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12 【萌芽④】

-青世界、カブキの森、廃宮殿地下第2層-



廃宮殿に隠された地下迷路。

トーティアム、カリュ、キッカ、ホタルの4人はその謎を解いてここまで下りてきた。

そして彼らを尾行してきた、ママン・セヴィナ、シンリィの2人と、地下通路の出口で鉢合わせした。


「狙いはやはり、青の宝珠と宝玉か?」


トーティアムの問いかけに、セヴィナはにっこりと微笑んだ。

地下通路を出ると、そこは霧氷と霧に包まれた白の世界だった。

彼らはとりあえず目前の一本道を前進した。


「貴方についてゆけば手っ取り早いから♪」


セヴィナはしっとりと落ち着いた声で答えた。


「ふむ……」

「あら?違ったかしら?」

「いや、違わないさ。まさしく俺達は、まだ見つかっていない青の宝珠と宝玉を、ここに探しにきたんだ」

「でしょ♪」


白い歯を、唇の間にちらと見せて微笑む彼女。


「あれの価値がわかるのか?」


トーティアムの言葉に、セヴィナはきゅっと口角を引き締めた。


「そう…ね。貴方ほどではないかもしれないわね」


時折行く手に現れるモンスターは、カリュが、ホタルが、シンリィがことごとく倒してゆく。


「経験つんで、随分強くなってきたな」


トーティアムはその姿を背後から頼もしげに見つめている。


「相変わらず保護者ね」

「ん~~~、あまり喜べない評価だな」

「そう?」


彼の顔を覗き込むセヴィナに、彼は口元に微苦笑を浮かべた。




「ここで分かれ道か…」


立ち止まったカリュ、ホタル、シンリィ、キッカに歩み寄りながら、トーティアムがうなった。

右は上り坂、左は下り坂。


「どうするの?」


カリュがトーティアムを振り返る。


「ちょっと休憩しよう」


彼は荷物を降ろし、道の脇に座った。

それを囲むように5人も腰を降ろした。


「あの…」

「ん?なんだい、キッカ」

「宝珠と宝玉…を持つものが緑世界への扉を開く…」

「うん」

「赤、白、青、橙、紫…それぞれの宝珠と宝玉」

「あぁ」

不意にトーティアムはセヴィなの杖を取る。


「どういう偶然なのか…それとも必然なのか…『世界を御する杖』と『世界を統べる杖』がここにある」


彼は杖を返す。


「俺が10年近く探して見つからなかった宝具が、次々現れる…」


空を見上げたが、そこには当然空はない。

ただ吸い込まれるような真っ白い霧が、深く深く、厚く厚く視界を覆っていた。

彼は改めてそこに居る5人を見た。




白世界のキッカとママン・セヴィナ

青世界のホタルとシンリィ

紫世界のカリュ

そして…



赤世界のアラン

橙世界のマコ



「何を考えてるの?」


カリュがトーティアムの耳元で囁く。


「世界の扉が開く?」

「だけなのか…それとも、あの壁画のように世界が崩壊するのか…」

「預言者…」

「ああ」


ホタルとシンリィが、ひそひそと囁きあう2人に割り込む。


「なんの話しかなぁ~~?」

「世界の扉ってなんですか?」

カリュが悪戯っぽく笑う。

トーティアムは苦い顔をする。


「いろいろ話すことは…確かにあるんだけど、アランとマコが戻ってからにしようと思うんだが?」


彼はそう言って立ち上がった。


「セヴィナ、シンリィ」

「はい?」

「な~に?」

「君達も…他人事じゃないと思う」

「そうなの?」

「そうかもね♪」

「シンリィは相変わらず勘がいいな」

「まぁ~ね~~」


セヴィナもおぼろげながら、なんとなくは判っている。


「ともかく、宝具に装着する宝珠と、杖にはめ込む宝玉をそろえよう」

「賛成!」


シンリィが元気よく挙手をする。

カリュはじめ、その場にいるものが賛意を示した。


「そういえばね」

「ん?」

「私達も仲間が増えてるのよ」


セヴィナが思い出したように話し出した。


