06 【邂逅③】
この章での登場人物
男 主人公
カリュ 魔獣剣士
アラン 剣士
マコ シーフ
キッカ 白魔導士
大道芸一座 座長コウ、団員カズ
オーネの街に入ると、男とアラン達3人は一座と別れた。
この街はどちらかというと、文明という言葉には遠い印象だった。
多くの樹木と泉、建物も金属中心の無機質なものは少なく、石積みのものが大多数を占め、一部には木造建築もあった。
風は湿気が少なく、さらさらとして心地よい。
アランのポニーテールにした黒髪が風にちいさくなびく。
「いいなぁ~」
マコもキッカも髪は肩くらいなので、アランの長い髪を羨ましそうにみた。
「さて、君らはどうする?」
普段なら真っ先に答えるアランを制して、キッカが答えた。
「一緒に行く」
「え?」
「は?」
アランとマコはキッカの発言にあんぐりと口をあけて、呆然とその顔を見た。
「危険だよ」
「判ってる」
「自分の身は自分で護れるかな?」
「いままで、そうしてきた」
男の問いに、キッカがやや気色ばんで応じる。
「おそらく…今まで、君たちが体験したことがないくらいの危険が待ってる」
「いいよ。大丈夫…だよね?」
いきなりキッカはアランとマコに同意を求めた。
「ちょ、ちょっとぉ~~」
「キッカ、どうしたっていうの?」
男はちょっと考え、そして3人を誘って街の中心にある公園の、巨大な樹の下の芝生の上に座り込んだ。
彼は先刻、キッカに見せた皮袋の中身をアランとマコにも見せた。
「これってぇ…」
「白と赤の宝珠?」
「御名答」
再び皮袋に入れ、男は自分の荷物に仕舞いこむ。
「ここへ来る途中、キッカ殿にこれを見せたときは一緒に行こうかとも思ったんだが…」
「行きます!」
「いっくぅ~~!!」
「ちょっと待ってくれ」
男はチラと樹の上を見る。
青々と密集した樹の葉の影から、にじみ出る様にカリュが姿を現した。
4人の前に音もなく着地し、優雅に腰を下ろした。
「剣士のアラン殿、白魔導師のキッカ殿、シーフのマコ殿…」
ひとりひとりの顔に笑みを向ける。
「カリュと俺でも、なんとかなるかもしれないが…目的を同じくする仲間が多いに越したことはない…そう考えたんだが…」
「あそこへ行くには…ね」
カリュが男の言葉を続けた。
「貴女達を守れるか…」
「ちょっと、待って!」
「え~~~っとぉ~、あたし達は足手まとい?」
「今は、ね」
はっきり自分達の未熟を言われ、アランは腰の剣を抜き放ち、カリュに燃える瞳をぶつけた。
「カリュ…試してみなさいよ!」
「勝ったら、つれてけ…かな?」
彼女が男を見ると、彼は小さく頷いた。
「アラン、冷静に」
「やっちゃえ~~!!」
キッカとマコの声援…野次に、アランは戦闘態勢をとる。
外套から左手を出すカリュ…ドラゴングラブが、鈍く光を反射している。
「余裕かましてる気?」
瞬速で間合いを詰め、両手の剣を縦横に舞わせるアラン。
左手のドラゴングラブがことごとく剣を弾き返す。
「あっちゃ~~」
マコは両手で顔を覆った。
「こ~んなに差があっちゃ~ね~」
カリュは立ったまま、微動だにしていない。
対してアランはその周りを駆け回り、跳びまわり、それでも剣先すら届かない。
「わかったよ~~」
アランは急に座り込み、剣を手に大の字に寝転がった。
「修行してくる!!」
カリュはフードの下の艶やかな唇を笑みにかえた。
「それがいいわ」
「うん!」
男がマコとキッカに向き直った。
「ということだから、ここからは俺達だけで行くよ」
「ダメです」
キッカが即答した。
「ん?」
「ダメです。行くときは私たちと一緒にお願いします」
「俺達にも行くなと?」
「はい」
「どうしてだ?」
「だって、確率…低いんでしょ?」
「う、うん…だが、なんとかできるだろうとは…」
「効率悪い。急いではいないようだし、しばらく待っててください」
「はは…どれだけ待てばいいのかな?」
「それは……」
返答に詰まったキッカだが、瞳の力は男をたじろがせる。
「カリュ、どうする?」
助けを求める男に、彼女は肩をすくめた。
「私は貴方について行く。それだけよ」
「ははは…そうでした」
男は、ほぅっと大きく深呼吸して、にやりと笑った。
「オーケー、オーケー♪待ちましょう」
ふっと真顔に戻すと
「だが、1年以内だ」
そういって、胸ポケットから煙草を出して火をつけた。
「この赤の宝珠を、アラン殿に進呈する」
皮袋から取り出し、アランの長剣の柄にある穴にはめ込んだ。
「あ!」
「これは『世界を御する杖』の宝珠じゃない…やっぱり、アラン殿の長剣『赤華剣』の宝珠だったんだな」
「こっちのひと回り大きいのが…」
そういいながら、白い宝玉をキッカの持つ杖に嵌めた。
「と、いうことらしい」
男はそう言って笑った。
「さて、今日はゆっくり宿で休むとしよう。お互いのことは、食事のときに…な」
立ち上がった男が、3人を見下ろした。
すでにカリュの姿はそこにはなかった。
「えっとぉ…」
「ん?」
「貴方のお名前は?」
「ははは。まだ名乗ってなかったか?」
「はい」
「そりゃ失礼。俺はトレジャーハンターのトーティアム。よろしく!」
【続】
整理整頓してますが…わかりにくいところあったらご指摘を<(_ _)>