02 森のお屋敷
次に私が目覚めると、そこは森の王様のお屋敷だった。
(ふわあ〜〜〜お尻が痛くない)
今まで寝かされていたらしいベッドはふわふわで、スプリングがきいている。
馬小屋の藁くさい木の板の寝床とは大違いだ。
(か、掛け布団まであるっ)
没落した男爵の娘だった私は、赤子の頃に父が失踪し、母にも身罷られたらしい。顔も覚えていないが、遠い母方の血縁の裕福な粉挽き屋に下働き要員として引き取られたのだ。
もちろん与えられた待遇は、召し使いかそれ以下だった。
私は寝具の柔らかさと温かさに感動した。
しかし、いつまでもここにいてはいけない。
馬車馬のように働かされ続けた日々が骨身に染み付いていて、目が覚めたら瞬間的に起き上がらなければならないと脳が判断する。
広い部屋だった。
木製の家具を中心としたインテリアに、爽やかな外の空気が香る。
窓の外を見て驚いた。
深緑色の森がどこまでも広がっている。
陽光が射し込んでいるから昼間のようなのに、森が広すぎて、奥の方は鬱蒼として暗いほどだ。
ここはどこなのだろう。
私は周囲を見渡した。
とんでもなく信じられないほどに、性癖にぶっ刺さる男の人に嫁ぐ夢を見た。
しかし、それならこれは、夢の第二弾なのだろうか?
粉挽きやの女将さんに殴られては怒鳴られる日々だった私には、何が現実なのか良く分からない。
木製の重厚そうな扉を開ける。
高級そうな赤い絨毯。
もうこれは家じゃなく、お屋敷だ。
粉挽き屋の女将さんの本邸にお使いで行ったときでさえ、こんなに立派な彫刻や絵を見なかった。
(どこかの貴族の館だ)
私は血の気が引いた。
何の間違いか分からないが、何故か自分が高級な芸術品がごろごろあるような貴族の館にいる。
奴隷として買われたのかもしれない。
内臓を引き摺り出されて、豚に喰わせるとか、そういう目的で連れて来られたのではないだろうか。
気付けば着せられている服も、ものすごく着心地が良い。
もしや、好色変態爺に売られて、抱き枕のような真似をさせられるのだろうか。
堂々と真っ昼間から、どこぞの商人と浮気をして情事に勤しんでいた女将さんの姿が脳裏に浮かんだ。
部屋を出て、長い廊下を歩こうとすると、向こうから歩いてきた人間と目が合った。
私と同じか、少し下くらいの、女の子。
メイドの服を着ている。
彼女はギョッとしたように目を見開いた。
「リ、リーゼロッテ……! 様……」




