30 【相棒①】
明日(2024/9/25)更新は、通院のためできそうにありません。
なので、本日2度目の更新<(_ _)>
-赤世界遺跡 第四層-
マコとキッカは全身汗にまみれていた。
「ちょっとぉ~~なんで、こんなに…あっついのぉぉぉぉ!!!!」
「マコ…貴女の叫び声のほうが暑苦しいわ」
キッカの呟きに似たツッコミにマコがのけぞった。
「せやけど、暑すぎやなぁ…」
「うふっww」
「マコ…いやな笑いせんといてや」
「だってぇ~~暑いんでしょ?」
「せやから、なんやっちゅうの?」
「そのふさふさの…刈り取ってあげちゃおうかなぁ~~なんて」
「あかん!」
ほうっと溜息をついたキッカが、杖でマコとマウロの頭を小突いた。
キッカは小さく口の中で呪文を唱え、氷結魔法を自分達の頭の上に放った。
キラキラと氷の結晶が出来た…途端に蒸発した
「やたっ、って、なんでぇ~~~」
「暑すぎるんやな…」
仕方なくとりあえず防御魔法で自分達のダメージを軽減しつつ、ともかくも前へ、下へ進んだ。
「あれ?」
第五層へ降り始めると、徐々に気温が下がってきたようだった。
「助かったぁ~~~~~」
「のかな?」
大袈裟に嘆息したキッカが前方を杖で指し示した。
「いるんだねぇ…」
「おるんやな」
体格こそ彼女らの1.5倍ほどだが、真っ赤な体色に白く長い髪を振り乱し、眉間に角を生やした鬼がそこにいた。
キッカが防御魔法を展開し、マコが起爆性の液体の入った小瓶を立て続けに投げた。
あっさり鬼は断末魔の叫びをあげ霧消した。
「ざっとこんなもんね♪」
マコが得意げに胸をはる。
「マコ…」
キッカがいかにもげんなりした表情でマコの背後を見ている。
「ここは質より量やねんな」
「やぁ~~ん!!」
わらわらと鬼が周囲に現れ、倒しても倒してもその囲みは薄くならなかった。
「どないなっとんねん!」
マウロが噛み付き爪でひっかくだけで鬼は倒れる。
マコの小瓶は底を尽いたが、短剣の浅い傷でも鬼は霧消する。
さすがのキッカも呪文を紡ぐ暇もなくなり、杖を振り回す始末……
「きりがないしぃぃぃぃぃ~~~~~!!!!!」
マコの悲鳴が木霊した。
-隠し通路 第三層-
トーティアムとアランは火炎神獣イフリアンのいたドームを抜ける。
順調に仕掛けを解いて第三層へ下りていた。
「魔方陣だな……」
三層はだだっぴろい円形の部屋の中央の床に、これまた巨大な魔方陣が描かれていた。
その中心に光が浮いていた。
拳ほどの大きさの橙色の球体が放つ光だった。
「橙の宝玉……」
「なの?」
「おそらくな」
アランは勇んで走り出した……
ご~~ん
「いったぁぁぁぁぁぁ~~い」
勢いのついていたアランが、魔方陣の外周に張ってあった魔力の見えない壁に激突し……盛大に弾き飛ばされた。
飛んできた彼女をトーティアムがナイスキャッチしたが、彼女の額に……
「見事なたんこぶだな…ぷぷ」
彼は横をむいて…それでもこらえきれずに吹き出していた。
「ぐあっ!」
その彼の右足に、アランの靴のかかとが…きっちりめりこんでいた。
「笑わないっ!」
「すまん……」
彼の目ににじむ涙は笑いのものか、痛みのそれか……
しばらく2人は魔方陣をにらみながら、痛みの引くのを座って待っていた。
魔方陣は中央の宝玉のある中心円、その外側に文様の描かれた3つの円で出来ていた。
「どうするの?」
「魔方陣の文様を見てる」
「それで何かわかるの?」
「ああ。どういう効果の魔法かがわかれば、解除魔法の呪文で無効にできる」
「なるほどぉ」
アランの大袈裟な納得顔に、彼は微笑する。
周囲を歩き、文様をメモって行く。
「どう?」
「キッカかセヴィナがいたら良かったんだがな…」
「トーティじゃ、駄目なの?」
「俺も万能じゃないからな」
彼は背負っている荷物の中から小さな本を出した。
「それは?」
「魔法の本だよ」
「そっか…」
彼が本をめくりだすと、アランは手持ち無沙汰で、再び魔方陣の周囲を歩き始めた。
(?)
