04 忠誠を誓われた
「ライラ……さん……これって……」
「はわぁぁっ! ライラとお呼び下さいリーゼロッテ様! お願い致します! そうでなければ私は使用人失格です!」
「あ、はい……」
「あの、リーゼロッテ様のドレスは華美に過ぎると裁判の頃に没収されてしまったので! 新しく用意をさせていただきましゅとぁ!」
最後の方は噛んでいたけれど、ライラは一生懸命に言って、私の前にきれいな服の山を置いてくれた。働き者の良い子だ。
「これは……」
「う、あ」
ライラの顔色がみるみるうちに悪くなった。
「ごめんなさいごめんなさいっ! ヴァルター様が『なんでもいい』とおっしゃったから、わたくしが勝手に選んでしまったのですぅ……お気に召しませんでしよね。うう……色合いだけは、リーゼロッテ様に合うように考えたつもりだったのですが……申し訳ありませんっ……」
「待って下さい。私、まだ何も言っていません」
私はあわててライラに声をかけた。
この慌てようは何なんだろう。
大きなテーブルに置かれたのは、紫を主体とした品の良い、なおかつ色気のあるレディのための衣装だ。
貴族のお嬢様というより、ゆったりと優雅な貴族のご婦人方が身に付けるようなドレス。
「なっ……」
思わず声が出た。
これを? 私に?
なんだかものすごく高級そうだ。
それも、何着も。
ライラが震えて言ったのと、私が感動して叫んだのは同時だった。
「な? な、なぶり殺し!?」
「なんてキレイなの!」
「ほえっ!?」
ライラはなぜか驚きで息がとまりそうになっている。
「いいいい、今、なんとっ……」
「あ、え……えっと、あの。とてもキレイだと思いました。この髪と瞳の色に本当にそっくりです。それに品があります」
「ふぇぇぇぇっ!」
ライラの大きな瞳はこぼれ落ちそうなくらい見開かれていた。
「ライラ……は、素晴らしいセンスがあるんですね」
貴族の使用人は貴族だときいたことがある。
平民というか、それ以下の身分だった私には、想像もできないセンスだ。
正直、服なんてこの、蝶の羽より薄そうなスケスケの布以外なら何でもいい。
いくらナイスバディでも、これは卑猥とか下品とかそういう域を超えていると思う。
リーゼロッテっていう人は痴女だったのかもしれない。
袖や裏地ばかりでなく、気品まで持ってきてくれたライラは天才だと思う。
「う……う……国王にさえ、裁判官にさえ、媚びないという……リーゼロッテ様が……このライラを褒めて下さった……」
ライラの小動物みたいな可愛らしい大きな瞳に、みるみるうちに涙が盛り上がった。
「リーゼロッテ様ぁ!!」
「はいぃぃっ!?」
棟上げ前の大工たちの声出しのような威勢の良さで名前を呼ばれて、思わず気をつけの姿勢で返事をしてしまった。
この子、可愛い顔してわりとやるのね!?
「ライラは、リーゼロッテ様の使用人として、心からの忠誠を尽くしておちゅかえすることを、ここに誓いましゅ!」
また噛んでいたけれど、ライラは私の手をとって、涙のたまった目でじっと見つめた。
うーん、熱いなあ。
貴族ってこんなものなんだろうか。
平民とはずいぶん熱量が違う。
でも、ライラの気持ちは嬉しい。
「うん。ありがとうございます」
「はわぁぁぁあっ!」
ライラは胸を押さえて後ろに下がった。
「リーゼロッテ様ッ! 差し支えなければ、わたくしに身支度をお任せ頂いてもよろしいですか?」
「あ、え、うん、はい」
と言っていたら、私はあれよあれよという間に着せ替え人形になっていた。




