10 【萌芽②】
本日2本目
-赤世界 ダミエ山脈-
マウロの道案内で、ブレイドマスターの許に無事たどり着いたアランとマコ。
その日から、アランの修行が始まった。
ブレイドマスターはダミエ山脈の中腹にある集落近くに生活していた。
「戻ったか?」
「はい」
「未熟を悟ったか…?」
マスターにばっさりとやられて、アランは下を向いた。
「お前はせっかちだからな…まぁ、今のままでも、人にはそうそう引けはとらんだろうがな」
彼は背に負った剣を鞘ごと外し、腰に差した。
「そっちのお嬢ちゃんは…どうする?」
不意にマコは視線を移され、ぶつけられた闘気に思わず爆破ポーションを手にした。
「反応は早いな」
「いえいえぇ~~」
にっこりと応対したマコだが、
(こわぁ~~~!こんな人がいるんだわぁ…)
と、内心では盛大に冷や汗をかいている。
にやりと笑ったマスターから、闘気が消えた。
「橙世界か?」
「はぁ~い」
「単なる付き添いか?」
「あ、あたし?う~~ん、あたしは集落戻ってるね」
「そうしてくれると有り難い」
「でしょ?」
応じるマコに、彼は付け加えた。
「あの村には医者がいない。アランが仕上がるまで、村長に紹介するからお願いできないか?」
「医者~~??」
「ま、健康と自然だけが取柄の村だから医者要らずなんだが…しかし設備は一応あるはずだから、いろいろ役にはたつだろ?」
「そういうことならぁ~~」
「そういうことだ。よろしく頼む…」
と、彼は肩に飛び乗ったマウロに何事か耳打ちした。
「キュイ!」
と応える。
そしてアランの目を見た。
「マウロに着いて行け。あとから俺も行く」
「はい!」
早速マウロがアランの肩にちょこんと乗る。
彼女の唇から安堵の吐息が小さく洩れ、大きな瞳に強い意志がきらきらと光った。
その背中に、マスターがひと言投げた。
「アプラナは『四方伝』をマスターしたぞ」
「!」
ぴくりと反応したアランだが、振り向かない。
「お前は何を望む?」
マスターの問いかけに、そのままの姿勢で彼女は言い放った。
「『六覇聖奥義』!」
「死ぬぞ…」
「1年で修得して見せます」
「大きく出たな……」
ちらとマコを視界の隅にいれると、彼女は彼を必死の目で見上げていた。
(本気か……単なる思い付きではないようだな…)
彼は薄く笑みを口元に浮かべた。
「いいだろう」
振り向いたアランは満ちたりた笑顔。
薄いピンク色の唇に、決意の微笑みが刻まれている。
(いい顔だ。素質は充分…今度はやれるか?)
彼の力強い頷きを見たアラン。
彼女はしっかりと赤の世界の大地を踏んで、前を見る。
肩から降りた道案内のマウロを追った。
「あのぉ~~」
アランの後姿が見えなくなると、マコがマスターの裾を引いた。
「ん?おお…そうだったな」
「っていうかぁ…アプラナって?」
「あぁ、アランの姉妹弟子だ」
「強いの?」
「強いな。この流派は『初伝』の後、まずは『轟火伝』『極氷伝』『求雷伝』『宝水伝』『真魔伝』の中破5伝がある」
マスターは続ける
「その後『四方伝』を会得して一応の免許皆伝となる」
「うわぁ!」
「そして…」
ブレイドマスターは青空に浮かぶ白い太陽を、目の上に手をかざして見上げた。
(『六覇聖奥義』は一子相伝の奥義……)
言葉を切ったマスターを、マコはわくわくした表情で見ている。
「ははは…1年とは大きく出たものだ」
彼の言葉にマコはしれっと応えた。
「えへへ……半年で出来たりしてぇ」
「!」
虚をつかれ、びっくりした彼は思わずマコを見る。
彼女の瞳はきらきら輝いていた。
「なるほど…」
(今度は覚悟が違うらしい…この娘…冗談で言ったわけではないようだ)
彼の中に確信に似たものが生まれた。
(ならば、今度こそ…大丈夫だな)
アランの姿を見るマスターの顔は、充足した笑顔となっていた。
「村長を紹介しよう」
「は~~~い」
-青世界 カブキの森入り口-
「さて、準備はいいか?」
トーティアムは左右に立つ面々に声をかけた。
「はい」
キッカは珍しく赤と青のポーションをホルダーに収め、それを腰に巻いていた。
「いいわよ、いつでも」
カリュは静かにそこに立って、森の中を見ている。
「オッケ~です!!」
満タンの矢壷を3つ肩と背に着けたホタルが手をあげた。
