42 【攻防④】
ー赤世界 マンドー湖ー
「こんなところに隠し通路とは…」
「恐れ入りましたわ」
「よくわかったわね?」
ピカリア、アプラナ、レキーサは先頭を歩くマコに最大級の賛辞を投げていた。
「いえいえ~~♪大体さぁ~~こういうシチュエーションだとぉ、滝の裏側に入口があるってぇ、お約束だしぃ~」
マコは手に持った蛍光瓶と同じものを3人にも渡した。
「あんた、用意いいわね」
同じ橙世界出身とはいえ、錬金術そのものに造詣のないレキーサは心底感心していた。
「はいですぅ♪」
灯が確保されるとピカリアがすっと先頭に立った。
洞窟…というよりは、古い回廊に岩石やら鍾乳石が付着した…そんな通路。
そここに苔や樹木の根っこが這っている。
アプラナが最後尾に回る。
レキーサ、マコの順で前進する。
「ちょっち待ってね」
そういってマコが立ち止まり、なにやらその辺を機敏に走り回った。
「トラップ?!」
「うんうん」
「なんで?」
「ついてくるからぁ、御挨拶ぅ~~」
「あいつが?」
「うんうん」
アプラナも呆気に取られている。
手際よくトラップが仕掛けらて行く。
「おいおい…いったいいくつ仕掛けたんだ?」
澄まして歩き出したマコにレキーサが囁く。
「ん~~っと7つかな?」
「げっ!死ぬな……」
「たぶん、ダメだなぁ。時間稼ぎくらいかなぁ」
「そうなのか?」
「怪我でもしてくれるとぉ、助かるんだけどねぇ♪」
「♪って……わたしよりおっかないかも…」
前を歩くピカリアのソウルソードが発現した。
反射的にレキーサが走る。
マコが新たな小瓶を腰の鞄から指に挟む。
ソウルソードの残像が闇を斬る。
落ちた発光瓶が敵の姿をおぼろに浮きあがらせる。
「何?鬼じゃないよね?」
レキーサがランスで敵を突く!
カーーーーーン
景気の良い金属音が反響した。
「金属っ!」
レキーサが瞬時に攻撃パターンを突きから横殴りに切り替えた。
「攻撃ユニットだぁ~~」
マコが小瓶を投げる。
小爆発が攻撃ユニットを破壊する。
「シェルターの守りはこれだと思ったけど、やっぱりねぇ~~♪」
今日のマコは冴えわたっている!
アプラナもマコが爆発で作った隙に、斬り込んで行く。
「あれって、何ぃ~~??」
「攻撃ユニットぉ~~!機械仕掛けの攻撃莫迦ぁ~」
ピカリアに答えながら、今度は親指の先ほどの赤い丸薬のようなものを投げつけた。
攻撃ユニットに当たると外殻が割れ煙を発した。
すると…
敵は一時停止した後、めちゃくちゃに動き回った挙句、関節部分から火花を発して完全停止した。
直撃しなかったものも、煙に巻かれると動きが止まる。
「もう大丈夫~~♪」
「なんですの?」
「あれってね、有機・無機を問わず認識外の動体を攻撃する仕組みなの」
マコは停止した攻撃ユニットの銃座を短剣で取り外した。
ピカリア、レキーサ、アプラナはそれぞれの武器で殴り、蹴倒した。
「なによ、これ!」
アプルは急ブレーキでトラップの前に停止した。
「また…随分なトラップだこと♪」
彼女はじっとその場で最初のトラップを外しにかかった。
ー橙世界 シェルター中層域ー
壮大な規模の円筒形の吹き抜け…天井も最下層の床もまったく見えない。
トーティアムとホタルが乗って来た球形のエレベーターは、各層のにある発着ステップのひとつに停止していた。
「凄いな…」
「うん……」
息を飲む2人。
壁面には通路がぐるりと各層ごとに取り付けられていた。
「各層を行き来する手段はこのエレベーターしかないのかもしれないな…」
通路を歩きながら、壁面に出入口がないかを確認していた。
「お、扉だ」
