82 【虹彩④】
城壁の内側に沿って街路があり同じ間隔で街の中央へ向かって大路が延びている。
天を圧する高層建築物が大路の両側に伸びている。
多くの人々がそこに生活し、活動している……
「はずだよ…ね?ね?」
獣の耳をそばだててホタルは周りを探りながら、仲間達に助けを求めるような目をした。
「少なくても、人はいるけど活動はしてないね…」
人の形をしたものは無数にあった。
笑うもの
話すもの
が、それは、その状態を切り取ったまま白い結晶の彫刻のように…そこにあった。
彼らは大路の歩道を人を避けながら、街の中央部へ向かって行った。
「あれは……」
林立する建造物の狭間から見え始めた中心部にそれはあった。
「<ミーシャ>…だな…」
鉱物性生命体飛行ユニット<ミーシャ>が、そこに船首部分から逆さまに突っ込んだ状態で地面に三分の一近く埋まっていた。
「こりゃあ……見事にめり込んでるねぇ」
眼鏡の縁に手をやって、マコは心底感心した様に嘆息した。
「あれ?ね、今通ってきたところ…紫世界のギエンに似てなかった?」
アランは振り返って、今通ってきた高層建築物の群れを見上げた。
「ってことは、あっちは?」
別の大路とともに展開した街は…青世界のヴォーグに…
「こっちは…」
彼らが足跡を残したそれぞれの世界の街がそこにあった。
「ここにも記録と記憶?」
「単にそれだけならいいんだが……」
カリュの懸念を笑い飛ばせないトーティアムは唇を噛んだ。
居心地の悪さが爪先から全身へ這い上がってくる。
今一度<ミーシャ>へ視線を移すと、マコが早速乗り込もうとしていた。そしてその後をアランとキッカが追いかけている…
カチリ
鍔鳴りがした。
カリュの斬獣刀だった。身を低くした彼女は脱兎の如く駆け出す。
一瞬彼は全ての判断力をなくして、そこに展開する光景を他人事のように傍観していた。
ホタルが霊矢の速射を始めた。
防御魔法が紡ぎだされ、マコが悲鳴と伴に宙を弾き飛ばされ、アランがそれを空中で抱きとめていた。
(俺は何をしている…)
金縛りにあったように身体はまったく動かず、その壮絶な戦闘に対する一切の感情の動きが停止していた。
はっとして自分を取り戻したとき、そこには何事もなかったように静寂と仲間たちの声が耳朶に入ってきた。
視界を<ミーシャ>へ移すと、フィルムをリフレインしたようにマコがそこへ走りより、今にもそれに取り付こうとしていた。
「マコっ!下がれ!」
咄嗟に叫んだ彼の声にマコも彼女を追いかけていたアラン、キッカも硬直したように急ブレーキをかけた。
カチリ
斬獣刀の鍔鳴りがする。
ホタルが弓を引き絞る。
間一髪で<ミーシャ>と距離を置いたマコが慌てて駆け戻り、アランが赤華剣を両手に横っ飛びする。
キッカの防御魔法のシールドに強烈な衝撃がぶつかった!
全ての霊獣、精霊を召還し、霊笛銃の銃身を迅速に換装した彼は霊光弾を連射した。
標的は…<ミーシャ>
いや<ミーシャ>だったモノ…
埋没していたそれは自力で起き上がり…飛行ユニットの形状からすでにそれは違うモノになっていた。
(どこかで…)
既視感がある。敵対するモノをどこかで…
背中全体を覆う甲羅が翼状に広がり、同時にそこから二機の飛行物体が現れた。
それはアランとカリュをそれぞれ追尾した。
<ミーシャ>本体は彼と召還獣たち、ホタル、そしてマコの爆裂瓶が対していた。
小回りが効き、銃砲とミサイルをもったそれにカリュとアランは苦戦を強いられている。
キッカは間断なく魔法の呪文を唱えている。
(野郎…ダピスマンか……)
あの白光に飲み込まれる直前まで戦っていたダピスマンの成れの果てと<ミーシャ>の融合体。
「一旦距離を!」
彼はこのままの状態は不利と判断し、距離を置くように指示を飛ばした。
「ホタル!」
「了解!」
彼女はカリュとアランを追いかける飛行物体へ強烈な霊矢をお見舞いした。
機敏にこれを避ける飛行物体。そこに隙が生まれ、二人は体制を建て直して距離をとって敵に正対した。
融合体として第四形態となったダピスマンと、左右前方に再配置された飛行物体。
(こりゃ難物だな…)
対峙したまま、じりじりっと時間は経ってゆく…
(やはり倒してゆかねばならないな…)
獣じみたばっくりと強大な顎をもつ敵…ダピスマンが雄叫びを街に響かせた。
<セヴィナ パーティー>
カシャーーーーーン
盛大な破砕音が断続的に続く。
パシャァァァァァァァン
最初こそ鏡の巨大迷路を丹念に克服しながら前進していた彼女達だったが、最初にレキーサが堪忍袋の尾を切った。
一角を召還すると、ライジングランスで鏡を破砕した。
青天井と思われた鏡の壁は、破砕されるとそのまま粉々になって崩壊するそばから塵となって微風と伴に消え去った。
「な~んだ、簡単なことじゃないか」
ソウルソードが、炎列剣が、夢幻の鎌が次々に粉砕して行く。
「この子達、気が短いわね♪」
苦笑するセヴィナも、そう言いながら光弾を飛ばして一気に数枚の壁を撃ち抜いて道を作って行った。
「セヴィナぁ~~」
面白がって相当先のほうまで進んでいたレキーサの呼び声。
「はいはい」
彼女の許まで小走りに前進する。そこには既に他の三人も到着していた。
「ここが行き止まり…かな?」
「そうみたいだね」
外壁と思われる切れ目のない長い長い鏡を調べているレキーサに代わってピカリアが答えた。
「ん~~~~」
その場に座り込んで相棒シンリィが唸っている。
「どうしたの?」
「ねぇ、どっかでこんなシチュエーションなかった?」
「ん?」
改めて彼女はどこまでも続く鏡の壁に視線を戻した。
「これはなんでしょう?」
いつもの丁寧な口調でアプラナが指差したものは、水晶かなにかでできている背丈ほどの燈火台…
「あらら」
彼女は左右へ視線を流すと、五基の燈火台を認めた。
「セヴィナ…これって?」
「あったわね、前にこんなの……」
諦めたような苦い顔をして互いを見るセヴィナ、シンリィ。
「あ、スイッチ~~~」
レキーサの嬉々とした声。
反射的に彼女のほうへ目を向けると、既に燈火台に仕込まれていた基盤をいじっているレキーサ。
「こちらにもありますわ」
「こいつにもあるね」
追いかけるようにアプラナ、ピカリア。更に不用意に燈火台のスイッチを押している。
「お、こっちにも」
別の一基にもそれを見つけて、レキーサと面白がったピカリアが更に最後の一基のスイッチも押していた。
「みんな!戦闘準備!」
セヴィナが防御魔法を最大出力で展開する。
夢幻の鎌を頭上で旋回させるシンリィ。
「「「?」」」
三人は狐につままれたような顔をする……
ズズズズズズ……
【続】