「赤世界のアプラナっていう剣士と、橙世界のレキーサっていう拳闘士」

「ほう…今どこに?」

「今は……紫世界…かな?」

「彼女を探してるのか?」

「ええ、そう」

ぴくりとカリュの眉があがる。

「どうするつもりだ?」

「だって…」

「まぁな…あいつが持ってるのも宝具だからな」


深い溜息をついたトーティアム。

珍しく硬い表情をしているカリュの指に、自分の指を絡め、きゅっと瞬間、力をこめて……離した。

キッカがその様子を視界の隅でとらえ、すぐに目を逸らした。



この分岐で彼らはトーティアムとセヴィナをリーダーに2組に分かれた。


「キッカは俺と来てくれ」

「はいっ」

「ホタルはセヴィナと一緒で、今回は頼む」

「は~~い」


頑張って元気よく答えたものの、やや心中複雑そうだ。


「端末が使えないから、うまく落ち合えないかもしれないが、ともかく前進してみよう」

「そうね」

「連絡方法はどうするかな…」

「なるようになるでしょ」


どうもセヴィナは楽観的に出来ているらしい…


「なにかあったら引き返す、しかないな」

「ええ」

「では、行くか」


右の上り坂をトーティアムチームが、左をセヴィナチームが進んだ。




上り坂は長くは続かなかった。


「どうする?」


道は坂の頂点ですっぱりと切り落とされたような崖になっていた。

周囲を見渡したトーティアムは、巨木の根が、道のように螺旋に伸びているのを発見した。


「どう思う?」


彼は背後の2人に確認した。


「道…と思っていいと思います」


キッカが手で押して確認した。

巨木の根は人が3人、余裕で並んで歩けるほどの幅がある。


「しっかりしたものだわ」


カリュが根に飛び乗った。


「あ!」


キッカの唇から小さな声が出た。

微動だにしない。


「大丈夫よ」


にこりと笑みを見せるカリュ。


「おいおい、無茶するなよ」

「こういうのはあたしの役目よ」

「さんきゅ」


2人をあえて見ないようにキッカが続いた。

トーティアムが根に乗ると、3人は歩みだした。

大きな螺旋状に巻いたそれは、崖下の霧の中へ続いている。

カリュ、キッカ、トーティアムの順で根の螺旋を進んで行く。


「!」


キッカが獰猛な気配に気づき、防御魔法を詠唱する。


「また…あいつね」


実態があやふやで、宙に浮いている透明の雷獣だった。

カリュは呟くと、ドラゴングラブを二度、三度握り直す。

ちらと目線を流し、トーティアムを見る。

彼の視線が彼女の視線をとらえ、にこりと微笑む。

瞬間、魔笛銃の引鉄が引かれ、銃口から霊力の波動が発せられ雷獣に命中する。

雷獣の幻影のようなその全身が、現実のものとして定着した。


「はっ!」


カリュの気合が左手のドラゴングラブに霊気を宿す!



さしゅっ!!



グラブの爪が雷獣の体表を鋭利に裂く。

カリュはそのままの勢いで身体をぐるりと回転させると、右手に持った太刀を水平に薙いだ!


「以上♪」


それは霧消した。


「この先もモンスターが出てきそうね」

「そりゃそうだろう」


更に進むと、雷獣が頻繁に現れた。


「いままでのボスモンスターがこの谷の雑魚みたいね」

「先が思いやられるな」

「大丈夫よ。キッカがいるから」


彼女はずっと無言のキッカの肩に手をかける。


「そうだな」

「え?」


カリュとトーティアムの顔を見上げると、2人の笑顔が向けられている。


「あ、えっと…頑張る」


それだけ言うと、キッカは照れくさそうに下を向いた。



やがて…根の道の終点に着いた…らしい。

霧は谷の途中から薄くなってきていた。


「おっと!」


終点…といえるだろうか?

谷の底は湖面だった。

周囲をぐるりと切り立った崖がそびえている。


「何か来るわ…」


カリュが戦闘姿勢をとった。

水面がさわさわと波立ち始めた。

湖面の中央が色濃くなり、盛り上がる!


