02 【根源①】
本編スタートです♪
深紅をその身にまとった少女が、長い髪先を触りながらため息をついた。
「どうにも変な感じだわ」
苦笑しつつ、彼女は大型モニターに映し出された外界を見た。
「仕方ない…これしかないんだから」
隣に腰かけている少女が、ぶっきらぼうに、その手の中にある小型端末を操作する手を止めずに答えた。
「まぁ~~ねぇ~~…アランちゃんの言うこともわかるわぁ」
ゆるい語調で、ドリンクとライトフードを手にちゃちゃをいれたのは眼鏡をした娘だ。
「生き物の腹の中に入って移動するなんて…」
アランと呼ばれた彼女は、顔にかかる髪をかき上げ、周囲を見渡した。
「生き物…とちょっと違う…」
依然目は端末に注いだまま、少女は小首をかしげた。
「う~~ん…金属生命体はぁ…生き物っちゃ生き物だよねぇ」
「マコ…金属…でもない…」
「ぶぅ~~」
少女のツッコミは的確にマコの急所にヒットした。
「貴女は大雑把すぎる…」
「キッカちゃんが細かすぎるのよぉ」
「……」
頬を目一杯ふくらませてのマコの抗議は、キッカには全く無視された。
「はいはい。そこまでね」
アランが二人の間に立った。
キッカは端末から視線をアランへ移した。
「にしても…」
というアランの言葉をキッカが引き継いだ。
「不思議?」
「うん」
「こういうものだもの…」
「そうなんだけどね…」
「世界間航行船……鉱物性飛行生命ユニット。この5つの世界を繋ぐ唯一の交通手段」
「うん…普通の生き物とは違うけど、でも命があるってことは確かよね?」
キッカは小さくうなずいた。
全体にきつめの顔立ちだが、アランを見上げる目は真摯で、知的な光がともっている。
眼鏡の奥の大きく、やや目尻の下がった瞳は好奇心の塊…マコはくいっと眼鏡をあげる。
「むか~しむかしは、世界間は扉で繋がってたって聞いたけどぉ?」
「人為的なワームホール制御がされていたらしい…あくまで伝説」
キッカがマコの疑問を斬って捨てる。
「こうやって自分達の住んでる世界を見るっていうのも、不思議な感じだわ」
感慨深い調子でアランは大型モニターを見た。
青い星、橙の星、赤い星、白い星、紫の星…そしてその外周を金色に燃える星が周回している。
5つの星々にはそれぞれにひとが住み、文化がある。
金色の燃える星には生命は存在していない…らしい。
これらを総称してひとは『大世界』と言っている。
星と星は、今アラン達が乗っている鉱物性飛行生命ユニットによって、月に1回程度行き来できる。
「むか~しむかしは、もうひとつ世界があったんだよねぇ~~」
「世界間戦争で消えたのよね…」
今度はアランが答えた。
小さな沈黙が3人の間に流れた。
「ねぇ、ちょっとラウンジ行ってご飯たべよっ」
アランが2人を誘いながら、部屋を出た。
穏やかな曲が流れる中、3人は食事を摂り終えた。
「あれぇ?」
おでこに右手をかざし、マコが広いラウンジの奥を見詰めた。
「喧嘩…かなぁ」
「マコ、関わらないのよ」
アランが好奇心満々のマコを嗜めた。
とそのとき、光の矢がアランの持ったグラスを粉砕した。
「!」
瞬間、アランの姿がテーブルから消えている。
「関わらないんじゃなかったのかなぁ」
「もう遅い…」
「行こうかぁ」
「うん」
マコとキッカがアランを追った。
ラウンジの奥で、人垣が出来ている。
その中で黒いマントの男と革製の鎧を着た半獣人が数名ずつ入り乱れていた。
マントの男たちは手から光の剣を発し、半獣人たちは金属製の分厚い太刀を振り回していた。
罵声と怒号と咆哮が一層激しくなろうとしたそのとき、真紅の影が飛び込んできた。
「いい加減にしなさいっ!」
アランは腰の剣をかざして叫んだ。
「小娘!邪魔だ!」
「下がっていろ!」
マント男も半獣人も既に分別は失せていた。
人垣を分けて、マコとキッカがアランの背後に立つ。
「楽しく旅をしましょ~しょぉ」
マコのいでたちは動きやすそうだが、ちょっと露出が多めのオレンジの上着と短いパンツ。
眼鏡がキラリと光る。
マント男達も半獣人達も、自分達の過ちには気づいていた。
が、勢いで乱闘になり、しかし仲裁に入ってきたのが小娘3人。
ここで止めると、どうにも自分達の恥をさらけ出す…
そんなどうでもいい心理が彼らを支配したようだった。
「ダメだね」
白と緑のコントラストが映える、ゆったりした服のキッカが冷静に呟く。
その呟きに点火したマント男達と半獣人達が、3人に殺到した。
真紅の鎧を身に纏ったアランが小さく溜息し、つと動いた。
手にした細身の剣が閃光を放つたびに、正面のマント男と半獣人が倒れてゆく。
マコが躍り出ると、たちまち右手の連中が呻きつつ膝を着いた。
キッカが手にした長い杖を無造作に払うと、左手の連中が硬直した。
「終了!」
「お~わりぃ~」
「……」
3人は呆然としている人垣を別けて、ラウンジをそのまま後にした。
「……」
「アランったらぁ~、気が短いんだからぁ~」
「ごめんねマコちん、キッカちゃん」
部屋に戻ると、手を合わせて2人に平謝りのアランである。
『間もなく紫の世界に到着いたします』
飛行ユニットのガイド音声が、スピーカーを通して3人に告げた。
「着いた。終ったことはもういい」
「そうだよぉ~」
キッカとマコが気分を変える。
「ありがと」
アランが照れくさそうに笑う。
「いつものことだし…」
「うぐっ!」
キッカが止めを刺した。
紫色に発光した星が徐々に大きく…近づいてくる。
アラン、マコ、キッカの3人が降り立った紫の世界。
鉱物性飛行生命ユニットの発着場は、この世界で一番大きなギエンの街の郊外にあった。
3人は発着場から移動艇で街に入った。
「ふわぁ~~~~~」
マコの素っ頓狂な声に、アランが苦笑する。
「マコ…思いっきりおのぼりさんだよ」
「だってぇ~~。こ~~んな大きな街は初めてだしぃ」
いつもよりちょっとだけテンポの早くなった口調から、彼女が興奮しているのがわかった。
……アランもひとのことは言えた義理ではなかったが…
「大世界で、一番大きな街…」
ぽつんとキッカが呟く。
【続】