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19 【前史⑤】

【大世界-黒の使者-】



-橙世界 ガルシアン高原-



青世界に4人を置いて、トーティアムとカリュは橙世界に来ていた。


「ここからなんだよなぁ…」


彼は清涼な風が渡る高原に立って呟く。


「そうね。何度目かな…ここ来るの」

「そういうなよ。確かにここに…あれがあるはずなんだ」

「わかってる。信じてるよ」

「ありがと」


2人は陽光と雲が高原の上につくる模様の中にいた。

ひとときも、二度と同じものは描かれない模様……不思議な感慨に耽っていた。

彼の腕にはめられた端末腕輪が、無粋な呼出音を叫ぶ。


「はは…マコだよ」

「どうしたのかしら?」


うん、とうなずきながら、彼は端末を操作する。


「どうしたんだい?」

『アランの修行が終ったよぉ~~』

「へぇ~~、まだ半年だぜ?」

『でも、免許かいで~~んww』

「そか」

『まだみんな、青世界かな?』

「俺とカリュは橙世界にいる。キッカたちはまだ青世界だよ」

『ありゃ、また別行動なんだ』

「前に話したとおり、仲間が出来たしな」

『そっか♪で、あたし達どうしましょ?』

「こっちへ来るか?」

『いいの?』

「ああ。手がかりはあるんだが、手詰まりでね…」

『りょ~か~い』

「ガルシアン高原でキャンプしているよ」

『は~~い』


端末の操作を終えると、彼は再び高原を一望する。


「準備しましょ」

「はいよ」


2人はここへ来るといつも設営する場所にテントを張った。



-赤世界 ゴフク村-



「アラン…橙世界だって」

「そう……」


マスターの葬儀と埋葬を村人とともに済ませて3日。

まだアランのショックは癒えない。


「行かないの?」

「行くよ……」


アランの放心した表情にマウロが頬ずりする。

ぺろぺろと舐めると、アランの口元に笑みが生まれた。


「ありがとうね」


顔に表情が生まれた彼女を見て、マコも嬉しそうに笑顔を見せてマウロの頭を撫でた。



翌朝。


「ね、寄って行っていいかな?」

「あ、おばあちゃんのところね?」

「うん」


不老病という不治の病…原因はわからない。

彼女は故郷に帰ってはじめて見舞いに行く気になった。

忘れていたわけではない…

それでも修行を完成するまで、祖母の顔は見ないと決めていた。

病院の一室に祖母は静かな寝息をたてて横たわっていた。


「おばあさま…」


マコとマウロは遠慮して病院の庭にいた。

アランは祖母のベッド脇にある椅子に腰を下ろし、いつまでも歳をとらない寝顔を見詰めた。


「追いついちゃうぞ…おばあちゃん」


ぽそりと呟く彼女の頭の中に、誰かの声が届いた。


「?」


きょろきょろとあたりを見たが、個室であるここに他人がいる気配は…ない。


『アラン…というのね?』

「え?」

『追いつかないわよ…もう100年近くこのままなんだから…』

「お、おばあ…ちゃん?」

『そうよ。やっと声が届いたわ』

「話せるの?」

『深層意識はずっと覚醒しているわ。でも肉体は老いず、声も届かない…』


アランは他界した当時の母親と同じくらいの若さのまま眠っている祖母を見る。

祖母の目尻から一筋涙が流れた。


「!」

『ごめんなさいね。なんだか嬉しくてね…』


アランは祖母の手を握った。


『外…連れて行ってもらえるかしら?』

「うん」


彼女は車椅子を病院に借りると、祖母を移して庭に出た。


『マコちゃんとマウロちゃんね?』

「うん」


相槌を不意についたアランに、マコは盛大にハテナを顔に表した。


『マコちゃん…こんにちわ』

「!」


突然の挨拶に、マコはやはりきょろきょろと周囲を見る。


『やはり聞こえるのね…』

「わっ!」


声の主がアランの祖母とわかって彼女は派手に仰天した。


『あらあら~、驚かせてごめんなさい』


まん丸の目を更に丸くした彼女だったが、次には面白そうに祖母の顔を見た。


「起きてるんですか?」

『いいえ…肉体も年齢も止まっているわ』

「じゃあ?」


アランが説明すると、マコは素直に納得した。


『2人とも私の手を握ってくださる?』


そっと両側から祖母の手を握る2人。

祖母の深層意識下にあった記憶であろう…2人の頭の中にイメージが奔流のように流れ込んできた。

王宮から追放された金色の戦士トーティアムと9人の親衛隊は、筆頭大臣の追撃を予想して緑世界から早々に立ち去った。

それぞれが故郷に戻って隠棲する。



だが…この世界に故郷をもたないトーティアムは、各世界をあてもなく放浪した。



5人の来訪者は残った白魔導師と筆頭大臣の推挙で皇女の身近に仕えた。


「白魔導師殿」

「なんでしょう…大臣」

「あの者たちのことだが」

「はい…」

「いささか見誤ったやもしれぬ」

「危険な者達です…」

「が、皇女陛下は我々以上の信頼を…」

「ええ…赤の剣士を呼びました」

「なっ!」

「彼女だけしか来てはくれませんでした…金色の戦士は行方知れず…」

「ふん…よく来たものだ…」

「感謝…してます」

「で、どうするのだ?」

「赤の剣士にあの者たちを斬らせます」


大臣の目が見開かれる。


「で、捕らえて殺すか?」


彼の目元に狡猾な光がさした。


「そうはいかないんだな♪」

「!」


赤の剣士は彼らの背後に音もなく現れ、美しい花びらのような唇は皮肉な笑みを浮かべていた。

その顔は…まさにアランの祖母だった!


「おばあちゃん!」

「おばあちゃん?」


驚きと疑問で2人は混乱した。


『そうよ。あ・た・し』


いたずらっぽくそう言う祖母。


『私はアランの本当のおばあちゃんではでないのよ。名誉の騎士家?…ぱっとしないネーミングだけど…の創始者みたいなものよ』

「え?え?」

『アランと血縁はあるけど、私は子供を生まなかったから…』

「じゃあ…」

『そう…世界争乱の直前にこうなって、騎士家が代々、こうして面倒見てくれていたのよ…』

「そんな…」

『この不老病はね、呪縛なの』

「呪縛?」

『そう…黒の使者の、ね』


アランとマコは顔を見合わせた。


「黒の使者…」

『そうよ…異邦から漂流してきた5人の使者…皇女陛下を狂わせた憎き奴ら』

「狂わせた?」

『そうよ。そして間もなく訪れる世界崩壊を導く者たち…』

「!」


風が夜気を運んできた。

アランは祖母を病室へ連れ、翌日から『世界争乱』の物語を聞くことになる。


「とんでもないわね…」


病院近くの宿でアランは溜息をついた。

あまりに急な展開…あの日、トーティアムと会ったあの時から、止まっていた歯車が動き出したのか…

マウロが彼女の身体に駆け上がり、肩に乗って頬を寄せる。


「うん、大丈夫」


やってきたマコとマウロににこりと微笑んだ。

とびっきりの明るい笑顔だった。






【続】


こんな長い文章を、当時の俺はほぼ2日ごとに更新してたんだよな…


よーやるわwww


若かったねぇ(笑)

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