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11 【萌芽③】

-青世界、カブキの森の廃宮殿-



「こりゃ、完璧なダンジョンだよ」


トーティアムがぼやくのも無理はない。

廃宮殿に入ったときは、建物内をしらみつぶしに捜索することも出来たし、現れるモンスターもさほど強くはなかった。


「宮殿の中はもう探すところないわ…」


カリュもお手上げの状態で、4人は一旦宮殿大広間へ集合した。


「だが、古くからの言伝えってのは、結構的を得てるもんだぜ」

「そうね…なにか見落としがあるかもしれないわ」


キッカが高い球面上の天井を見上げた。


「?」

「どうしたの?」


キッカの視線が戸惑ったように天井に釘付けになったとき、ホタルがそう尋ねつつ彼女の視線を追った。


「!」


ホタルもキッカと同様に視線が一点で止まり、瞳が見開かれた。

トーティアム、カリュが同時に天井を見ると、彼はにやりと笑った。


「なるほどな…」


彼は広間の中央に仰向けに寝転び、天井に描かれた絵をじっと見詰めた。

大世界星域図…自分たちが生きているすべての世界が精密に描かれている。

カリュが彼の脇に座り、キッカとホタルも腰を下ろした。


「ふんふん…」


彼はカリュが渡した紙に何か描いている。


「キッカ、この中で端末は動くかな?」


腕にはめた小型端末を見ると、先ほどまで出ていた作動不能の文字が…消えていた。


「動きます!」

「ホタル」

「はい」

「これから俺の言うとおりに、矢を撃ってくれ」

「は~い」


紙に描いた何かをキッカに指し示すと、彼女が端末を操作する。


「最初は赤世界」

「はい!」


ホタルが天井に向けて矢を放った。

続けてトーティアムの指示通りに5本の矢を天井の星に命中させる。



ごごごごご……



どこかで鈍い重厚な音がする。

彼らは地を這う震動を感じた。

カリュが身体を起こしたトーティアムに、目配せする。


「頼む」


短くそう応えると、カリュが広間を出て行った。

キッカ、ホタル、トーティアムの順で後に続く。


「あっ!」


キッカが小さく警戒をこめて、声をあげた。

カリュが廊下の途中で大刀とドラゴングラブとで戦闘態勢をとっていた。

その廊下は何度行き来したかもわからないくらい、お馴染みの場所だったが…明らかに様子は一変していた。

カリュの姿勢が低くなってゆく。

ホタルが矢をつがえ、前方へ真っ直ぐに狙いを定めた。

キッカの防御魔法の詠唱が、静かな廊下に満ちる。

トーティアムは、魔笛銃の銃身を長いものに取替え、後方への注意も怠らない。

ホタルの持つ弓が満月に引き絞られた。

カリュがふっと小さく息を吐いた。

キッカの魔法がカリュに届く


「!」


渾身の一矢が放たれ、姿勢を低くしたカリュの頭上すれすれに疾走する。

彼らの身体に、一瞬、重力がのしかかるや、廊下の向こう側にぽっかりと暗闇が現れた。

矢が闇に飲まれた直後、轟音に近い生臭い咆哮が、彼らに浴びせられた!

カリュが矢を追うように、一直線に闇に跳ぶ。

キッカとトーティアムがそれを追い、ホタルが第二射を放つと、闇へ向かって走った。



ぎゃうぅぅぅ



闇に4人が突入した直後、彼らの眼前に影が現れ、次いで影から



ぐしゃ!



