43 【攻防⑤】
ー赤世界 マンドー湖 失われた都市内部ー
長い長い通路を、4人は今走っていた。
攻撃ユニットと呼ぶ、行く手を阻むロボット群。
それを抜けると防衛ユニットととも言える、分厚いシールドを張って待ち受けていたロボット群。
マコ、アプラナ、レキーサ、ピカリアはそのことごとくを粉砕した。
湖底に沈んだ都市へ向かって走った。
通路の壁がチューブ状になり、湖の中に伸びていた。
「わぁ……」
ピカリアから思わず声が漏れる。
「あそこがこの通路の終点のようですわね」
アプラナの視線の先に、黒くのしかかる無数の建物の影。
「こんなところがあるんだ…」
なかば呆れたようにレキーサが呟いた。
ローズレッドの鎧に屈折した模様が泳ぐ。
真紅の髪をかきあげ、炎剣士アプラナの唇が動いた。
「『失われた都市』…本当のことでしたのね…」
「なにそれ?」
「この世界にもその昔、紫世界のギエン市に匹敵する近代都市があったといわれていましたの」
アプラナの秀でた額には見事なティアラ。
その中央にある宝石が湖水の揺らめきに妖しく光る。
「マコっちゃんは?」
軽騎士レキーサがきょろきょろと見渡したが、その姿が見当たらない。
「って、ピカリアちゃ~ん」
とっとと先に進んでいる年若い魔獣剣士の後姿が前方にある。
「まったく…勝手に…チームワークを考えてくださらないかしら」
腰に手を当て胸をはると、巨大な乳房がぐんっっと突き出された。
(う~~ん…あたしにはこっちのほうがシャクに障るんですけど…)
自分の胸をちらっと見て嘆息する。
「先に行ってるね」
「了解。錬金術師殿を待ちますわ」
そこへ後方から息せき切ってマコが追いついてきた。
「何をしてらっしゃったの?」
「ごめんねぇ~~防御ユニット直して来たのぉ~~♪」
「え?……時間稼ぎですの?」
「うんうん」
「行きますわよ」
「ほ~~い♪」
2人も『失われた都市』への道を走った。
「ったく~~~、面倒なことを~~」
アプルの前に鉄壁のシールドが分厚く何重にも展開されていた。
「錬金術師めぇ~~」
攻撃こそないがシールドを発生させているユニットが目の前にずらり並んでいる。
「はふぅ…もう、やだぁ!」
彼女は心底面倒になったらしい。
「わかったわよ…外で待ってるわよ……」
くるりと背を向け来た道を帰っていった。
(いつか仕返ししてあげるからね)
チラリと後方を流し目する…その瞳のなかにゆらりと凶暴な炎が一瞬揺れた……
4人の目前に死に絶えた都市が広がっていた。
湖水を通して屈折した光が都市に複雑な影を作り出した。
絶えず微妙に動く光……それに呼応し、影もゆらゆらと生き物のように動く。
「不気味ねぇ~~」
マコが眼鏡を直しながら、街路を歩き出した。
「なんか…やだな」
軽騎士もマコに同調する。
「文字通りゴーストタウンですわね」
油断無く背後へも注意を払いながら最後尾を行くアプラナ。
「それはどうかな…」
ソウルソードが発現した。
建物の影が膨張する。
「いるんだ…」
鞄から小瓶を取り出す錬金術師。
剣をひと振りして足場を固める剣士。
「突破しない?」
「え?」
むくむくと影から異形の者が生み出される。
腐りかけた体、どれも一様に死臭を放っている…
嫌な予感が彼女達の脳裏をかすめた。
「走ろう!」
マコの手から小瓶が投げられ、行く手を阻む敵を吹き飛ばした。
「GO!!」
ピカリアの号令で4人は一斉に駆け出した。
「こいつら、なによぉ~~」
彼女達に襲い掛かる敵は、倒されても倒されてもむくむくと起き上がる。
「やっ!」
レキーサのランスが異形の者の頭部にヒットした。
ごろりと頭が落ち、身体が横倒しになり動かなくなった。
「こいつら…死体かなぁ?」
走りながらマコが嫌悪感を表情に張り付かせる。
「何でも結構ですわ!ともかく振り切りませんことっ?」
「賛成!」
異形のゾンビはダメージには強いが、動きが緩慢だった。
彼女達はともかく走った。
ゾンビの群れは街中にいる。
マコの爆発物も数に限界がある。
「レッキィ!飛び道具ないの?」
同郷の軽騎士に問いかける。
「あるよ!」
「あれ撃って!」
指差された先にレキーサが霊気をこめた手裏剣を打った!
