陰 明より ――
□■
その手紙を読み終わった後、
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
二人は無言のままその手紙を見つめていた。
「……なぁミライ、ちょっと聞かせてもらうが、この手紙に書いてある「被験体02号」ってのはまずお前の事を指していると見て間違いない。 だよな?」
その静けさを引き裂くように大地がミライに向かって質問をする。
その口調は一言一言区切るような調子になっている。
「え、えと……うん。 研究者っぽい人達も時々私の事をそう呼んでいたし、多分そうなの」
ミライはいきなり質問をされた事に驚きながら多少オドオドした様子でありながらも律儀に答える。
「なるほどな……。 つー事はやっぱりこの手紙の主はミライを追っている『組織』の奴だって事に間違いないな……」
大地はそう呟くと顎に手を当てて何か考え始めた。
――そんな大地の様子を見ながら、ミライも考え事をしていた。
(この手紙……大地はコレを見てもまだ私の事を護ってくれるの?)
そこまで考えて、すぐさまその考えを否定した。
(ううん、流石にもう無理なの……。 だって元々ダイチには私を護る義理なんてない訳だし……)
元々、ミライと大地の繋がりは自分が次空間移動魔法を使ったらたまたまその場に大地がいたと言うだけの関係だ。
手紙の内容からするとこの火陰という男は従わなければ葵や他の関係ない人物にも危害を加えると言っている。
それだけの状況をわざわざまだ特に深い関係もないミライの為に招こうとする者などいるハズがない。
ミライはそこまで考えるとチラリと大地の方を見た。
どうやらまだ考えているらしい。
(私だって折角友達になった葵や大地が傷つくのは嫌だし……うん、仕方ないの。 こうなったら大人しく『組織』に戻るの……)
ミライは無理やりそう決心すると大地の考え事が終わるのを静かに待つ事した。
もし大地が何と言っても受け入れようと決心しながら……。
――それから数分後、
「……ハァ……やっぱ選択肢は一つしかねぇか……。」
先ほどまで何か考え込んでいた大地が不意に頭をボリボリと掻きながらそんなこ事を言う。
ミライは大地のその雑な様子を見て一瞬違和感を感じつつもそれを無視し、どんな言葉を言われてもいいようにと身構える。
そんなミライの葛藤にまったく気付いてない大地は、もう一度「ハァ~……」と大きく溜め息を吐くと口を開き、
「……こうなったからにはもう仕方がねぇ、かなり厄介そうだがその火陰とか言う奴も何とか倒すしかねぇか……」
と、如何にも面倒くさそうな様子でそう言い放った。
その言葉を聞いた瞬間、ミライの思考は完全に停止した。
「アレ? ミライ? おい、大丈夫か? おーい、聞こえてるのかー?」
突然ガッチガチに硬直してしまったミライを見て多少心配そうに声を掛ける大地。
ミライはその声を聞くとハッとしたようになり今度は大地の瞳をマジマジと見つめる。
「ちょ、ちょっと待つの……。 えぇっとぉ……ダイチ、今スッゴク軽い感じでなんかトンデモない事言わなかったの?」
ミライが大地を見つめたままボソリと呟くように聞く。
「んあ? トンデモない事って言ったって……オレはただその火陰って奴も倒すしかねーなーって言っただけd……」
「だからそれがトンデモない事だって言ってるのっ!!」
先ほどまでと同じように軽い調子で言おうとする大地。
しかしミライは大地が言い終わる前に勢い良く絶叫する。
大地はミライの強烈な勢いに気圧され驚いたようにビクッと肩を動かした。
「さっきの手紙の内容見なかったの? あの火陰って人はもし私を引き渡さなければ周りにも危害を加えるって言ってるの!」
ミライは先程無理やり決心した思いを揺らがした大地に向かって大声で叫ぶ。
それに対して大地は先程までの軽そうな調子とは打って変わり、表情が読めない無機質な顔になってじっとミライの事を見つめている。
「私は自分のせいでダイチやアオイが傷つくなんて嫌なの! もちろんそれがまだ会った事もないような誰かだとしても……それでも、私のせいで傷つく所なんて見たくないの!」
ミライは叫び続ける。
何処となく悲しそうな表情で……。
「私にはアイツは多分相当強いって事も分かるし、多分戦っても勝てないのも分かるの」
ミライが言う。
今度は静かに、ゆっくりと……。
「だとしたら……だとしたら、取る手は戦う事じゃないの……。 ……戦うんじゃなくて、私が組織に戻るのが唯一の手段なの……」
ミライの声が段々と小さくなっていく。