「まぁ、廃宮殿まではたいしたことはないから、あんまり最初から入れ込むなよ」
トーティアムはいつもの茫洋とした微笑を見せた。
森の中は薄い乳白色の霧で埋まっている。
視界はそれほど悪くはない。
先頭を行くカリュが、時折右手の大刀を左右に振る。
その度に雑魚モンスターが小さな悲鳴をあげる。
「相変わらず、ここは変な所ね…」
カリュの呟きにトーティアムが応じる。
「ああ、この霧がモンスターどもの気配を希薄にするからな」
カリュ、トーティアム、キッカ、ホタルの順で進んで行く。
「キッカ、防御魔法は軽くていいよ。この辺には大した奴はいない」
「はい」
小さく口のなかで呪文を紡ぎ、両手から4人を包む防御壁を展開しているキッカ。
「廃宮殿の手前には…」
ホタルの声に小さな怯えがある。
「ホタルとカリュでなら、そんなに心配しなくていいよ」
「そうかなぁ…」
「あぁ…そうか。ホタルは前にあいつに惨敗したんだっけ?…大丈夫。俺が保証する」
「当てになるの?その保証…」
キッカがまぜっかえす。
うっとトーティアムが胸を押さえてのけぞった。
「キッカ…あなたのひと言の方が、よっぽど破壊力あるわね」
カリュが相変わらず雑魚モンスターの露払いをしながら、声に笑いを含ませて言った。
「まったくだ」
トーティアムも苦笑しながら、ちらりとホタルの表情を見る。
彼女から怯えが消え、緊張が和らいでいる。
「ママン~~」
「なに?」
「なにじゃないわよぉ!なんで、2人で後を追わなくちゃいけないわけ?」
「しょうがないじゃない。2人しかいないんだから」
「って、アプラナとレキーサはどう~したのよぉ!!」
トーティアム一行を、見え隠れに追尾するママン・セヴィナとシンリィだったが、雑魚モンスターはシンリィひとりで始末しなくてはいけない状態……
「ママンだって、攻撃魔法出来るでしょ~~」
「そんなことしたら、連中に気づかれるわよ?」
「むぅ~~」
「キッカお嬢様は、勘が鋭いんだから、防御魔法だってぎりぎりのところなんだから」
「で、あの2人は~~??」
「シンリィも知ってるでしょ?人探しに行ってて、こっちに来れなかったのよ」
「判ってるってぇ…でもさぁ、これって酷くない?」
「我慢してね♪」
セヴィナはにっこりとシンリィに笑いかける。
「くちょ~~!!しんどいよぉ~~!」
手にした得物で、ひとり雑魚モンスターを屠るシンリィ…彼女が苦情を並べるたびに、死屍累々。
(…ひとりで充分な気がするな)
セヴィナはちいさく紅い唇に苦笑をにじませた。
「あ~~~~もぉ~~~~~面倒くさい!!」
(そっちなのね……)
「あの爆貧コンビ、いつかこき使ってやるぅ~~!!」
(爆貧って……あぁ…胸のことね…)
セヴィナはシンリィに言われっぱなしの、ここに不在の2人に同情していた。
「トーティ…」
カリュに呼ばれる前に、彼女の横に来ていたトーティアムは前進を止めた。
「どうだ?」
「いるわ」
間髪入れずにカリュが応えた。
左手にあるドラゴングラブの爪が鈍く光る。
「ホタル、後方からの援護頼むぞ」
「りょ~かいっ!」
「キッカ、カリュに速度魔法頼む」
「はい」
んで、俺は…っと言いつつ、トーティアムは手荷物から筒を2本取り出し、繋ぎ合わせた。
そして腰のベルトに下げていた、金属製の銃把と筒を合わせる。
彼の手に銃身の長い拳銃が握られていた。
「始まったわね」
セヴィナは、トーティアム等と廃宮殿の門番モンスターとの戦闘開始をシンリィに告げた。
「早いとこ片付いてほしいもんね」
相変わらずごそごそ湧き出る雑魚を叩きながら、シンリィが応じる。
「…でも、あいつ、強いし……」
「まだ怖い?」
「そりゃあねぇ…ホタルと2人でタコ殴りされたし…」
「何年前の話?」
「5年前……」
「成長してるでしょ?」
「できるなら、あいつとは関わりたくないわ…いわゆるトラウマだし」
「ま、私たち2人だけじゃ面倒なだけだし、トーティ達に片付けて頂きましょ♪」
「ですよねぇ~~」
キッカはカリュに速度魔法をかけ、更に防御魔法を強くする。
ホタルは弓に矢をつがえ、弦を目一杯引いた。
トーティアムは油断なく周囲の気配を探る。
そして、カリュは一気に飛び出した!!
