24 【前史⑩】
【大世界-争乱勃発-】
「これから話すことで、ほとんど全てになるよ…」
朝食を終えると彼は皆を促して外へ出た。
「狙われないかな?」
「もう来ないだろう…奇襲で一度失敗したらそれまでだからな」
キッカの危惧に笑顔で答えた。
「それにセヴィナたちも合流したから、それだけ奴らにとって敵の数が増えたってことだからな」
朝の陽光に彼は眩しげに目を細めた。
あの日…
カーナを病院に託すことに、わずかだが不安を感じた。
(あの連中…黒の使者が出てきたということは……)
トーティアムはこれから先の困難に戦慄した。
(本当に時間が…なくなってきた、らしいな…)
彼は…全てを思い出した。
しかしそれは呪縛をかけられたあの日までこと…
宝珠、宝玉の行方の全てが彼に分っているわけではない。
(ま、およそのことは想像できる)
「トーティ」
カリュが彼を呼ぶ。
「ああ、すまん」
彼は彼女に応え、皆に応えた。
「黒の使者は再び姿を現した。その背後に世界連合の軍隊を連れて…な」
「!」
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緑色惑星をどうやって脱出したのかはわからない。
黒の使者は連合主席のカブキ市長の背後に現れ、皇女にしたように彼をも洗脳し傀儡とする。
「王宮は許さないだろう…袂を分ったわれらを攻撃してくると考えた方が自然だろう」
市長は主張した。
鉱物性生命体飛行ユニットが集められる。
赤世界からは将兵を、白世界からも橙世界からも青世界からも多くの人士が集められ軍団が作られる。
「あ・い・つ・らぁ~~」
カーナは紫世界に放っていた黒の使者捜索隊からの報告でこのことを知る。
王宮は文字通り蜂の巣を突いた騒ぎになった。
「どう思いますか?」
ヒナは親衛隊を集めた。
「同士討ちさせて破滅させるってことかな?」
青の拳闘士が髪をぐしゃぐしゃとかきまわしながら吐き出す。
「でも、王宮軍団は強力だわ…結束も…」
橙の軽騎士が応じる。
「それは、ちょっと問題があるかもね」
白魔導師が首をひねる。
「私達の実家が将軍らしいし…」
カーナが眉をひそめ、もうひとりの赤の剣士も腕組みをした。
「兵士の士気に微妙に影響するだろうな…」
トーティアムが口をへの字に曲げた。
「本当にそれだけでしょうか?」
皇女は微笑すら見せながらそう言うと、お茶を口にした。
「奴らの目的はこの大世界の崩壊。その為にどうしてもしなくてはならないことは……」
彼は静かに微笑んでいる皇女を見直す。
こくりとうなずく皇女。
「ここへ戻ってくる…皇女陛下を奪いに……」
「と思います」
世界連合の飛行ユニット軍と王宮の飛行ユニット艦隊が激突した。
泥沼の戦いが戦端を開いた。
数ヶ月の戦いは数年に及んだ。
戦局は連合優位に展開する。
とはいえ、これまで君臨してきた王宮に対して決定的な攻撃をするには至らず…
さりとて停戦、終戦の道も未だ見えず…
「まぁ、こちらから停戦の提案をしても、連合主席があれじゃあねぇ」
カーナが苦笑いするように、何度もの停戦の使者を王宮は紫世界へ送っていた。
が、黒の使者に操られている連合主席は言を左右にして受け付けない。
「いよいよかな……」
連合が遂に決定的な攻略戦を決断したようだった。
王宮軍は人的な補給がままならない。
対する連合軍は各世界に人は多い。
王宮軍最強といわれた艦隊が、連合軍艦隊からの最新兵器攻撃で大打撃を受ける。
その勢いのまま、連合軍は一気に緑色惑星への着陸作戦に着手した。
王宮軍は各所で各個撃破され、残すは王都だけとなる。
「陥落…しますか?」
ヒナは王宮の尖塔から王都の周囲に展開しつつある敵軍の様子を見た。
「いえ、おそらく攻めては来ないでしょう…」
「そう?」
「はい。ここに女王家の墳墓がある限り、大世界の者がここを犯すことはできません」
「操られていても?」
「それは連合主席だけですから」
「成る程」
「とはいえ、奴らが戻ってくるでしょうね」
「ふぅ…それは、困りましたね」
「黙ってここへ…皇女陛下の御前に通すつもりはありません」
「…………」
皇女は長いまつげを伏せる。
「トーティ」
「はい」
「地下の墓室へ行きます」
「!」
「最悪の事態だけは想定しておいたほうが良さそうです」
髪が微風になびく。
「貴方方を信じています。ですが最悪の想定はせねばなりません」
「御立派です」
皇女ヒナはトーティアムを従えて、あの地下墓室へ入り祭壇へ昇った。
王都が完全に包囲されたその夕刻-
王宮玉座前にトーティアムが立っている。
彼の前に8人の親衛隊がいる。
「以上が作戦だ」
彼の戦術を聞いた8人は静かにうなずいた。
「だが、できれば、最終段階に入る前に始末をしたい」
「勿論ね」
【続】
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