っという音と、半弧に煌く太刀筋。

更に黄金色の光の軌道が横なぎにされる。


「行く!」


短くトーティアムが叫ぶ。

間髪入れずに、魔笛銃から霊気の弾丸が発射された。

闇が静寂に支配される。





ぽぽ



ぽぽぽ…



闇に揺れる灯が浮かび上がる。

4人の目が慣れてくるに従い、そこが人工的に作られたであろう通路になっていることがわかった。


「こりゃ、凄いな…」


縦横に灯がともっている。

カリュの足元に中型のモンスターが骸となっていた。



そこからどれくらいの時間を、彼らはさまよったことか…

トーティアムは改めて溜息を盛大について、座り込んだ。


「キッカ」

「はい」

「端末は?」

「ダメです」

「やっぱり、そうか…」


カリュが大刀を鞘に収め、彼の肩に手を置いた。

彼女の顔を振り仰ぐように、彼は顔をあげた。

小さく微笑む彼女に、彼は苦笑いを見せる。


「ああ、ここまで来たら、腰すえて正しい道を探すしかないな」

「そうね」

「なら、ちょいと休もうか?」

「ええ…」


カリュはほとんど表情が変わっていないが、ホタルとキッカは明らかに疲労が全身を覆っていた。


「さ~んせ~」

「同意です」


2人の声がほっとした響きを滲ませて帰ってきた。

交代で仮眠をとる間にも、散発的にモンスターが彼らを襲ってきた。


「宮殿内のよりは、ちょっと強くなった」


カリュが数匹目のモンスターを屠ったとき、そう呟いた。


「しかし、手こずるような敵でもないな」


トーティアムは魔笛銃を闇に向けて発射すると、着弾点あたりでモンスターの悲鳴があがった。

かなりの疲労が4人の身体から去った頃、遠くで人の叫び声が木霊した。


「!」

「?」


キッカとホタルが顔を見合わせる。


「トーティ」

「あ、あっちを忘れてたな」

「どうする?」

「ほってはおけないだろう?」

「そう?」


トーティアムは身軽に立ち上がると、カリュとともに駆け出した。


「キッカ、ホタルはそこ動かないでくれよ~~」

「は~い」


声を頼りにダンジョンを走る。

不意に明るい場所に飛び込んだ。


「こりゃあ…」


彼は眼前に広がる、小さな池と霧氷が取り付いたような木々、乳白色の靄の立ち込めた光景に目を奪われた。


「トーティ…」


カリュに声をかけられ、我に返る。

魔笛銃を握りなおし、周囲の気配を探った。

カリュが一瞬早くそれを感知し動く。




「ママ~~ン!こいつ、つ~~よ~~い~~~!!」


シンリィの俊敏な身のこなしから発撃される、巨大な鎌の刃がモンスターに突き刺さった。

が、それはなんの手ごたえもなく、すり抜ける。


「困ったわねぇ」


ママン・セヴィナは防御魔法を展開しつつ、モンスターを凝視した。


「実態が希薄だわね」

「なにそれ~~!!」

「どうにか、実態を固定できればいいんだけど…」


と、宙に浮かび、半透明で形状はふわふわとしたモンスターの中心に青白い光が走った!


「逃げて!」


セヴィナの叫びに、反応するシンリィ。

だが、モンスターから発せられた雷撃がシンリィに直撃した!

セヴィナの防御魔法で守られたシンリィが雷撃を受け止めた瞬間、魔法が爆裂した。


「きゃあああああ!!!」


弾き飛ばされたシンリィが、巨木の根元に倒れていた。


「シンリィ!!」


セヴィナが駆け寄る。

モンスターは勝ち誇ったように、半透明な身体を小刻みに震わせた。


「笑ってるの?こいつ!!」


セヴィナがきっと睨みつける。

再びモンスターの雷撃が準備された。

セヴィナの詠唱が始まる。


(間に合わない!!)


必死で早口で詠唱するセヴィナをあざ笑うように、雷撃が発射された!

セヴィナとシンリィが目をつぶった!



どぅんっ!!



重低音が響く


(あれ?)


セヴィナが片目をあけた。

黒い鎧の背が見えた。

巨大な太刀が雷撃を切り裂いていた。


(詠唱…)


彼女の真横にトーティアムがいた。


「一緒に頼む」


彼の小さなひと言。

彼女が反射的に呪文を詠唱する。



「「はっっっ」」



トーティアムとセヴィナから同時に魔法が跳び、モンスターの身体が急に現実のものとなった。


「カリュ!」

「シンリィ~~!!」


2人の声より早く、シンリィの鎌が弧を描いてモンスターを襲う。



ずん!



大ダメージを受けたモンスターが宙から落ちる。

カリュの鋭利な爪が突き刺さり、引き抜くと同時に太刀を一閃した。

モンスターは……最後のひと声さえあげられず、そのまま霧消した。



「大丈夫か?」

「余計な…」

「お世話か?」

「う…」


セヴィナとシンリィはトーティアムの顔を見れずに、下を見ていた。


「まぁ、いいや。おかげでこっちも、新しい道が見つかったしな」

「そうよ!感謝してよね」


シンリィの負けん気の強い言葉が投げられたとき、彼らの背後からホタルの声がした。


「シンリィ!」


ぴくっと反応した彼女は、照れ笑いを見せながら、ホタルに向き直った。


「なるほど、そういう関係なんだな」


トーティアムは興味深そうにホタル達を見比べた。

カリュが彼の肩をつついた。


「ん?」


カリュがキッカとセヴィナ視線を送った。


「お嬢様…」

「セヴィナ…こんなところにいたの…」


2人も見詰め合い、セヴィナは決まり悪げな表情をしていた。


「どうやらここにいる6人は、みんな知り合いみたいだな」


ぐるりと他の…特にホタルとシンリィ、キッカとセヴィナを見た。


「提案なんだが…ここは広いし、複雑だ。一緒に行かないか?」


彼の提案に、セヴィナとシンリィは仕方なく頷いた。



【続】

シンリィ=姉、ホタル=妹

キッカ=主筋、ママン・セヴィナ=家臣

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