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39 【攻防①】

賑やかな酒場に彼らはいた。

一番奥まったテーブルに陣取っている。

店の中の客も従業員も彼等には近寄ろうとはしない。

真ん中にモーリン、左右にダピスマンとアプルが控えている。

紫世界の首都ギエン。

大世界で最も人口が多く、出入の多い都。

ここにいる者達は誰しもひと癖ありそうな連中。

そいつらが本能的にモーリン達を恐れ、好んで近寄ろうともしない。


「どうするか…な」


モーリンは酒の入ったグラスを傾ける。

眠りから醒め、皇女ヒナの力で大世界にやってきたはいいが、戻れないという状況に頭初は愕然とした。

しかし自分達の目的…この大世界の崩壊…を最優先に行動することを決定した。

彼らはトーティアムの覚醒、宝珠・宝玉の出現と『親衛隊の後裔』の発現を確信する。

モーリン等は彼等の行動を阻むべく動き出した。


「だが…王宮へ戻れなければ、最終目的は達成できん」

「といって、奴らが宝珠宝玉を揃えてしまっては厄介…と」


ダピスマンも酒をあおった。


「でも揃わなくっちゃ鍵にならないんでしょ?」


カクテルらしいピンク色の液体が入ったグラスを指先でつつく。

その姿をチラリと視界の隅に入れつつモーリンが断をくだす。


「やはり…奴らが王宮への入口を開くのを待つとするか…」

「そうする?」

「奴らは…まだ集まったばかりだ」

「だから?」


ダピスマンの片頬に皮肉な表情を見せる。


「結束力…そこが前よりは…だな」

「な~るほどぉ♪」


アプルは楽しそうにコロコロと笑う。


「じゃあ、とりあえずあいつらを観察ってことね?」

「そうだ」

「でもぉ…宝探ししてる間に仲良くなっちゃうんじゃない?」

「それでも…だ」

「いいのぉ?」


小首をかしげる彼女にモーリンはにやりとする。


「ただ見てるだけ…というのも退屈だ」

「どっちにしてもトーティアムが要…かな?」

「とは思うが、少しは探りを入れるのも良しだな」


ダピスマンに近寄り何事か囁く酒場の女。

小さくうなずき、女に金を渡す。


「どうした?」

「3組に分かれたようです」

「ほう…」

「赤世界、白世界、橙世界にトーティアムはいます」


ダピスマンの報告。


「よかろう…トーティアムは俺が行こう。赤世界はアプルに頼む」

「またぁ?」

「もう慣れただろう?」

「そりゃ、ねぇ」

「ダピスマンは白世界の連中を頼む」


モーリンの指示にダピスマンはうなずく。


「宝珠、宝玉…1個でもいい、奪えれば奪っておけ」

「人質…かなぁ?」

「そうだ」


3人はグラスの中身を飲み干すと、ゆっくりと酒場を出た。

外に出た途端……彼等の姿は既にそこになかった。





ー橙世界 ガルシアン高原ー



「この辺だが…」


トーティアムは丈の高い草を薙ぎ払いつつ、付近を探索する。

カリュ、キッカ、ホタルも散開して目ぼしいものはないかと探し出した。

広大な草原には瘤のような岩がポツンポツンと生えている……


「ふむ………」


空はあくまで青く澄んでいる。

プレートを手にブツブツとなにか口ずさむトーティアム。


「トーティ…」


カリュが近寄ってきた。


「来る……」


周囲の気配がざわめく。

ホタルが片膝をつき弓を水平に構え矢をつがえる。

霊笛銃の銃身を決め、彼女の背後に備えた。

キッカも駆け寄って防御魔法を展開する。

彼の脇に立った、カリュのドラゴングラブが陽の光を反射した。



グヴァオオオオ



くぐもった咆哮をあげて、四足の中型爬虫類ー恐竜ーが突進してきた。

眉間に起立した角は異様に長く鋭い。

硬質の皮膚というより金属に近い、どぎどぎした光を発している。

ホタルの威嚇射撃。

恐竜はものともせずに更に加速して向かってくる。

霊笛銃から霊光弾が射出された。

同時にカリュが跳躍した。

ホタルの矢は威力を増し、恐竜へ殺到する。

カリュの右手の太刀が角を狙う。



ガィィィン



太刀が弾かれカリュがそのまま身をひねって反転する。

ドラゴングラブの凶悪な爪が恐竜の首筋へ!

ホタルの矢が霊光を発して恐竜の片方の眼球へ突き立った。

再び鈍い叫びを響かせた。

更に明らかな苦悶の吼え声を撒き散らす。

カリュの爪が恐竜の首にズブズブと埋め込まれ、その背に足を踏ん張る。

頭を激しく振り、身体をゆすり、迷走してカリュを振り落とそうともがく恐竜。

さすがの名弓手も狙いが定まらずにその場でじっと弦を張ったままでいる。

キッカの呪文がカリュの力を増幅させる。


「楽に、してあげるわ…」


唇をにっと微笑ませ、恐竜の背に乗ったカリュは爪を引き抜き、飛び降りざま太刀を舞わせた。



地響きと伴に恐竜はその場に崩れる。


「ん?」


トーティアムがきょろきょろと視線を動かした。

霊笛銃を仕舞ってプレートを手にした。

不意に彼が光になった。


「わっ!みんな!早く来るんだ!!」


彼のあわてた声に一番近くにいたホタルが反応した。

2人が一層強くなった虹色の光にからめとられ……消えた……


「あ!」

「むっ!!」


一歩遅れたキッカとカリュの足元にプレートが転がっていた。

キッカが拾い上げる。

再び発光するプレート。


「ここが入口!!」

「みたいね」


彼女達は赤色の光の中に没してその場から消えた。



草原に生えたいくつかの岩。

その中の岩と岩を互いに線で結んで、何本も出来たその線が交差し囲んだ場所が出来ていた。

その配置は2種類の模様を描いていた。

トーティアムとホタルが立った場所と、カリュとキッカが消えた場所は……隣り合った違う模様の中心地だった。



【続】

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