まるで先ほどまで気持ちの高ぶりが序々に弱まっていくのを表しているかの如く。
「違うの? ダイチ……」
ミライが小さな声で呟くように聞く。
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
再び僅かな間の沈黙が訪れる。
――それから数分後……、
「……ハァ……。 なるほど、そう言う事か……」
さっきまで真面目そうな顔でミライの事見ていた大地が、疲れたような顔で大きく溜息を吐いてそんな事を呟く。
「……おいミライ。 お前が今言いたい事は、それで全部か?」
「へ?」
大地が静かに聞く。
それに対しミライは予想外の言葉に面食らいキョトンとした顔で大地の事を見返す。
「へ?、じゃねーだろ。 お前が今言いたい事はそれで全部なのかって聞いてんだよ」
大地が多少イラついた様子で聞く。
その様子を見てミライの体がビクッ、と跳ね上がった。
「え? え、えっと……た、多分これで全部なの」
ミライが大地のイラついた様子を見て少しビクビクしながら答える。
「そうか、それで全部か……。 よぉーし、じゃあこれから今言った事全部に対する否定理由を言ってやる!」
―ドーン!―という効果音でも付きそうな程の勢いで大地はそう断言する。
大地の宣言を聞き、ミライが今度こそ本当に「何いっちゃってるんだろう?」的な感じでキョトンとする。
「よし、まず一つ目! お前を引き渡さなきゃ周囲の人間に危害を加えるって話だが……確かにそうかもしれねーけど、だからと言ってお前を渡せば必ず見逃してくれるとも限らない! そうなったら結局オレや葵達が傷つけられずに済む訳がない。
次にに二つ目! その火陰って奴がとんでもなく強いって話だが……人間完璧な奴なんか存在しない。 どんだけ強い奴だとしても多分弱点ってモンははある。 上手くそこを突く事さえできれば勝機だって必ずあるハズだ!」
大地はキョトンとしているミライを無視して言葉を続ける。
「そして三つ目! お前はお前自身が組織に戻るのが……いや、逃げたいのに諦めるのが唯一の手段だと言ったが……そんな事はない! 寧ろそんな手段は間違ってる。 そんな方法じゃ結局護れなかった事に対してオレも葵も心が傷つくし、オレや葵の心を傷つけた事に気づけばお前の心も傷つく……。 ……だから……」
大地が力強く言う。
「……だからそんな間違った手段で解決させる訳にはいかねぇ!」
大地は感情を全面に押し出して言い切る。
その様子を見てもミライは不思議そうな表情で大地の事を見つめ続ける。
……いや……不思議そうというよりは驚いたようなと言った方が合っているかもしれない。
「え、えっと……。 ……いや……その、アレだよアレ。 そんな事になったらオレの気持ちはモヤモヤしたままだろうし……。 それにもしお前が突然いなくなったらオレは葵にどういう説明すればいいか分かんねーし……」
大地が急に顔を真っ赤にして慌てたように何に対してかよく分からない言い訳のような事をし始めた。
「と、とにかくだミライ。 そう言う事だからお前は気にする必要はねぇっつう訳だ!」
大地は先ほどからアタフタしたような調子のまま言い訳を締めくくる。
どうやらミライのその疑問に思っているのか驚いているんだか良く分からない表情を見ている内に、さっき自分が言った聞き様によってはかなりこっ恥ずかしい台詞を思い出し、色々と言い訳をして少しでも羞恥心を紛らわそうとしているようだ。
その様子を見て先ほどまで良く分からない表情をして無言でキョトンとしていたミライがクスリと笑う。
「なっ……。 わ、笑うんじゃねぇ!! っつーかさっさと火陰って奴の対策を考えるぞ!!」
「ふふ、ハイハイわかったわかったなの♪」
「なの♪、じゃねぇ!! お前ゼッテー分かってねぇだろ!」
先ほどまでとは違う大地の明るい絶叫が部屋に響いた。
◇◆
――PM08:00、
大地とミライは手紙に取引き場所として指定されている市民公園の入り口に到着した。
「ふむ、時間ピッタリか……」
着いた直後、前方から冷たく低い声が聞こえる。
二人が声の聞こえた所を見ると、そこには昨日見た黒ローブの男と同じく漆黒のローブに身を包んだ2mは超えるで巨体の男がいた。
顔はローブと同じく漆黒のフードに隠れて見えない。
「よし、ここでは色々と厄介だ。 この公園の中央に移動しようと思う。ついて来て貰おうか?」
2m越えの大男……火陰はそう言うと一度軽く手招きをして来た道を戻っていく。
大地とミライはお互いに顔を見合うと頷き、無言のまま付いて行った。