03 ライラ
ものすごく恐れられている……。
お化けになったらこんな感じだろうか。
「おはよう、ございますッ!? お目覚めであらせられますか……?」
メイドはビクビクしながら、震える声で尋ねてきた。
「あ、おはようございます」
「ヒィッ! 喋った……」
小声でつぶやいたのはしっかり聞こえている。
人を何だと思っているんだろう。
「あ、あのっ……ちょっと聞きたいんですけれど」
「ヒィッ! 何でもお答えします! だから、どうか、ネズミにしないで下さい……!」
リーゼロッテを何だと思っているのだろう。
私にそんな力はない。
「すみません、たぶんそれ誤解です」
「はぇ?」
女の子は涙のたまった瞳で私を見た。
よっぽど怖かったのだろう。
「震えなくていいので、とりあえず私と話をしてくれますか? ネズミにはしません」
「あ、あ、あっ……はい……」
「じゃあ、……と」
私はまだ薄布一枚のようなひどい恰好であることに気が付いた。
着心地が良すぎて分からなかった。
粉ひき工場でのごわごわした衣服と全然違う。
「できれば、その、この上に羽織るものをいただけますか?」
ぽよんぽよんと揺れる胸元の双丘を見て、メイドは赤面した。
「ハァァァッ! すみませんッ、すぐにお持ちします!」
「あ、急がなくていいです」
という前に走り去ってしまった。
少々、落ち着きはないが、仕事熱心の良い子だと思う。
私は引き返して、さっきまで寝かされていた部屋へ入った。
よく見ると部屋の全てが高級そうだ。
ここは貴族の屋敷に違いなかった。
問題は、どうして私がここにいるかということだ。
「リーゼロッテ……魔女、悪徳の魔女、って……」
金の豪奢な縁取りの鏡の前に立つ。
そこには、深い紫色の髪と瞳の、蠱惑的な美女がいた。
「これが、私ッ……!?」
すべすべした、貴族が食べるパンのような白い肌。
傷一つない手は爪までぴかぴかに磨かれている。
困ったような眉と左目の下の涙ぼくろのせいか、全体的に色気がムンムンしている。
むっちりむっちりした胸元の横からは、完璧に誂えたようにすらりとした腕がついている。
私が人生で見たことのない、美しい身体だった。
「ふわぁ……」
この身体の持ち主、リーゼロッテ。
淫蕩の魔女とけなされていたけれど、本人はどこにいってしまったのだろう。
粉ひき屋で奴隷のように虐げられている私と入れ替わってしまったのだろうか。
この人と私が同じなのは、身長くらいじゃないだろうか。
コンコン、とノックの音がして、私は慌ててハイッと返事をした。
「リーゼロッテ様ッ! お待たせしました、メイドのライラですぅっ!」
先ほど廊下で会ったメイドの子が、羽織り物を両腕に抱えて部屋に入ってきた。