廃宮殿の門を護るように、一匹のモンスターがいる。
四足獣のそれは、長い2本の牙と鋭い爪を持っている。
ホタルの放った矢が立て続けに門番の身体に突き立つ!
地を振動させ、霧を渦巻かせる咆哮をあげる門番の眉間に、跳躍したカリュの大刀が振り下ろされた。
門番の背に瘤のような盛り上がりが現れ、ばっくりと割れるとひとの上半身が生えてきた。
『宮殿には一歩も入れぬ!』
門番が地を這うような声で威嚇する。
眉間を叩いたカリュが、そのまま獣の頭を蹴った!
門番に生えた人の手に鋭利な武器が持たれている。
(何時の間に!?)
カリュは蹴った勢いそのままに、一撃を叩き込む!
がいん!
鈍い音がしてカリュの大刀が弾かれた。
が、門番も一歩二歩と後退した。
その間もホタルの矢が、正確な軌道で門番へ放たれている。
前方の門番との戦いとは別に、周囲から現れた雑魚モンスターをトーティアムの銃が撃ちぬいている。
「やるね~~」
シンリィは視界の隅でこの戦いを見た。
「油断しないのよ!」
セヴィナの注意が彼女に向けられたそのとき、不意にシンリィの眼前にモンスターが…いた!
「うわぁ!」
「あ!」
ドキュン……!!
「ん?」
てっきりやられたと思ったセヴィナとシンリィの足元に、今のモンスターが落ちていた。
「な、なんで?」
ハテナだらけのシンリィは、それでも続く雑魚の襲来は手早く片付けた。
セヴィナが離れた位置のトーティアムを見ると、彼が親指を立ててウィンクしていた。
「知ってたのね…」
「へ?」
「トーティに助けられたみたいよ」
「ありゃ、バレバレだった?」
「そうみたい…」
口惜しそうに唇を噛むセヴィナと、感心したように頷きつつ…
まだ文句を言いつつ、雑魚モンスターを倒し続けるシンリィがそこにいた。
一方、キッカは防御魔法と速度魔法を交互に紡ぎだしていた。
「ホタル!」
キッカが叫んだ。
丁度、ホタルが矢を弓につがえたところだった。
「!?」
キッカがホタルに手をかざすと、矢が眩く発光した!
「撃って!」
反射的に弓を満月に引き絞り、ホタルは光る矢を門番に放った!
その間、一瞬!
ホタルの矢が門番の獣の口中に突き刺さる。
ひるむ門番!
再び跳躍すると、カリュはドラゴングラブを門番の『人』めがけて振り下ろした!
転瞬、身体を捻って右手の大刀を下から斬りあげると……
門番は地響きをあげて、その場に倒れ…霧消した。
「いよいよ本番だ」
トーティアムはカリュ、キッカ、ホタルには、セヴィナとシンリィのことは告げず、廃宮殿の門を押し開けた。
「行くぞ!」
彼が真っ先に門の中に入り、カリュ達がそろってその後に続いた。
【続】
主人公はチート?
いえいえ否です…転生者?
んなわけあるか!!(笑)