彼が扉横の点滅するボタンを押すと、難なく扉が左右に割れた。
「中に入ってみよう」
「は~い」
足を踏み入れると自動的に灯りが点灯し、2人は一瞬目が眩んだ。
「痛っ!!」
トーティアムが肩を押さえた。
「トーティ!!」
「構うなっ!気をつけろっ!!来るぞ!」
彼女は弓を回転させて飛来するものを次々はね返した。
傷ついた彼を庇い、ホタルは果敢に前に出た。
正面の壁に銃眼があり、そこから短い光の矢が射出されている。
トーティアムが霊笛銃を短銃身に換装し、銃眼に照準を定めてひとつずつこれを潰して行く。
その間に彼は更にいくつかの浅い傷を受けていた。
攻撃が沈黙した。
「ホタル、大丈夫か?」
「それはこっちの台詞だしぃ」
「まぁ、な」
数十箇所の浅い傷。初撃で喰らった肩は貫通していた。
「油断するなよ」
「うん」
自分で手当てしている彼を尻目に、ホタルはじわりと前進する。
「下がれ!!」
彼の絶叫に彼女はびくりと身を退いた。
天井から光のカーテンが落ちてきた。
彼女の矢壷から落ちた矢がすっぱりと分断されていた。
「こりゃたまらん罠だな」
背後の扉は固く閉ざされている。
「出口…なくなっちゃったよ…」
ホタルの声に怯えが混じる。
痛みによるうめきが彼から漏れる。
傷の手当てを彼女が代わる。
「酷い……」
かすり傷と思っていたものも、傷口は擦過傷になっており意外に鋭利にすっぱりと切れている。
「こういう傷が一番痛いな」
強がる彼にホタルは苦笑する。
「全部手当てしてたら、きりがない。その辺でいいぞ」
「ダメ!」
座り込んだ彼に、四つんばいになって彼女はにじり寄った。
「お、おい…」
彼女は小さな傷をひとつずつぺろぺろと舐め始めた。
青世界の半獣人の唾液はひとのそれよりも殺菌効果が高い。
腕、腿、横腹……
顔に出来た細かな傷もぺろぺろとひとつ残らず舐めてゆく。
(痛みが和らいできた…)
彼は天井を瞳だけ動かして見る。
細いスリットがそこに穿たれている。
その奥にキラリと何かが光を反射している。
(なるほど…)
「どう?」
「ありがとう。痛みが引いたよ」
「よかった」
胸の前で細い指を組み合わせて、にっこりと安堵の笑みを見せるホタル。
笑顔でうなずくトーティアム。
「さて…」
彼はひとつの弾丸を床に置く。
「我が使役する契約者セレン、我の求めに応じて現れよ…」
水の召還獣セレンが現れた。
彼の指差した天井のスリットの下にセレンが進む。
光のカーテンがセレンを切断すべく落ちてきた…が、水の精霊のセレンは全く意に介さずその場に立っていた。
ふわりとセレンの両手の人差し指が天井へむけられる。
パパパパパパパッ!!!
セレンの指先から噴出した水流の針が、スリット内に仕込まれたカーテンの発射レンズを一気に粉砕した。
「セレン、感謝」
彼がそういうとセレンは弾丸へ微笑みを残して吸い込まれた。
正面の壁、銃眼のあった場所がせり上がり口を開いた。
その奥に続く通路の床が点灯している。
「前進できそうだね?」
「歩ける?」
「お陰で自分で手当てしたとこより、ホタルに舐めてもらったところのほうが痛みが少ないよ」
「よかった♪」
それでもホタルは彼の手を取って立たせ、肩を貸す仕草をした。
「ありがたいが…」
「あっ、そうだね。いきなりに対応できないね」
「そう言う事だね」
2人は部屋を後にした。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
「どっちも嫌だなぁ…」
左肩の貫通創がズキズキと脈打っていた。
通路の先行きには、明らかに何かが群れている…
【続】