ふっと違和感というか、物足りなさを感じた。
トーティアムを見ると眉間に皺をよせて難しい顔で本を読んでいる。
(これと…あっちが対…だよね…)
外周の文様は11個。
文様は対極に描かれているが、一箇所だけ欠けている。
彼女はその場所に立ち、おそるおそる魔方陣へ手を伸ばした。
(あ……)
覚悟を決めて一歩踏み出した。
するとなんの抵抗も無く、最外郭に踏み込めた。
顔の前で腕で防御しつつ、そのまま前に……
(なんだかなぁ…)
彼女は外郭に入り込んでいた。
同じ要領で次の円へ、そして中心円の外側まで問題なく進んだ。
ふとトーティアムを見ると、彼はいまだ本に熱中している。
(えへっwwこのまま宝玉ゲットしちゃえ)
彼女はいたずらっ子のように、にやりとすると中心円への入口をさがした。
中心円の円周に5個の文様…
同じ法則を使って、中心円に入る。
(へっへ~~~)
宝玉へ手を伸ばしたとき、彼女の背に悪寒が走った。
「!」
ぐわぁ~~ん
身体に妙な震動と浮遊感を感じた。
「う、浮いてる?!」
見るとトーティアムが仰天した表情で彼女を見詰め、その姿が徐々に下へ……
魔方陣を描いている線が発光し、彼女の身体が中心円…いまでは球体だが…の中で宝玉を持ったまま浮いていた。
「いつのまにっ!!」
浮き上がった魔方陣が球体になって行く。
「まずい!」
彼が魔笛銃を出したとき、最外郭が収縮した。
「このままだと、アランが…」
彼はイフリアンを召還した。
次の円周まで急激に収縮した!!
「ちょ、ちょっと!もしかして…縮んでる??」
外からイフリアンの超高度の灼熱炎で球体の外殻が覆われていた。
「暑いっ!!ってか熱いぃぃぃぃっ!!」
中心球の外側まで収縮した。
トーティアムはセレンを召還し真っ赤に焼けた球体に冷却水を浴びせた。
同時に彼は本を片手に呪文を紡ぐ。
球体が最後の収縮を!!
「いやあぁぁぁぁぁ!!!!」
アランの絶叫が第三層に広がる……
「………」
思わず目を閉じた彼女がおそるおそる目を開けると、そこに苦笑したトーティアムが立っていた。
両手で握りしめた橙の宝玉がある。
「お疲れ様」
彼がアランに微笑む。
「どう…なってるの?」
「魔方陣は無効になったよ」
「??」
「というか、3Dホログラムだ」
「え?」
「どうやらこの遺跡は、『扉崩壊』前の軍事基地かシェルターみたいだ」
「どういうこと?」
「要は外部からの侵入者に対して精神的打撃を与える防御システムを持っている…そんな感じだな」
「じゃ、あれって幻影?」
「いや、あのままだとアランは潰れてたよ」
「え?」
「俺達の認識力に直接働きかける仕組みみたいだ。だから、物理的にはなにも起っていないが、俺達はそれを現実として認識している」
「??」
「認識する…ということは、俺達の経験から『そうなる』ことなんだ」
彼は言いたいことがきちんと伝えられずにもどかしげな顔をした。
もっとも…アランはもっとわからない顔をしていたが……
「ともかく認識している以上、物理的になにもなくても…アランは潰されたと思った瞬間に潰れる」
彼女は自分の手足を見る。
「そうなる直前に原因を破壊できたから大丈夫」
「よくわかんないな……」
「困った防御システムだってことさ」
アランの頭をぽんぽんと軽く叩いて、彼は宝玉を受け取り背の荷物に入れた。
「さぁ、マコとキッカだ。彼女達も苦労してるぞ」
「は~~い」
【続】
認識の概念