03 【根源②】
ギエンの街は背の高い建物は少ないが、巨大な敷地を持つものが多い。
区画は整理されていて、移動艇からでも、この市街地が碁盤の目のようになってるのがわかる。
移動艇が観光客用の宿泊施設街に到着した。
「大世界…か」
アランが空を見上げると、白い月が天にあった。
「キッカ…」
「うん」
「来ちゃったね」
「うん…」
ちらと月を見るキッカに、わざわざマコが白い月を指差す。
「キッカの世界が、あ~んなに小さいよぉ~」
「そう…ね」
キッカが歯切れ悪く応じる。
アランが2人を呼んだ。
「ここに泊まろう!」
3人は中でも小さめのホテルに入っていった。
ギエンの街は大世界で一番大きな規模をもっている。
中央に大世界の全ての政治機能を集めた『議事堂』『世界堂』がある。
それを取り囲むように『市場』やら『遊戯施設』などなどが建っていた。
市街地に隣接する四つの居住区画があり、工業施設や産業区画も更に外周に点在している。
「なんだって、こんな砂漠の真ん中に…」
ギエンは巨大な砂漠の真ん中にある。
アランはホテルの部屋のバルコニーから遠望できる砂漠を見ていた。
「なにもないから」
キッカが相変わらずの調子で、疑問に答えた。
「そっか…」
「先の戦争の教訓かなぁ?」
「軍事基地の成れの果て」
「あ、なるほどぉ~~」
マコは呑気に構えている。
3人は『市場』へ出かけた。
「いよいよだからね。準備はしっかりしとかなきゃね」
アランは腕にはめた、小型端末をいじりながら歩いている。
「ここにあるとは限らない…」
「ま、なけりゃ、残るは青の世界だけだし」
「そだねぇ~~」
3人はどうやら探し物をしているらしかった。
ひと通りの買い物を済ませた頃、マコの姿が2人の側から消えていた。
「あ~~!またどっかにいちゃったよ」
アランは頬をふくらませながら、周囲を見渡す。
ひとでごったがえした『市場』で、ひとりを探すのはかなり難易度が高い。
「キッカ、どうする?」
「置いてく」
「って、そういうわけにもいかないじゃない」
アランは女性にしてはそこそこの身長だが、キッカは小柄。
完全にひとごみに埋没する。
「どこいった~~!」
アランはげんなりした様子で、重い荷物持って歩き回った。
『市場』の片隅に小さな輪が出来ている。
大道芸の一座が軽業を披露していた。
「ちょっと…」
アランはその輪を通り過ぎようとしていたキッカの袖を引っ張った。
「あそこにいるよ」
「……ほっとこ」
「あれって才能かなぁ」
一座の面々と絶妙のタイミングで一緒に芸を披露しているマコを発見した。
苦笑しつつひと段落つくまで2人はその場に立っていた。
「もぅ…マコったら…」
「ごめんねぇ~~」
「置いてくよ」
「わぁ~~ん、キッカちゃん、そんなこと言わないでよぅ~~」
呆れるアランに、そっぽを向くキッカ。
「でもぉ~~、ちょっとは良い事あるんだよぉ~」
「言わなくていい」
間髪入れずにキッカがマコの発言を却下した。
「そんなこといわないのぉ~~」
と、ちょっと得意げな表情をつくるマコに、アランが興味を持った。
マコはそれを目聡く見つけると、悪戯っぽく笑う。
「へっへ~~~。あのねぇ~あの一座の人たちとぉ~一緒に旅する約束したのぉ~~」
彼女の言葉に敏感に反応したのはキッカだった。
「ふ~ん…なるほど」
「でしょ~~」
「たまには役に立つね」
「キッカちゃぁ~~ん」
辛辣なキッカに甘えるような声でのんびり屋のマコ。
「いつ出発なの?」
アランが笑みを見せて割って入った。
「3日後よん♪」
「了解っ」
「わかった」
アランは再び荷物を担いだ。
「この世界は街を出るとかなり危険らしいから、旅なれた一座と一緒は気が楽だわ」
「うん。魔獣剣士団…それに下等妖魔も多いから、無用な戦闘は避けられるのは助かる」
キッカが小さな笑みを見せる。
「でしょでしょ~~ww」
自慢げに胸を張るマコに、アランとキッカも楽しげな笑顔を見せた。
「けど、魔獣剣士団…って一体どんな連中なんだろ」
アランがシャワーで汗を流し、タオルを巻いたままの格好でベッドに座った。
「種の根源は、大世界は全てひとつ……」
キッカが洗いたての髪を乾かしながら答えた。
「他の世界から来た神が、大世界に種を植えた…か」
「そう言われてる」
「ひとの根源が同じってのはわかるんだ。青の世界の住人だって、見かけは半獣人みたいだけど基本的にはひとだもんね」
「うん…先の世界間戦争で喪失したっていわれてる『扉』と『緑の世界』…神の降臨に関係あると思う」
「あら?伝説じゃないの?」
「ワームホールを利用した『扉』は…今の大世界の技術では考えられないから…」
「でも神の作ったものでしょ?」
「神って誰?」
「うん…そだよね。種を植える…生命の種を蒔く…」
「妖魔と呼ばれるモンスターや、獣魔・奇獣…独特の進化をしている生命に、私たちひと……」
「それぞれの世界の住人の特殊能力や専業職も…ある意味不自然だよね…」
「五つの世界の中心に『緑の世界』があることで、調和が生まれる…」
「だからぁ、あたし達がさがしてるんでしょお~~」
そこへ最後にシャワーに入っていたマコが、裸のまま話に加わった。
「もう…なにか着なさいよ」
「いいじゃなぁ~い♪」
キッカが真新しいタオルをマコに投げた。
「ありがとぉ~」
わしわしとタオルで髪の水気を取って、身体にタオルを巻いて床に座り込んだ。
「ここまでぇ、あたし達がぁ、一緒に探してるもの…」
「うん」
「種の根源……の謎」
そこで3人がにっと笑いあう。
「「「な~~んてね♪」」」
神、降臨し、種を植える
生命の種を蒔き、緑の世界にその中心を据える。
赤き世界には戦士を
白き世界には魔術を
橙の世界には技術を
紫の世界に魔を封じ
青の世界に獣を封ず
大世界を照らす金の光を集め
大世界を統べる金剛の王冠に宿し
君臨する者に下賜するものなり
【続】