燃料缶だった。
手裏剣が打ち込まれるとそれは轟音を発して爆発した。
ゾンビが爆発と爆風に巻き込まれる。
火炎が敵を焼く。
「火葬…ね」
ピカリアが呟く。
正面に尖塔を持った、ひと際大きな建物がある。
「あそこへ入りません?」
左右へ刃を閃かせるアプラナの提案に3人がうなずく。
ギィィィィィ……
重く軋んだ扉をアプラナとレキーサが左右に開く。
ピカリア、マコが、そして扉を開けた2人が中へ飛び込んだ。
無言で今度は魔獣剣士と錬金術師が扉を硬く閉ざす。
ドォン……
建物の中は静寂そのもの。
4人は息を整えるために足を止めて、あえてゆっくりと深く呼吸をして息を整えた。
「どうなっちゃってるんだか」
レキーサは窓際に身体を寄せて外を覗き見た。
「どう?」
反対側に陣取ったピカリア。
「動きが止まった…みたいね…」
無数のゾンビは凍ったようにその場に立ちすくんでいる。
アプラナは建物の中を調べ始めている。
マコはマコで床に小瓶を並べている。
「調合?」
「そぉ~だよぉ~♪」
「あたしはできないなぁ」
「レッキィはコウヤ地方の生まれだよね?」
「わかる?」
「そりゃわかるよぉ。橙世界で錬金術使わないのはあの地方だけじゃない?」
「そうなんだよねぇ…」
しみじみしているレキーサをマコは見上げて微笑んだ。
「同じ世界出身ですのに違いますの?」
赤世界の剣士が反応した。
「橙世界って、錬金術が特性じゃなかった?」
紫世界の少女も顔をあげた。
「前から不思議でしたのよ?」
付き合いの長い彼女が重ねた。
橙世界の2人は視線を合わせて苦笑した。
「橙世界でも、コウヤ地方にいる一族だけが武闘派なんだよ…」
レキーサもマコの横に座り、ランスを抱えた。
「伝説の軽騎士ミーシャの一族なんだよ…あたし達は…」
弾かれたように彼女の顔を見るピカリアに微笑みかける。
「元々は赤世界の住人だったみたいなんだけど、剣よりこっちに秀でた一族だったらしいわ」
ランスを愛しそうに撫でた。
「あの『扉崩壊』のちょっと前に、橙世界へ移住したみたいなんだよね」
「へぇ~いろいろですわね」
「そゆこと♪」
マコが小瓶をベルトと腰の鞄に仕舞いだした。
「準備完了?」
「おっけぇ~♪」
同郷同士、いつの間にか2人に通い合うものが生まれていた。
「ここは…なんだろうね?」
ピカリアはぐるっと改めて自分達がいる場所に視線をさまよわせた。
「ホール…ですわね」
剣の先を向けた方向に扉とそれに繋がる柱。
ゆるやかな曲線を描いた大階段が頭上と足下へ伸びていた。
「どういたします?」
「上?下?」
アプラナとピカリアが階段を見た。
「どうする?」
レキーサの問いにマコがニパッと笑う。
「上っ!」
即答の彼女に3人が何故かうなずいた。
「たまには…ね」
「だねぇ…いっつも地下に潜ってたからね」
「同感」
一拍おいて4人は顔を見合わせて爆笑した。
【続】
軽戦士ミーシャ…描きたいなぁ…まだ先だなぁ(笑)