「出るぞっ!!」


トーティアムが魔笛銃の銃身を、長いものから銃口の広いものに取り替えた。

湖面が大きく波立ち、盛り上がりが割れる。

呆然とするキッカの背を叩き正気づかせると、彼は魔笛銃に詠唱と伴に自らの霊気を送り込んだ。


「あれって!!」


キッカが防御魔法を展開すると同時に叫んだ。


「ほっほぉ~~♪水の魔獣、セイレンだな」


トーティアムは何故か楽しそうにそう応えた。


「カリュ!」

「わかってるわ…召還士様」


そのやりとりにキッカが驚きの声をあげる。


「召還士?!」


トーティアムはにっと笑うと、魔笛銃を発射させた。

霊気の弾丸は風船のように大きく膨れ、セイレンを包み込んだ。


「ふぅぅぅぅぅぅぅ……」


カリュが気を練っている。


「わっ!」


キッカはまたも驚きの声を発した。

カリュの右腕にはまっている金属の腕環が、彼女の腕と同化して行く。

持った太刀ごと腕輪が彼女の右腕を飲みこみ、筋肉の様にがっしりとした。

その間もトーティアムは魔笛銃を連続して発射し、セイレンの動きを封じている。

カリュが背を丸め、次いで咆哮に似た嬌声を発する。

と、彼女の身体にぴったりとしていた漆黒の鎧が、彼女の身体を包み込む。


「はあぁぁぁぁぁぁ!!!!」


カリュの気が頂点に達すると、彼女の背から黒い羽根が開いた!



ばさっ



黒い羽根が羽ばたき、カリュの足が地から離れた。


「いくわ」


そう言い捨てると、カリュは一気に速度をあげてセイレンめがけて飛翔した。

動きを封じられたセイレンは荒れ狂っていた。

そこへ、カリュは全く躊躇せずに突進する。

ドラゴングラブの鋭い爪と、腕と一体となった太刀を、軽々と、縦横に振るう。


「あ…綺麗…」


キッカは、澱みなく流れるようにセイレンに攻撃するカリュに見入った。


「舞っているようだろ?」

「はい…」

「大分、本気モードだよ」

「そうなんだ…」


やがてセイレンの動きが鈍くなる。


「そろそろだな」


トーティアムは長い詠唱に入った。

カリュが挑発するようにセイレンに攻撃を加える。

じわじわとカリュとセイレンが、トーティアムとキッカのいる場所に近づいてきた。


「水を司る聖なる者、セイレンよ。我が命に従い、我と伴にあれ!」


魔笛銃の銃口をセイレンに向け、トーティアムは詠唱を締めくくる。



くうぉおおおおお



セイレンの啼き声は谷を木霊し、崖を這い上がり、のしかかる濃い霧を祓った。

銃口から霊気の弾丸が尾を引いてセイレンへ飛ぶ!

弾丸はセイレンをその尾で縛りあげる。


「我とととにあれっ!!」


トーティアムの再度の声に



くうぉおおおおおおおん



セイレンが応える。

がんじがらめになったまま、トーティアムの霊気に身を委ねるセイレン。

そのまま、魔笛銃の中へ吸い込まれてゆく。

カリュが戻ってきた。

はっとしてキッカが彼女をみると、既に元の姿に戻っていた。



カチッ



トーティアムは魔笛銃の弾奏から一発の弾丸を取り、手のひらに乗せた。


「それ、が、セイレン?」

「そうだよ」

「これで貴方の召還獣になったの?」

「ああ」


彼はセイレンの弾丸を大事そうにしまう。


「カリュ、ありがとう」

「あ、あれ!!」


キッカが湖面を指差した。

水面が小さく泡立ち、そして……消えた。

湖底だった所に石の扉が姿を見せた。


「これからが本番かもな」

「楽しみね♪」

「もういい…わ」


三人三様の表情で、湖底だったところへ降りていった。





【続】


召喚獣出ました(笑)


挿絵(By みてみん)

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